冷戦、亡命、再会。時代に引き裂かれた男女の運命の15年『COLD WAR あの歌、2つの心』カンヌ映画祭 監督賞受賞

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ライター:大倉眞一郎
冷戦、亡命、再会。時代に引き裂かれた男女の運命の15年『COLD WAR あの歌、2つの心』カンヌ映画祭 監督賞受賞
『COLD WAR あの歌、2つの心』
激動の時代に愛を貫こうとした男と女を描き、第91回アカデミー賞で3部門にノミネートされた『COLD WAR あの歌、2つの心』が2019年6月28日(金)から公開される。冷戦に揺れるポーランドで咲いた一つの恋を音楽やダンスで彩りながら、あえて静謐なモノクロ映像で描いた力強い物語だ。

民族自決、民族主義の落とし穴

第2次大戦後、民族自決を掛け声に多くの国が独立した。経済的な余裕よりも民族の誇りを取ったケースも多かったであろう。宗主国の側も金と手間のかかる統治よりは、むしろ独立させた上で、経済的支配を強めたほうがいいという判断もあったはずだ。

独立した国は、同じ文化を持った人間だけの国ができたと喜んだ。だから、世界中の国々で民族文化を誇らしく歌い上げ、踊る民族音楽・舞踏が花咲き、我々もそれまで聴いたことがなかったリズムに心を躍らせることができるようになった。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

しかし、話はそこで面倒になる。民族自決で独立した国の人間が100%、同じ民族であるはずがないからだ。民族自決は少数民族を迫害するいいきっかけになる。さらに、それが高じて国粋主義に走ってしまうと、ナチスドイツを激しく非難していたにも関わらず、どうも似たようなことが起きているのではないかと疑うようなことが起きる。

おかしな話だが、冷戦の時代は“国”というアイデンティティを固めるために、民族よりも国優先で国家運営がなされていたが、冷戦が終わると第二次民族自決モードにスイッチが入り、世界各地で悲惨な内戦が繰り返されるようになってしまった。「俺たちってアイツらより全然イケてる」という無意味な優越感は大変危険だ。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

……と、話は地滑り的にズレまくってしまったが、それをどこか頭の隅に置いてこの映画を観ていただけると、一層この100点満点の作品の味わいが深くなるのではなかろうかと、勝手に信じております。

さて、ポーランドの近代史・現代史は複雑で、10世紀から国として認知され、一時は広大な領土を持つ国家であったが、時代が進むにつれ侵略を受け、分割され、消滅してしまった。第二次大戦後もすぐには独立できず、1952年になってようやくソ連の衛星国として独立を果たした。

歓喜の歌声から、けだるいジャズへ

時は1949年、まだ正式な独立前ではあるが、ピアニスト、ダンス教師、管理者(嫌な言葉)の3人が各地を歩き回り、ポーランドの民族音楽を収集し、才能のある若者を選抜し鍛え上げ、国立の舞踏団を作り上げた。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

民族の誇りを表現するのだから、国を背負った使命感と努力は確実に歌と踊りに力強さを与え、笑顔は当然咲き誇るバラのような美しさ。素晴らしすぎる。涙が溢れるくらいに感動する。このまんま全編これで通してもらいたいと切実に願ったが、タイトルは『COLD WAR』だから、そんなに単純であるはずがない。

どこか妖しい雰囲気を漂わせた団員の少女にいつの間にか心を奪われ、激しい恋に落ちたピアニストは、“管理者”に国家指導者ヨイショ踊りや歌を強要され、すっかり嫌気がさしてフランスへ亡命する。その時、少女はどう動くか。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

フランスでポーランド民族音楽の曲を弾いて暮らしていけるわけがないので、場末のバーでピアノ弾き。毎日なんのために生きているんだか、と、そこへ ―

スローなジャズバラードは、こういう場面のためにある。民族自決の歓喜の歌からの驚異的な転換は映画史に残るのではないか。ああ、女の心は男にはわからない。そして、男の切実な思いを女はすくい上げてくれない。いや、人の心は誰も完全に理解することなど不可能である。それでも、期待してしまうのが人を愛するということなのかしら。

モノクロームとカット割りの驚愕的な残像

ストーリーも100点だが、映像も100点。文句いう奴がいたら俺が受けて立つ。本来なら民族衣装は色が咲き乱れるきらびやかなものだからカラーで見せたいと思うはずだが、あえてのモノクローム。彩りの美しさが勝ちすぎることを避け、監督は色を消したのだとばかり思っていたら、ちょっと違った。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

パヴェウ・パヴリコフスキ監督は「ポーランドは破壊された。街は廃墟と化し、田舎には電気さえなかった。人々は暗い灰色の洋服を着ていた」と語っている。そんな時代を描くのに「鮮やかな色を見せようとしたら、それは嘘になる。モノクロの方が率直で、誠実な伝統のように感じた」そうである。

なるほど。「リアリティ」の問題だった。しかし、色のない舞踏のシーンは華やかさと儚さを感じさせ、監督の意図以上の効果をあげている。美しい。

さらに、大きく場面が転換するたびにカットが変わる。当たり前だが、そのカットのタイミングが絶妙で、まだ人物の動きが完了していないところでいきなり切れる。えっ!? と思うと暗転する。余韻を残したまま次のシーンへ移っている。ん、ここはどこだ、いつのことだと彷徨う観客。説明をせず、観る側にギャップを埋めさせる。

『COLD WAR あの歌、2つの心』

私たちの人生は、人に語れることがあったとしても、全てのことを説明できるわけがない。映画でも同じだ。説明されるとうんざりする。人生不可解なことばかりで構わない。今でも最後のシーンを頭の中で反芻し続けている。アカデミー監督賞、外国語映画賞、こちらのモノクロ作品でもよかったんじゃないか?(意地になって、まだ『ROMA/ローマ』観ておりません。恥ずかしいかも)

文:大倉眞一郎

『COLD WAR あの歌、2つの心』は2019年6月28日(金)より公開

『COLD WAR あの歌、2つの心』

冷戦に揺れるポーランド。歌手を夢見るズーラとピアニストのヴィクトルは音楽舞踊団の養成所で出会い、恋におちる。だが、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、パリに亡命する。ズーラは公演で訪れた先でヴィクトルと再会、幾度かのすれ違いを経て共に暮らし始める。しかし、ある日突然ズーラはポーランドへ帰ってしまう。あとを追うヴィクトルに、思いもかけぬ運命が待ち受けていた。

制作年: 2018
監督:
キャスト:
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