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交代制の男はツラいよ! 多重人格モノの新潮流『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は恐怖心をじわりとくすぐる

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ライター:#BANGER!!! 編集部
交代制の男はツラいよ! 多重人格モノの新潮流『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は恐怖心をじわりとくすぐる
『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved
『ベイビー・ドライバー』の“天才ドライバー”役でブレイクした期待の新人アンセル・エルゴートが主演最新作『ジョナサン -ふたつの顔の男-』で演じるのは、世にも奇妙な多重人格者! 儚くアンニュイな存在感と確かな演技力でハリウッドで引っ張りだこ状態のアンセルが、性格真逆の青年2人の駆け引きを緊張感たっぷりに演じ分ける!!

多重人格映画のセオリーを裏切る新鮮な物語

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

普段の生活において“多重人格”という症状に触れる機会はそうそうあることではない。だからこそ、どうしても“それ”を映画のテーマにすると、サスペンスやホラー、あるいはバイオレンスものになりがちだ。実際、温厚だった隣人が突然キャラ変して襲ってきたら……なんて考えるだけで、もう部屋中の鍵や雨戸を閉めきっても失禁必至の怖さである。

ところが『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は、そんな多重人格モノのセオリーを良い意味で裏切る方向性の作品だった。ざっくり説明すれば、“おれがあいつであいつがおれで”もしくは「ドラゴンボールZ」の“フュージョンを1人でやる”お話、といったところか。こんな説明じゃあ全く伝わらないかもしれないが、ほんとにそんな感じのお話なのである。

近未来の多重人格 キャラ変とんでもシステム

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

主人公のジョナサンを演じるのは、『きっと、星のせいじゃない。』(2014年)や『ダイバージェント』シリーズ(2014年~)などヤングアダルト小説原作映画で頭角を現し、エドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』(2017年)で業界内外から絶賛された新鋭アンセル・エルゴート。彼が演じるジョナサンは、毎日AM7時に起床してPM7時に寝るというお年寄りのような生活を死守する超絶几帳面な男である。

そのスケジュールには理由があって、脳内に埋め込まれたタイマーでもう一つの人格に切り替えているのだ。PM7時からAM7時までの“夜勤”を担当するのは、社交的で奔放な青年ジョン。ジョナサンは真逆の性格のジョンと肉体/生活を平和に共有するためにいくつかのルールを設けており、その中には“恋愛禁止”など、下半身を持て余し気味な若者にはキビシいものも……。

そんな設定が劇中で語られるうちに、なんとなく展開が読めてくる。「ははーん、ジョンがルールを破ってジョナサンに迷惑かけるんでしょう?」と、まあ大まかにはその通りだが、脳内のタイマーで人格を切り替えている限り、ジョンの逸脱にも限界がある。しかも、たいした説明もなく“脳内タイマー”なんていうトンデモ設定が飛び出してくる強引さで地味に予想を裏切ってくるのだ。

超絶几帳面アンセル vs パリピ半裸アンセル

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

予告編からもわかるように、物語はほぼ100%ジョナサンの視点で語られ、ジョンの様子はお互いが1日を報告し合う日課のビデオメッセージから察するしかない。情報が偏っているのでどうしてもジョナサンに肩入れしてしまうのだが、そうして観客にミスリードさせることも監督の狙いなのだろう。というか、いつも半裸で乱れ髪がエロいジョンが小さな画面越しにしか拝めないなんて……と、セクシーなアンセルを拝みたいファンはやきもきさせられるはずだ。

ぴっちり横分け系のジョナサンと、いわゆるパリピ系のジョン。健康に気を遣う健全な体を弄ばれている気分になったのか、ある出来事をきっかけにジョナサンは“告発”をはじめる。そのきっかけになるのがスーキー・ウォーターハウス演じるエレナなのだが、アンセルとスーキーが共演してラブ要素ナシなわけもなく、まさかの筆おろしネタまでぶっ込んでくるのでお楽しみに。アンセルのこういうネタ、今後は見られなくなりそうだから!

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reservedまた、ときおりリップノイズや呼吸音が妙に強調されていて、まるでASMR(いわゆる音フェチ動画)を意識しているかのよう。約90分間ずっとアンセルの顔を拝めるうえに音でもサービスするなんて、本作が長編デビューというビル・オリヴァー監督は結構な変態かもしれない。とはいえ、これに関しては「フンフンスースーうるさいな……」と煩わしく感じる人もいるだろう。

真の結末は自分で考えろ! な余韻テイクアウト系映画

本作は鑑賞後にモヤモヤが晴れない、いわゆる“余韻テイクアウト系映画”である。強烈な二面性を描いたほうが明らかに分かりやすかったはずだが、オリヴァー監督は安易にウケ狙いに走らなかった。もっとも親しい者同士の愛憎、ひいては自己愛の要素も盛り込んで、多重人格という“大ネタ”を存分に活かしきったのは見事だ。もちろん、繊細な陰と陽の演技を披露したアンセルにも拍手を!

『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は2019年6月21日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

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『ジョナサン -ふたつの顔の男-』

“午前7時と午後7時”に切り替わる、ふたつの異なる人格。すべては完璧にコントロールされているはずだった…。観る者を翻弄する、脳<ノー>コントロール・スリラー。

制作年: 2018
監督:
出演: