世界一の美女(?)を拝みにインドの映画館へ 豪華絢爛『パドマーワト 女神の誕生』

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ライター:大倉眞一郎
世界一の美女(?)を拝みにインドの映画館へ 豪華絢爛『パドマーワト 女神の誕生』
『パドマーワト 女神の誕生』©Viacom 18 Motion Pictures ©Bhansali Productions
私が最初にディーピカー様に出会ったのは2007年11月9日のこと。会社を気持ちよく清算して、晴れて無職となった私は久しぶりに長いインドの旅に出かけた。写真を撮りながらデリーから一旦北へ向かい、その後、南へ南へと下り、コチ(旧名コーチン)で運命としか言いようのない衝撃の遭遇を果たした。

インドで映画を観る

撮影:大倉眞一郎

インドのスーパースター、シャー・ルク・カーンを「うざい」と言ってしまったラジオ・パーソナリティがいたが、もしそうならインドの男優はみんなうざい。

当然、私はそんなことをかけらも思ったことがなく、『シャー・ルク・カーンのDDLJ/ラブゲット大作戦』(1995年)という作品を観て以来、大ファンとなり、インドに行くたびに彼が出演している映画のDVDを買って帰るようになった。

2007年のインドの旅のさなか、そのシャー・ルクの新作が公開になると聞いていたので、もう体の芯が疼く疼く。居ても立っても居られない。公開日の2007年11月9日、私は大都市コチにいた。

街で一番大きな映画館を探した。インドの綺麗な映画館は綺麗じゃなくて、豪奢。リクライニングから「お食事はいかがしますか」の出前サービスまでついていて、日本の映画館とは比較にならないくらい大げさなことになっている。でも、汚いところは汚いから、自己責任ね。

ちなみに下の写真の映画館はあまりのことに度肝を抜かれて入場を諦めたが、普通クラスじゃなかろうか。

撮影:大倉眞一郎

というわけで、私はコチで探し出した上級劇場でシャー・ルクの新作『OM SHANTI OM』をプレミアムシートで観るべく12時開場のところ、10時半には劇場について余裕でチケットを買おうとしたら、そこもとんでもない騒ぎになっていた。

安い席の列は写真と同様で、インドの若者と究極のおしくら饅頭を楽しまなければならない。高い方の席は40ルピー(当時のレートで約120円)。こちらはまだ余裕がある。金持ち喧嘩せず。すると魔法のように列がスムーズに動き出した。やはり果報は寝て待て、である。

しかし、スムーズどころか異様に動きが早くなった。ぼーっと生きていた私はようやくチケットが売り切れたことに気がつき、やはりぼーっとしてしまっていた。

と・こ・ろ・が・だ、その時、おじさんが私の手を引っ張って言った。

「キャンセルになったチケットを中で売ってるから、行ってみな」

おじさん(私よりも年下だったかもしれない)の手を握りしめてお礼を言い、「礼儀正しい日本人のマナーで」とかお経を唱えている場合じゃない、と正しい判断を下し、インド人の若者が群がっている中にジャーンプ。割り込み割り込み40ルピーを指の間にはさみ、思い切り手を伸ばした。最後の一枚だった。

最後の一枚をインド人ではなくマナーの悪い日本人に握らせてくれた。ありがとう。ありがとう。ありがとう。私は恨めしそうな若者たちを一顧だにせず、席へと向かったのであった。

実は、いまだにどうして私に売ってくれたのかがわからない。ハゲてたからかな、年寄りに見えたからかな(当時50歳)、いずれにせよ私はインドでは何かにつけ調子がいい。

輪廻の後、結ばれる

映画が始まる前から映画館は熱狂に包まれている。

「シャー・ルク!」「シャー・ルク!」「シャー・ルク!」

拳を振り上げて全員がシャー・ルクと呼んでいる。映画なんだけどね。

最近のインドの映画館ではマナーが向上したというか、あの熱狂が失われたというか、特に高級劇場では一緒に歌ったり、踊ったり、悪態をついたりということがない。日本の方が爆音上映だとか、一緒に歌いましょう上映だとか、ちょっと、なに、インドより熱狂的かも。

新作『OM SHANTI OM(邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)』(2007年)のオームは「全て」、シャンティは「平和」という意味。ヒンドゥー教のマントラ(真言)で非常に重要な言葉だが、この映画ではオームがシャー・ルクの名前、シャンティがヒロインの名前という設定。この二人が前世では結ばれず、輪廻によって再び出会うという、実にインドらしい展開となっている。歌も踊りも強烈に楽しいが、最も重大な事件は“ディーピカー・パドゥコーンがこの映画で実質的に全世界的デビューを果たした”ということである。

シャー・ルクが登場して、観客の興奮は頂点に達し、口笛が吹かれ、雄叫びも上がる騒ぎだったのが、ディーピカーがスクリーンにその姿を現した瞬間、劇場は静寂に包まれた。あまりの美しさに観客全員が息を呑み、手を合わせてしまった。ディーピカーは輪廻の後、全ての男たちの女神となり、精神的に深い絆で結ばれたのである。私も。

映画公開時、彼女は21歳。彼女はあっという間にトップスターとなり、インドでは最高額の出演料を得る女優に登りつめた。Facebookでは3420万人のフォロワーを抱え、男たちは彼女の一挙手一投足を見つめ続けた。

召し使いから始めて、夫の座を狙っていた私を打ちのめす報道が流れたのが、2018年の始めあたりで、11月15日に、やはりインドのトップクラスの男優と結婚してしまった。あっけない。

彼女の結婚により熱狂は去ったか、否、決してそんな根の浅いものではない。彼女は34歳、栴檀は双葉より芳し。いよいよ私にふさわしい歳となり、一苦労させることになったが、私が死ぬときにはそばにいてくれることになっている(予定)。

騒動、勃発

さて、妄想もいい加減にしとこう。2017年12月1日、アゼルバイジャンから始まった私の還暦バックパッカー2ヶ月間の旅が終わる日、ディーピカー主演の新作『Padmaavati』が公開になることを知って、私は踊った。クリシュナはまたしても偶然という名の必然を用意してくれていた。ハレ!クリシュナ!

コルカタで公開初日の1回目の上映であれば、余裕で飛行機に乗れる。コルカタのサダル・ストリート周辺の安宿に泊まったことのある日本人なら誰でも知っているサトシ(ネパール人だがインド人になって久しく、なぜか英語が苦手なのに日本語の関西弁がペラペラ)と彼の娘になんとしても、いくらでもプレミア料金を払うからチケットを手に入れてくれと頼んでベナレスに出かけ、ガンジス川を眺める日々を過ごしていたら、ある日新聞に「Padmaavati、公開危機」と大きな見出しが出ていた。

撮影:大倉眞一郎

激しく動揺した私はサトシの娘に電話して、「どうなっているんだ?」と声を荒げた(娘は英語がペラペラ)。どうやら、昨今インドで幅を利かせているヒンドゥー至上主義者たちが内容にいちゃもんをつけて、公開させないと騒いでいるらしい。こっちは内容は二の次、ディーピカーが出ていればいいんだよ。

2ヶ月以上にわたる旅の最後をディーピカーで飾るべく、周到に用意してきた私の計画はどうなるのだ。この国の馬鹿者どもはまったく、ん、もう。しかも、インド人の誰に聞いても、公開阻止を叫んでいる連中が、何について文句をつけているのかさっぱり要領を得ない。もともと史実とフィクションをごちゃ混ぜにした話を映画化するのに、「事実と異なる」と騒ぐのはナンセンスでしょ、といくら私が怒っても騒ぎは収まらない。

帰国予定日直前まで「どーなる、どーなる」とサトシの娘と策を練ったが、いくら考えたところで公開されないものを観ることはできない。最後の夜はもう諦めて、サダル・ストリート周辺をカメラを持ってウロウロ。

撮影:大倉眞一郎

結局、私は失意のうちにエミレーツ航空でコルカタからわざわざドバイまで戻り、それから成田へと安いが無駄に長いフライトで帰国したのであった。飛行機の中ではずっとインド映画を見ていた。

ついに大型スクリーンで再会

『パドマーワト 女神の誕生』©Viacom 18 Motion Pictures ©Bhansali Productions

騒ぎは完全には収まらないままであったが、インドでは2018年1月25日に、タイトルを『Padmaavati』から『Padmaavat(原題)』へと、最後の「i」を抜いて公開された。それが、ついに、2019年6月7日(金)に、日本公開される。デビュー時21歳だったディーピカーは32歳(撮影時)になって、ますますその美しさに磨きをかけ、後光さえ射している。若い頃バタバタだった芝居も堂々たる風格で目が離せない。群舞の中心の優雅、かつ一瞬の狂いもない彼女の舞は国宝級。

ディーピカーが演じる架空の人物、パドマーワティは仏教国からヒンドゥー教国国王へ嫁ぎ、これ以上の幸せはない生活を送っていたが、イスラム王朝のスルタンが横恋慕。それがきっかけでイスラム教国が戦争を仕掛けてきて、ついに……という話なのだが、一体この映画のどこがヒンドゥー至上主義者の気に障ったのか全くわからない。むしろイスラム教国の横暴さをむやみに強調しており、そりゃ、ないだろ、と腹が立つことさえある。

『パドマーワト 女神の誕生』©Viacom 18 Motion Pictures ©Bhansali Productions

ラスト20分は現在のインドでも今だに問題となっている、夫が亡くなった後の妻のとるべき行為が延々と続き、ヒンドゥー至上主義団体がバックについているモディ首相のインド人民党(BJP)へのごますりとも思える。モディ首相は先日のインドの総選挙で地滑り的大勝利を収めた。そんなわけで、この映画はインド公開当初は上映映画館襲撃等の騒ぎがあったが、観てみりゃなんのことはない、「いい話じゃないか」的なことになって、大ヒット。

『パドマーワト 女神の誕生』©Viacom 18 Motion Pictures ©Bhansali Productions

そういうことを一応頭に置いて、個人的には36億円をかけて作られた絢爛豪華、スペクタクル満載、美しさについては完全保証付きのこの作品をご覧いただきたい。最近のインド映画は歌わない、踊らない、ストーリーがしっかり練られている、ということで評価されることが多いのだが、『パドマーワト』はインド映画の王道をゆき、歌、踊り、恋、嫉妬、怒り、闘い、戦いがてんこ盛りで、お金をかけた分だけ、全てのレベルが2段3段と上がっている。

私の女神がどれだけ美しいかを観ていただくだけでも価値はあると思うんだけど、いかがでしょう。私は大画面で観たいので、ちゃんとまた劇場に足を運びます。この映画の何が問題になったのかはかなり削って書いたので、現在のインドについてもっと知りたい方は是非ご自身で調べていただければ。ダンニャバート。

文:大倉眞一郎

『パドマーワト 女神の誕生』は2019年6月7日(金)より全国順次ロードショー

『パドマーワト 女神の誕生』

インド映画史上最大級の製作費で描く、究極の映像美!
13世紀末、西インドの小国の王妃となった絶世の美女、パドマーワティを巡り、夫である国王の誇りと、強大な軍事力でインド一帯を席巻するイスラム教国の王の野望が火花を散らす。天下に轟くその美貌が巻き起こした一国の存亡の危機に、聡明なパドマーワティの下した決断とは?

制作年: 2018
監督:
キャスト:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 南インドの大都会を舞台にした『バンガロール・デイズ』と変わりゆく恋愛観や家族観