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「タイパ」って何?800キロ“歩いて”会いたい人がいる!『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は「ゴースト・オブ・ツシマ」作曲家による音楽も必聴

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ライター:#森本康治
「タイパ」って何?800キロ“歩いて”会いたい人がいる!『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は「ゴースト・オブ・ツシマ」作曲家による音楽も必聴
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
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無謀が感動を呼ぶ、おじいさんロードムービー

「物事に費やした時間に対して得られる満足度」という“時間対効果”の概念が社会に浸透して久しい。その結果、あらゆることで効率を重視するあまり「時間がかかることは(無駄なので)やりたくない」と考えるようになってしまった感がある。

しかし、人生というものは効率だけで片付けられないこともあるのではないか? 時間をかけて何かに取り組むことで得られるものもあるのではないか? そんなことを思い出させてくれるのが、2024年6月7日(金)から劇場公開になる映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』である。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

物語は、英国郊外に住むハロルド(ジム・ブロードベント)のもとに一通の手紙が届くところから始まる。差出人はかつて同じ職場で働いていたクイーニー(リンダ・バセット)という女性で、自分は病を患っていて余命わずかだと別れの言葉が綴られていた。

ショックを受けつつ返事の手紙を出そうとするハロルドだったが、彼女には大きな借りがあり、どうしても直に会って伝えたいことがあった。そこでハロルドは、クイーニーの入院するホスピスまで800kmの長い道のりを歩いて彼女に会いに行くことを決意する。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

手ぶらで800kmを歩く、祈願と贖い、そして恩寵を受けるための旅

老境に入った男のロードムービーといえば、デヴィッド・リンチ監督作『ストレイト・ストーリー』(1999年)を思い出す方もいるかもしれない。こちらの作品は73歳の主人公アルヴィンが、心臓発作で倒れた兄に会うため、時速8kmの芝刈り用トラクターに乗って560kmの旅に出る物語だった。

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『ストレイト・ストーリー』Blu-ray © 1999 THE STRAIGHT STORY INC.

 

本作のハロルドはアルヴィンとほぼ同年代と推測されるが、より長い距離を手ぶら同然の軽装で歩いて行くのだから、かなり過酷な旅である。効率という考え方をするならば、「車で行けばいいのに」とも思うだろう。それでは、なぜハロルドは困難な徒歩の旅をあえて選んだのか? ここで「Pilgrimage(巡礼)」という本作の原題で使われている言葉が重要な意味を持つようになる。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

ハロルドが徒歩の旅を決意したのは、ふらりと立ち寄ったガソリンスタンドの売店の若い女性店員から「信じる心が大切」という話を聞いて感銘を受けたからだった。心を動かされたハロルドは、クイーニーの入院するホスピスに電話して下記のような伝言を頼む。

「彼女を救いに行く。“私が歩く間生き続けろ。今回は失望させない”と伝えてくれ」

「今回は失望させない」という言葉から、この旅がハロルドにとってある種の「贖い(あがない)」でもあることが分かる。クイーニーとの間に何があったのか。それは実際に映画をご覧になって確かめて頂くとして、ハロルドは過去のある出来事にまつわる喪失や罪悪感に苛まれながら、新しい世界で見知らぬ他者と関わり、物への執着を捨て、不便も厭わず目的地までひたすら歩き続ける。古来行われてきた<巡礼>と同じように、ハロルドは祈願や懺悔、あるいは恩寵を受けるため、進んで苦行に身を投じたのではないだろうか。愁いを帯びたまなざしでハロルドの複雑な思いを表現する、ブロードベントの静かな演技に心を打たれる。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

一方、夫が突然旅に出てしまったことで、長年彼を素っ気なくあしらってきた妻のモーリーン(ペネロープ・ウィルトン)も、「なぜこんなことになったのか?」と過去の問題に向き合わざるを得なくなる。そしてハロルドが旅の途中で出会う悩める人々も、彼の「無私の心」に感化されていく。大切な人を救うために始めたことが、別の誰かの心を動かし、やがて自分自身をも救うことになるという、内省的かつ瞑想的なテーマの作品である。

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

次ページ:あの「ゴースト・オブ・ツシマ」の作曲家による劇伴を要チェック!
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『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』

定年退職し、妻のモーリーンと平凡な生活を送るハロルド・フライ。ある日、北の果てから思いがけない手紙が届く。差出人はかつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニーで、ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという。ハロルドは返事を出そうと家を出るが、途中で心を変える。彼にはクイーニーにどうしても会って伝えたい“ある想い”があった。ホスピスに電話をかけたハロルドは「私が歩く限りは、生き続けてくれ」と伝言し、手ぶらのまま歩き始める。歩き続けることに、クイーニーの命を救う願いをかけるハロルド。目的地までは800キロ。彼の無謀な試みはやがて大きな話題となり、イギリス中に応援される縦断の旅になるが──!?

監督:へティ・マクドナルド
原作・脚本:レイチェル・ジョイス

出演:ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、アール・ケイヴ、リンダ・バセット

制作年: 2022