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『007』ジェームズ・ボンドの原型はヒッチコック映画にあった?サスペンスの神様が“憧れ”を投映した主演俳優とは

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ライター:#谷川建司
『007』ジェームズ・ボンドの原型はヒッチコック映画にあった?サスペンスの神様が“憧れ”を投映した主演俳優とは
『北北西に進路を取れ』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
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一本限りのヒッチコック映画スター②:レイ・ミランド

『失われた週末』(1945年/ビリー・ワイルダー監督)でアカデミー主演男優賞を受賞したレイ・ミランドもまた、ヒッチコック作品への出演は一本限りのスターだ。

『ダイヤルMを廻せ!』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

 

作品は『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)で、引退を決意したテニス選手が第二の人生を始めるに際し、浮気していた妻を殺害してその資産を手に入れようとする、という悪役を演じた。もちろん、完璧と思っていた殺害計画も思わぬところからほころびが出て……という展開となることは言うまでもない。

『ダイヤルMを廻せ!』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

実は、ヒッチコック監督自身はその役に、お気に入りスターのケイリー・グラントを欲していたものの、ワーナー側がグラントに悪役は似合わないと考え、似たタイプの英国出身のスターであり、グラントよりもやや暗い影を感じさせるミランドを主演に立てたという。

『ダイヤルMを廻せ!』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

結果的には、やはりグラントが演じていたとしたら、ヒッチコックが「こうありたい」と思う主人公とは違う立ち位置になってしまっていたわけだから、ここはやはりレイ・ミランドで正解だったというべきだろう。

1960年代以降はAIP(American International Pictures)のB級ホラー/SF映画などへの出演が多くなったミランドだが、『ダイヤルMを廻せ!』の印象が強かったためか、晩年の代表作としてはTV映画『刑事コロンボ/悪の温室』(1972年)の犯人役がある。いうまでもなく『刑事コロンボ』では有名スター演じる犯人たちの企んだ完全犯罪が、ピーター・フォーク演じる冴えない風体のコロンボ刑事によって暴かれていくというのがお決まりの展開だった。

一本限りのヒッチコック映画スター③:ヘンリー・フォンダ

ケイリー・グラントやジェームズ・スチュアートと同世代の名優ヘンリー・フォンダもまた、ヒッチコック作品への出演は一本限りだった。作品は『間違えられた男』(1956年)で、実話をベースにしたドキュメンタリー・タッチの作品という点で、ヒッチコック作品としては異色作。だからこそ、ハリウッドスターとしての煌びやかなオーラのあるグラントやスチュアートではなく、名優だけれども派手さが微塵もなく、ニューヨークの舞台を自らの活躍の場としていたヘンリー・フォンダの出番だったはずだ。

『間違えられた男』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

安アパートに家族と暮らすしがないミュージシャンの主人公が、金策のために訪れた生命保険会社で、以前その会社を襲った強盗に似ていることから警察に通報され、犯人扱いされてしまう。もちろん冤罪なのだが、身の潔白を証明するのに記憶をたどってアリバイを証言してくれる人を探すものの見つからず、そのうちに夫のことが原因で精神不安定になった妻は、とうとう療養所に収容されてしまう――という悪夢が描かれる。

『間違えられた男』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

日本でも冤罪事件の再審請求のニュースなどが今でも後を絶たないが、警察の思い込み捜査、曖昧な記憶なのに「間違いなくあいつが犯人だ」と決めつける目撃者、といった“誰にでも実際に起こりうる悪夢”を体験させられる主人公には、確かな演技力を持ちつつも派手さが全くないフォンダのような舞台の名優をおいて他に誰がいるだろうか!

『北北西に進路を取れ』の主人公は『007』のプロトタイプだった?

さて、一回限りのヒッチコック作品スターではなく、最多主演スターのケイリー・グラントのことを、ヒッチコックが「こうありたいけれども絶対に自分はこうなれない」憧れの存在として描いていたことは既に述べた。つまり、ケイリー・グラントは理想のヒーロー像ということ。――その延長上にある存在というのが、実は“007”こと英国秘密諜報員ジェームズ・ボンドなのだ。

英国イオン・プロが『007』シリーズの製作を開始したのは1962年、作品は第1作が『007は殺しの番号』(後に『007/ドクター・ノオ』と改題)で、主役は当時無名のショーン・コネリーだった。だが、実はコネリーよりも前にボンド役にオファーされていたのはケイリー・グラントで、それは彼がヒッチコック作品『断崖』(1941年)、『汚名』(1946年)、『泥棒成金』(1955年)、そして『北北西に進路を取れ』(1959年)で演じた主人公こそがジェームズ・ボンドのイメージそのものだったから。

『北北西に進路を取れ』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

グラントはイオン・プロのプロデューサー、アルバート・ブロッコリがダナ(現プロデューサーのバーバラ・ブロッコリの母)と結婚した際のベストマン(花婿付添役)を務めたほどブロッコリとは親しく、ボンド役をオファーされた時には「シリーズ物はやりたくないけれど、一本だけなら演るよ」と答えたというが、始めからシリーズを想定していたイオン・プロはグラントを断念している。

『北北西に進路を取れ』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

実際、初期の『007』シリーズがグラントを念頭に置いていたであろうことは明白で、『007/危機一発』(後に『007/ロシアより愛をこめて』と改題)でボンドがヘリコプターに追われるシーンなどは、『北北西に進路を取れ』でグラントが複葉機に追われるシーンをそのまま再現している!

文:谷川建司

『ダイヤルMを廻せ!』『北北西に進路を取れ』『間違えられた男』『見知らぬ乗客』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「黄金のベスト・ムービー:ヒッチコック傑作選」で2025年4月放送

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