音楽の力で「逮捕→恩赦(×2回)」された偉人とは?『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』
「ロックの礎を築いた男」を紐解くドキュメンタリー
伝説の12弦ギタリスト、レッド・ベリーをご存知だろうか。5月23日(金)より公開のドキュメンタリーは『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』というタイトルで、もちろんベリーは直接的なロックの発明者というわけではない。だが彼の存在は間違いなく後世の、そして現代のロックスターたちに多大な影響を与えている。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
タイトルのとおりザ・ビートルズやボブ・ディランを筆頭に、トム・ウェイツやウディ・ガスリー、ジャニス・ジョプリン、リトル・リチャードら「レジェンド」といわれるミュージシャンたちが、ベリーからの影響を公言している。作品内でその影響の大きさを証言するアーティストたちの多くが存命ではないが、だからこそ今スクリーンで観られることに感謝すら覚える、そんなドキュメンタリーだ。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
ベリーは商業的に大きな成功を収めたわけではなく、本作は貴重なアーカイブ資料をかき集めて丁寧に作られている。1930年代前後ということもあり、彼があきらかに人種差別的な扱いを受けていることに苦い気持ちにもなるだろう。のちの多くの才能あるミュージシャンと同じく、マネージメントとの権利面、金銭面での揉めごともあったようだ。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
ともあれ、その半生をざっと記した公式ストーリー解説の時点で映画1本分の面白さ&興味深さなので、ぜひ一読のうえ劇場で本編を鑑賞してほしい。観客それぞれの「ロック史」が正しく補完されるであろう、非常に優れたドキュメンタリーである。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
レッド・ベリーってどんな人? 激動の半生と音楽史への貢献
1888年、開拓が始まったばかりのルイジアナでは珍しい核家族の一人っ子として生まれ育ったハディ・レッドベターことレッド・ベリーは早くからギターを学び、10代の頃から出入りしていたシュリーブポートの赤線地区ファニン・ストリートで演奏していたという。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
ダンスパーティでは人気者で、女性にめっぽうもてたことから多くの男たちから反感を買い、トラブルに巻き込まれることもしばしば。初めて刑務所に収監されたときは脱獄に成功したが、2度目はナイフを持って追いかけてくる男を拳銃で殺した罪でテキサス刑務所に投獄された。
しかし、パット・ネフ知事に捧げた曲が気に入られ、35年の刑罰から2年で釈放。その後、アンゴラ刑務所にも収監され、そこで民族音学者ジョン&アラン・ローマックス親子と出会う。アメリカン・ブラック・ソングのルーツを探していた彼らはレッド・ベリーの音楽性に魅了され、O・K・アレン知事に恩赦を求める歌を録音するなど陳情に協力、レッド・ベリーは再び釈放された。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』©2024 House of Lead Belly
以降、レッド・ベリーはローマックス親子の歌の収集・録音の手伝いを申し出て、刑務所ツアーなどのアシスタントとして参加。その後、ニューヨークへ移住し、ローマックスによって世界に紹介されたレッド・ベリーの音楽は観客を熱狂させた。
レッドベリーは、当時のアメリカの黒人に「自分がいる場所から抜け出せる」と見本を示した。1949年に61歳で逝去した後も、彼の曲は多くのミュージシャンによってカバーされ、新たな音楽が生まれ続けている。
『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』は5月23日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開