「インドには60年続く新聞漫画がある」「社会問題は風刺で描く」映画『マーヴィーラン 伝説の勇者』特濃インタビュー
「新聞漫画<カンニ・ティーヴ>はタミル人にとって非常に親しみ深いもの」
――作中に現れるような新聞連載漫画、それも非常に長く続いているものというのは実際に存在するのでしょうか。一枚絵の政治風刺漫画ではなく、ストーリーが続いていく漫画です。もしあるのならば具体名をあげていただけますでしょうか。
はい、タミル語の日刊新聞で連載されている漫画があります。1日あたり5コマの構成で、毎日読むことができます。この漫画は過去60年間続いており、今では伝説的な存在です。ストーリーはまだ完結しておらず、「カンニ・ティーヴ」(乙女の島)というタイトルです(※4)。
私はこの長期連載漫画からインスピレーションを受けました。劇中の主人公の漫画家は最初から携わっていたわけではなく、途中からの参加です。誰が最初にストーリーを作り、最初の漫画を描いたのかについては、明らかにされていません。「カンニ・ティーヴ」はタミル人にとって非常に親しみ深いもので、現在も<タンディ>というタミル語日刊紙で連載が続いています。
※4:「カンニ・ティーヴ(Kanni Theevu)」はタミル語日刊紙<Dina Thanthi(デイリー・メール)>上で1960年に連載が開始され、描き手はリレーしながら現在も続いている。「千夜一夜物語」の中の船乗りシンドバッドのエピソードを基に創作されている冒険譚。なお本作中に登場する架空の新聞社の名前は<Thanath Thee(デイリー・ファイヤー)>。
கன்னித்தீவுhttp://t.co/hjiWoIWjMF#KanniTheevu pic.twitter.com/S1NnSvEX1a
— DailyThanthi (@dinathanthi) November 11, 2014
――本作の成立において、ローケーシュ・カナガラージ監督の助力があったと読みましたが、具体的にはどんな助けだったのでしょう?
いやいや、実際には彼は手伝っていません。私たちはとても親しい友達なので、よくアイデアを話し合います。私たちはストーリーについて議論するのが大好きで、彼がストーリーを完成させるたびに、私はそれにコメントします。同じように、私がストーリーを完成させたら、彼に話して聞かせ、彼は提案をくれます。つまり、双方向の関係なのです。
彼は『マーヴィーラン』のシナリオも気に入ってくれて、アクション部分に関して多くの意見を寄せてくれて、たいへん有益でした。ローケーシュとのディスカッションはよくあることで、一緒に映画を作っているようなものなのです。『マンデラ』のときも、彼は最後に髭剃り用の剃刀を使った戦いのシーンを入れるように言ってきました。私はそれをやると伝えました(※5)。私が『マーヴィーラン』で多くのアクション・シーンを入れ、アクション・ジャンルに移行したことを彼はとても喜んでいました。
『マーヴィーラン 伝説の勇者』©2024 Shanthi Talkies. All Rights Reserved.
※5:『マンデラ』を実見すると、該当するような場面はない。
「映画を観ている最中に笑い、後から考えるという2段階で、観客とコミュニケーションができる」
――ムルガダース監督やパー・ランジット監督など、さまざまなスタイルで社会的メッセージを娯楽映画にするタミル語映画の活力には圧倒されます。あなたの場合、社会問題を訴えるためにサタイア(風刺、皮肉)は有効な手段であると思っていますか?
そうですね、社会問題を伝える手段としては風刺が最も効果的だと思います。劇場に行ってチケットを買い、自分の人生の問題をずっと見せられるような映画は観たくないでしょう。私は観ませんし、エンターテインメントが欲しい。風刺ならそれが可能です。
劇場で観客を楽しませ、大笑いさせ、楽しんでもらう。そして家に帰った後、笑ったことを振り返って考えてもらう。笑っていたことが実は重大な問題だったと気付いてもらうのです。これにより、映画が終わってからも観客と対話する余地が生まれます。映画を観ている最中に笑い、後から考えるという2段階で、風刺を通じて観客とコミュニケーションができるのです。
問題をストレートに提示するだけでは、こうはいきません。そしてそこにドラマも加えます。個人的に、あまり生真面目な映画は観ません。だからこそ、ユーモアと風刺たっぷりの脚本を書くのです。
『マーヴィーラン 伝説の勇者』©2024 Shanthi Talkies. All Rights Reserved.
――本作のエンディングは2つのパートに分かれていて、最初のパートでは「フィルモグラフィー」として6作品の名前が挙げられています(※6)が、これはどういう意図ですか?
これらは、私がインスピレーションを受けた映画です。前に話したように、私は観て気に入った全ての映画から何かしらインスピレーションを受けるし、それぞれの作品から何かを得るようにしています。
『主人公は僕だった』を観て、「何かの声が聞こえてきて物語が引き出されるようなファンタジー映画を作れる」という確信を得ました。この作品は非常に素晴らしいインスピレーションでした。観始めた時点で、自分が作る映画は全く異なるものになると分かっていました。なぜなら、『マーヴィーラン』はアクション要素がメインで、耳で聞く小説のようなものではないからです。そこから始まり、全てが違うものです。『マーヴィーラン』にはアクションが必要だったのです。
もう一つ、オランダ映画の『OBER』からもヒントを得ましたし、さらに別の映画では建物の崩壊シーンを研究しました。人々の反応や建物に亀裂が入る様子、その処理方法など、私たちが探求したいと思った要素を実際に取り入れました。
※6:本作のエンディングで名前が挙げられている作品は以下の通り。
①『主人公は僕だった』(米:2006年)https://www.youtube.com/watch?v=0iqZD-oTE7U
②『ガンファイター/天からの声』(米:2014年)※第12回札幌国際短編映画祭(2017年)で上映
https://www.youtube.com/watch?v=cWs4WA–eKU
③『OBER/Waiter』 (オランダ:2006年/未)https://www.dailymotion.com/video/x8hqp9u
④『THE FOOL』(ロシア:2014年/未)https://www.youtube.com/watch?v=cy0CgeWWW1w
⑤『カリフォルニア・ダウン』(米:2015年)
▶PrimeVideoで視聴
⑥『THE QUAKE/ザ・クエイク』(ノルウェー:2018年)
▶PrimeVideoで視聴
『マーヴィーラン 伝説の勇者』©2024 Shanthi Talkies. All Rights Reserved.
――色々と教えてくださいまして、ありがとうございました。
7月11日(金)より新宿ピカデリーほかにて公開の『マーヴィーラン 伝説の勇者』は、笑わせ、考えさせ、ともかく楽しませる映画です。どうぞ劇場にいらしてください。
取材・文:安宅直子
『#マーヴィーラン 伝説の勇者』
◥◣予告編解禁◢◤気弱な漫画家 悪徳政治家
《 勇 者 ✒️ 》VS《 死 神 💀 》苦しむ民を救うため
目覚めよ、伝説となれ―!🔥7.11 FRI🎬#新宿ピカデリー 他全国ロードショーhttps://t.co/gyYEkQOGZf pic.twitter.com/PQhWgYzLBA
— 映画『マーヴィーラン 伝説の勇者』7.11公開 (@Maaveeranjp) May 1, 2025
『マーヴィーラン 伝説の勇者』
タミル語映画界のスーパースター、シヴァカールティケーヤンが叫び、抗い、<覚醒>する!
新聞の長期連載漫画「マーヴィーラン」の作者であるサティヤ。気弱な彼は、ゴーストライターとしての立場に甘んじるばかりか、人一倍負けん気の強い母イーシュワリの起こす騒動を収めるのに必死の毎日。そんなある日、住居のある地域一帯が開発対象となり、立ち退きを余儀なくされてしまう。新たな住処として提供された新築の高層マンションに一時は浮かれる一家だったが、そこは恐ろしい手抜き工事の元に建てられた「欠陥住宅」だった!
人を人とも思わない悪徳政治家ジェヤコディ一派が仕切る新築マンションの増築と開発。やがて彼ら一味の魔の手がサティヤの年頃の妹ラージに迫り、彼は意を決して立ち向かうが、すげなく返り討ちに遭ってしまう。自らが描き続ける“マーヴィーラン=偉大なる勇者”との姿のギャップに、屋上から絶望の淵を覗き込んだその後ー奇跡的に生還したサティヤの耳元で、勇壮な「声」が鳴り響くようになる。その声はサティヤを「勇者」と呼び、ジェヤコディを「死神」と呼ぶのだった。「声」の通りに行動すると、ジェヤコディの悪辣な顔が暴かれていくが、波風を立てるのが大嫌いなサティヤは「勇者」の立場を放棄すべく必死の抵抗に打って出る。果たしてサティヤは、真の「マーヴィーラン」として、民衆を苦しめる巨悪に立ち向かうことができるのか!?
監督・脚本:マドーン・アシュヴィン
出演:シヴァカールティケーヤン、アディティ・シャンカル、ミシュキン、スニール、ヨーギ・バーブ
| 制作年: | 2024 |
|---|
2025年7月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開