賛否両論の嵐! 稀代の変態監督ラース・フォン・トリアーが殺人鬼を描く超過激作『ハウス・ジャック・ビルト』は至高芸術か嫌がらせか!?
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)で多くの映画ファンを絶望のどん底に突き落とした、悪名高きラース・フォン・トリアー監督の最新作『ハウス・ジャック・ビルト』。
クールなビジュアルに惹かれて観ると強烈なカウンターパンチが飛んでくる、人としての倫理観が試される超問題作だ。
映画ファンに敬愛され忌み嫌われるクセ者監督の最新作!
映画界の鬼才、いや鬼畜、嫌われ者? ことラース・フォン・トリアー監督。トリアー作品の中では『ドックヴィル』(2003年)と『メランコリア』(2011年)が大好きな私ゾニーが、待望(?)の新作『ハウス・ジャック・ビルト』を観てきました!
『ハウス・ジャック・ビルト』© 2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31,ZENTROPA SWEDEN,SLOT MACHINE,ZENTROPA FRANCE,ZENTROPA KÖLN
そこまで映画に詳しくないという人は、“ラース・フォン・トリアー”と聞いても「……誰だっけ?」くらいの印象だろう。しかし、あのビョークが主演した鬱映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督と聞けば、思わず苦々しい顔で「あぁ、あの!?」とリアクションしてしまうはずだ。
そんな監督が新たに世に放った『ハウス・ジャック・ビルト』は、建築家気取りだが中身のない空っぽな男・ジャック(マット・ディロン)の、12年間にわたる連続殺人を5つに分けて描いていく。男性が主人公のトリアー作品は『ヨーロッパ』(1991年)以来とのことだが、ジャックが殺す相手はほとんどが女性だ。
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悪いこととも思わず淡々と人を殺すジャックは、家を建てることと殺人に執着する最低最悪な男。特に規則性もなく、ただただ不快な殺人シーン、カナダの天才ピアニスト、グレン・グールドの映像をバックに揚々と芸術を語るも中身は空っぽなジャック……その節々から、トリアー監督自身の人間性が垣間見えるような感覚をおぼえた。
自己矛盾や葛藤から謎の説得力を生み出す老獪さ
芸術には、それぞれ新しい扉を開くやり方があるのだと思う。扉をぶっ壊すほどの衝撃、それまで感じたことのないような多幸感、未知なるグロテスクの追求、タブーと向き合うこと……。しかし、今回のトリアー作品における扉の壊し方は異常なほどエゲツなく、美しく、苦しい。
『ハウス・ジャック・ビルト』© 2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31,ZENTROPA SWEDEN,SLOT MACHINE,ZENTROPA FRANCE,ZENTROPA KÖLN
監督は、この映画の中に現実的な問題や意味のあるメッセージは込めていないだろう。ただし、登場人物の言うことなすことに対し「監督自身の考えでは?」と解釈されるのを嫌がる一方で、本作の主人公ジャックについては「僕の一部だ」と語っている。この映画を観ていて、その“矛盾”に理屈ではない説得力を感じてしまった。
本作はカンヌ映画祭で上映され、途中退席者が続出したという。その気持ちは十分わかるが、CGを一切使っていないドラクロワの<ダンテの小舟>の映像美は素晴らしい! そこまで観たら、あと少し!! 果たして主人公ジャックが建てる家とは? 彼の行き着く楽園とは……?
『ハウス・ジャック・ビルト』© 2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31,ZENTROPA SWEDEN,SLOT MACHINE,ZENTROPA FRANCE,ZENTROPA KÖLN
とても疲弊する152分間だったが、終わった後には不思議とまた観たくなってしまった。もしかして俺、変態!?
文:ゾニー(KING BROTHERS)
『ハウス・ジャック・ビルト』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送