「アンチヒーロー」とは何か
アンチヒーローに惹かれる。もちろん、ここ10数年にわたって映画館を賑わせているさまざまなコミック・スーパーヒーローたちも魅力的ではあるし、彼らが世のため人のために理想をかかげて戦うさまには毎度毎度グッとくる。しかしコミック・ヒーローの映画であっても、たまには善悪のあわいを行ったり来たりする、一筋縄ではいかない連中の物語が観たくなるのだ。
アンチヒーローとは何か。その条件は意外と細かく定められているのだが、大まかにいえば
・目的のためには手段を選ばないこと
・反体制的であること
・(自分なりの)正義をなそうとしていること
・性格的に問題を抱えていること
・あと、見た目が「悪い感じ」であること
などなどが挙げられる。
気をつけたいのは、彼らがカネや権力、その他もろもろを得るために悪事を行う、いわゆるヴィラン(悪役)とは明らかに異なる存在であるということだ。私利私欲で社会規範を破るわけではない。かといって大方のヒーローたちが持つ道徳規範もまた備えていない。そして概ねワルっぽい風貌をしている(ので格好いい。ここが重要なところである)。こんなあたりでアンチヒーローの何たるかはご理解いただけるのではないだろうか。
そこへやってきた『クレイヴン・ザ・ハンター』である。クレイヴンは1964年、コミック「アメイジング・スパイダーマン」誌15号にて初登場したヴィランだ。ちょっと待て、アンチヒーロー云々といったくせに結局ヴィランやないかと思われるかもしれないが、もう少しお付き合いいただきたい。
スパイダーマンの古参敵、常軌を逸したクレイヴンの魅力
原作の設定では旧ソ連の没落貴族の出である、クレイヴンことセルゲイ・クラヴィノフ。世界有数のハンターで、最強の獲物たるスパイダーマンを狩ることに命をかける。「アメイジング・スパイダーマン」の創刊が1963年のことだから、古参中の古参ヴィランといえる。何しろドクター・オクトパス、ミステリオ、ヴァルチャー、サンドマンやエレクトロとともに、悪の同盟シニスター・シックスの創立メンバーに名を連ねたほどの大物だ。
In honor of Kraven’s return in “Amazing Spider-Man” #16, explore four of the best tales featuring the world’s greatest hunter: https://t.co/WK3MOtzxmf
— Marvel Entertainment (@Marvel) March 1, 2019
この愉快な仲間たちにはそれぞれ悪のモチベーションがあるわけだが、わけてもヴィランとしてのクレイヴンを特異なものとしていたのはその行動原理であった。なにしろ猛獣を相手にしても武器を使わず、あくまで素手で仕留めることを信条とするハンターである。そんな男がとにかくスパイダーマンを打倒しないことには狩猟道を極めたとはいえぬ、と迫ってくるのだから、どうにも常軌を逸していた。
映画はそんな最強ハンター、クレイヴンの誕生秘話を描き出す。初登場から結構なオッサンであった原作に比べると、映画のクレイヴンはなかなか若い。そしてハンサムである。次期ジェームス・ボンド役としてたびたび噂にのぼるアーロン・テイラー=ジョンソンの魅力が漲っている。最近では『ブレット・トレイン』(2022年)や『フォール・ガイ』(2024年)でひと癖以上ある奇人に嬉々として扮しているジョンソンだが、今作では頭のネジが外れた親父(※後述)との関係に悩み、大自然だけを友とするハンターを静かに演じている。そして毎度思うことだがもの凄い身体をしている。どうにも底知れない男である。
『クレイヴン・ザ・ハンター』
冷酷な父親(ラッセル・クロウ)と狩猟に出た際、巨大なライオンに襲われたことをきっかけに、百獣の王の力を体に宿し容赦なきハンターと化したクレイヴン。狩りの対象は、金もうけのために罪無き動物を狩る人間たち。一度狙った獲物は確実に仕留めるまで、あらゆる手段を使ってどこまでも執拗に追い続ける。次々と狩りを実行し、彼らを動かす大きな組織へと近づいていくが・・・。立ちはだかるのは、全身が硬い皮膚に覆われた巨大な怪物ライノ。さらに、病弱な身体を持つ最愛の弟が危険にさらされたことでクレイヴンは激昂。やがて裏の世界の殺戮者と呼ばれる自らの父親と対峙することになる。激しくエスカレートする怒りと共に、暴走していく狩りが行きつく先は――?
監督:J・C・チャンダー(『トリプル・フロンティア』『マージン・コール』)
脚本:アート・マーカム&マット・ホロウェイ(『アンチャーテッド』『アイアンマン』)、リチャード・ウェンク(『イコライザー』シリーズ)
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン(『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』『ブレット・トレイン』)、アリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)、フレッド・ヘッキンジャー(11/15公開『グラディエーターII』)、アレッサンドロ・ニヴォラ(『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』)、クリストファー・アボット(『哀れなるものたち』)、ラッセル・クロウ(『ソー:ラブ&サンダー』『ヴァチカンのエクソシスト』)
制作年: | 2024 |
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2024年12月13日(金)より日米同時公開