「ヒャッハー無しのマッドマックス」「A24ビンゴの大穴」!? ドライに泣かせる暴力映画『奪還者』の魅力
クルマに執着する謎の男、その真の目的とは
オーストラリア資本で作られた本作の舞台は、世界経済崩壊から10年後の世界。鉱物資源を求める無法者たちの巣窟と化した、『マッドマックス』ほどのヒャッハー感はないオーストラリアの荒野だ。観ていて口内がパサパサになりそうな状況で、孤独な放浪者エリックは命より大切な愛車をヘンリー率いる強盗団に奪われてしまう。
エリックは愛車を奪還すべく、強盗団を執拗に追跡。あまりの執着ぶりに観客が「?」と感じ始めた頃、エリックはヘンリーの弟で瀕死の重傷を負った男レイと出会う。粛々と目的に向かって突き進むエリックと、良くも悪くも純粋なレイとの、文字通り傷だらけ土埃まみれの珍道中が始まる――。
『奪還者』© 2013 Rover Film Holdings Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW and the South Australian Film Corporation
静かにドライに次々と人が死んでいく不思議なバイオレンス映画
愛車を奪われるエリックをガイ・ピアースが、強盗団を率いるヘンリーをスクート・マクネイリーが、そしてその弟のレイをロバート・パティンソンが演じる本作。エリックは被害者なのだが銃にも怯む様子はなく、ある意味ヘンリーら強盗たちよりもヤバい輩であることが冒頭から示唆される。かたやレイはゾンビのようにヨボヨボの状態で登場し、なし崩し的にエリックと行動をともにする。
本作はエリックをベタな悪人のようには描かないものの、目的のためならサクッと殺しもする“ズレた”男として中盤過ぎまで泳がせる。それがレイとの出会いによって変化の兆しを見せ、まるで親子か兄弟のようにお互いを気遣いながら行動を共にするようになる。とはいえ状況が状況だけに、その珍道中は悲劇的な最期を迎えることに……。
『奪還者』© 2013 Rover Film Holdings Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW and the South Australian Film Corporation
パティンソンは本作への出演をオーディションで勝ち取ったそうで、見るからに生き生きと演じている。それがレイとしての無垢な魅力につながっているように見え、のちの『グッド・タイム』(2017年)などにも通じるズタボロ演技の原点と言えるかもしれない。本作の前年までヤングアダルトな『トワイライト・サーガ』シリーズに出演していたので、その変わりっぷりに驚いたファンも多いだろう。
そして監督が『アニマル・キングダム』(2010年)のデヴィッド・ミショッドと知って、この淡々ドライなバイオレンスにも妙に納得。気だるい午後や眠れない夜にダラリと観たい、しかしどのシーンも見逃し厳禁な隠れた秀作である。
『奪還者』© 2013 Rover Film Holdings Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW and the South Australian Film Corporation
『奪還者』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年2月放送
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