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「天才殺人鬼は実在しない」「ある意味、映画は絶滅の危機」記録的ヒットの超話題ホラー『ロングレッグス』監督が語る

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ライター:#BANGER!!! 編集部
「天才殺人鬼は実在しない」「ある意味、映画は絶滅の危機」記録的ヒットの超話題ホラー『ロングレッグス』監督が語る
『ロングレッグス』© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
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「自由に楽しそうに演じるニックの姿に、他のキャストたちが感激していた」

――ロングレッグスのキャラクター像は強烈で、少しでも失敗すると滑稽なピエロのようになってしまいそうですが、本当に恐ろしく感じました。ニコラス・ケイジの名演には誰もが驚くでしょう。ケイジにロングレッグスを演じてもらう上で、どんな話をしましたか? 彼は自分からどんどんアイデアを出すと聞きますが、本作ではいかがでしたか?

とにかくニコラス・ケイジに出演してほしかったし、そして彼が引き受けてくれて本当に幸運でした。なにしろ他に替えが利かないわけですから。確かに彼はたくさんアイデアを出してくれるんですが、それは作品のためであって、自分のエゴというわけでは全くないんです。

実際「あなたはニコラス・ケイジなのだから、何だったらセリフを全部燃やしてアドリブで演じてくれても構いません」とまで言ったんですが、とても落ち着いた様子で「いやいや、すべて(セリフ通りに)演じさせてもらうよ」と言ってくれました。「そのために僕はここにいるんだから」と。その日は監督としてとても嬉しい日でしたね。

ニックは作品を自分のもたらすもので満たすためにそこにいて、自分の持てる知性や精神、喜びといったものすべてを作品に注ぎ込んで貢献してくれる、そういう人なんです。そして本作では、役柄としてはグロテスクで歪んでいて怖いものではあるんですが、演技という意味では本当に自由に、喜びをもって楽しそうに幸せそうに演じてくれた。そんなニックの姿を見て「すごく感激した」というキャストがたくさんいたんです。それもすごく嬉しかったですね。

マイカ・モンロー、オズグッド・パーキンス監督、ニコラス・ケイジ、アリシア・ウィット、ブレア・アンダーウッド 『ロングレッグス』© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

「インビジブルな空間、ネガティブスペースをいかに使うかというアプローチ」

――本作は、中央にいる人物の左右に奥行きのある対称的な背景がたっぷり映っている画角が多く、後ろの「空間」から何か恐ろしいものが飛び出してくるのでは? と想像させられます。いくつかのシーンでうっすら現れる「ツノの生えた影」も含めて、そうした空間に恐怖を含ませる意図はありましたか?

シドニー・ルメットの本だったと思うんですが、『羅生門』(1950年)のオープニングショットのフレーミングについて聞かれた黒澤明監督が、当たり前のような感じで「右にはホンダの工場、左にはトヨタの工場があったから仕方なかったんだ」と答えていて。これはジョークのようだけれど半分は真実で、実用的な理由ということなのだと思います。

『ロングレッグス』のカメラマンは同じ感覚を共有している信頼できる人で、レンズについては事前にイメージしつつスタンリー・キューブリックも敬愛しているので、彼がよく使用していた70mm、80mm(のサイズ)を意識しました。画角に関して言うと、人物の頭上に空間がないと落ち着かないんです。なぜ他の映画作家が同じようにしないのか不思議ではあるんですが、それが私の世界の見方であって、むしろ差別化されるので喜ばしいところでもあります。

これは誰が言ったものか忘れましたが、「すべての重要なものは見えないものである」というような言葉があります(※「星の王子さま」……?)。私はキャラクターの周囲の“見えない部分”に幽霊などが潜んでいるのではないかと考えて、今回はインビジブルな空間を多用しました。最近あらためて黒澤監督の『天国と地獄』(1963年)を観直したんですが、大きな余白のある画角が素晴らしかった。だからネガティブスペースをいかに使うか、というのが今回のアプローチでもあります。

ちなみに正確な数は把握していないんですが、角の生えたクリーチャーの影は十数回登場するので、あらためて観ていただければ幸いです。

『ロングレッグス』© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

……本作はT-REXの曲がたびたび流れるが、ロックミュージックと悪魔崇拝の関係はチャールズ・マンソンや『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)などを想起させる。ニコラス・ケイジ演じる怪人は登場シーンがかなり限られているにも関わらず、終始スクリーンを支配する存在感が本当に恐ろしい。オズ監督の実の娘(ベアトリクス・パーキンス)との共演シーンは、笑っていいのか一瞬バグってしまうシュールさだ。

『ロングレッグス』© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

そして作品前に異なる魅力を見せてくれるマイカ・モンローは、社交性に乏しい捜査官リー・ハーカーの持つ超人的な能力を抑えた演技で見事に表現。母と娘の関係も大きなテーマの一つとなっていて、アリシア・ウィットが怪演するハーカーの母の恐ろしすぎる挙動が、じっとりと記憶に絡みついて離れない。

本気で怖いスリラー/ホラーを大きなスクリーンで観たい人、とにかくヘンな映像を大量に浴びたい人、ゾクゾクするようなミステリーを堪能したい人、ニコラス・ケイジの怪人ぶりを確認したい人、「うわっ!」と声が出るほどびっくりしたい人……。本作を劇場で観れば、シーンの隅々まであーだこーだと語り合いたくなること請け合いである。

『ロングレッグス』は3月14日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

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