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『ゴジラ-1.0』公開記念!名作『ゴジラVSビオランテ』の魅力を改めて振り返る 〜時代背景から劇伴まで、超・私的マニアック視点で解説 〜

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ライター:#ナカムラリョウ
『ゴジラ-1.0』公開記念!名作『ゴジラVSビオランテ』の魅力を改めて振り返る 〜時代背景から劇伴まで、超・私的マニアック視点で解説 〜
『ゴジラVSビオランテ』©1989 TOHO CO., LTD.
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『ゴジラVSビオランテ』の魅力④~⑤

④ スピード感を煽る音楽

この作品を語るとき、「スピード感がある」という形容がよく用いられるが、その大きな要因のひとつが音楽であろう。それは単に「音楽のテンポが速い」だけではなく、「音楽の付け方が早い」のである。

細かい話になるが、劇伴音楽というのは通常「A」という場面から「B」という場面に変わった後、その「B」に適した楽曲が流れるという付け方が圧倒的に多い。ところが本作では「A」と「B」をまたぐように、前の場面から“やや食い気味”に音楽が始まるケースが非常に目立つのだ。

一例としては序盤、「サラジアの研究施設が爆破され、その犠牲となり横たわる白神英理加のアップ」から流れ出した音楽が、そのまま次のシーン「5年後の白神植物研究所」まで続けて流れる。

この手法のデメリットとして“場面や時系列の変化が分かりづらくなる”という側面はあるのだが、それでもあえてこのような音楽付けをすることで、場面と場面がシームレスに流れ、映画に前のめりなテンポが生まれる。さらに、場面「A」にあった要素が場面「B」の伏線になっている……といった含みを持たせることもできる。

個人的には、こういった細かなアプローチがあるからこそ『ゴジラVSビオランテ』に恐るべきハイセンスさを感じてしまうのだ。

『ゴジラVSビオランテ』©1989 TOHO CO., LTD.

そんな本作の音楽をメインで担当したのは〈ドラゴンクエスト〉シリーズでおなじみのすぎやまこういち。ゴジラの音楽といえば伊福部昭による重厚なテーマ曲、というイメージが根強いため、当時往年のファンからは「曲が軽い」「ドラクエっぽすぎ」といった反発も存在した。

だが、ちょっと待ってほしい。実際に本作のメインテーマ曲「ゴジラ1989」と、同時期に作曲されたであろう〈ドラクエⅣ〉の「悪の化身」(デスピサロ戦の音楽)を聴き比べてみると……た、確かに似ている‼

が、それは瑣末な話。中世的なモチーフが多いドラクエと現代的な本作とでは根本的に音楽的アプローチが異なるし、「スーパーX2」のテーマのようなハリウッドライクな楽曲はそれまでのゴジラ映画になかったもので、“ゴジラ映画のスケール感をさらに拡げよう”という気概にあふれている。また、自衛隊の登場場面で流れる「スクランブル・マーチ」は勇壮ながら情感にも溢れ、伊福部昭のマーチ曲とはまた違った趣のある名曲だと思う。

いっぽう本作では伊福部昭の音楽も随所で用いられ、ゴジラのテーマの無調の響きと、転調を多用し先が読めない展開を繰り返すビオランテのテーマが見事なコントラストを生んでいる。すぎやま音楽があってこそ、伊福部音楽の圧倒的素晴らしさがさらに説得力を増すのだ。

⑤ 紳士的なマッドサイエンティスト・白神博士

さて、文字数が限界に近いが、最後にキャストについても少しだけ。

群像劇的な本作は、登場人物もそれぞれ魅力的なキャラクターばかりなのだが、中でも1人ピックアップするとしたら、やはりビオランテの生みの親・白神博士だろう。自己再生能力を持つゴジラ細胞に、亡き娘・英理加のDNAと彼女が好きだったバラを融合して永遠の命を作ろう……という発想といい、それが怪獣化してしまったにもかかわらず全く責任を感じてなさそうな口ぶりといい、一言で表すなら「人間として明らかにヤバいやつ」である。

『ゴジラVSビオランテ』©1989 TOHO CO., LTD.

実際に小林晋一郎の原案ではもっと分かりやすいマッドサイエンティストとして描写されていた。だが、それを名優・高橋幸治が演じたことでグッとインテリ感と落ち着きが増し、「知的でもっともらしい発言をするのでみんな信頼してしまうが、よくよく聞くとヤバいことを言ってるやつ」という、さらにタチの悪い人物になってしまった。うーん、好き!

とはいえ物語はこの白神と、怪獣化してしまった娘との心の距離についても丁寧に描いている。映画終盤、英理加の意志が“とある演出”によって表現されるのだが、その演出の是非はファンの間でもいまだに議論の的だ。筆者は親子の対話という観点で純粋に感動を覚えてしまうシーンなのだが、あなたはどう感じるだろうか。ぜひ作品を観て確認してみてほしい。

『ゴジラVSビオランテ』©1989 TOHO CO., LTD.

新たなファンの獲得とゴジラの未来

そんなわけで、正直まだまだ語り尽くせないが、本作の魅力と筆者の作品愛が少しでも伝われば幸いである。文中でも触れた通り、ここで書いた見解に異論あるファンの方もいるだろう。それは息の長いシリーズの宿命といえよう。

ただ作品というものは、たとえ賛否が分かれ叩かれようと、一方で熱狂的な支持者を獲得することができれば勝ちなのだ。『ゴジラVSビオランテ』はそんな支持者たちがいつまでも語り継いでいくことで、公開当時より評価が高まっているという好例ではないだろうか。

『ゴジラVSビオランテ』©1989 TOHO CO., LTD.

『ゴジラ-1.0』も「山崎貴監督が描くフルCGのゴジラ」という要素からして、恐らく新旧のファンからさまざまな評価と議論が飛び交う作品になる予感がしている。それでも、この作品を通じてゴジラと出会い、その虜になった新しい世代によって今後さらにシリーズが紡がれていく結果になってくれれば、それはゴジラファンの勝利だ。そんな幸せな未来を心待ちにしている。

文:ナカムラリョウ

『ゴジラ-1.0』は2023年11月1日(金)より全国公開

『ゴジラVSビオランテ』『ゴジラVSスペースゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』『GODZILLA(1998年)』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年10~11月放送はCS映画専門チャンネル ムービープラス「『ゴジラ-1.0』公開記念!2ヶ月連続ゴジラ特集」で2023年10~11月放送

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『ゴジラVSビオランテ』

ゴジラが東京を蹂躙してから5年、再び活動を開始したゴジラに備え、政府は核を制御する抗核バクテリアの研究を白神博士に依頼する。しかし博士は亡き娘の細胞が埋め込まれたバラと、ゴジラ細胞を融合させ、ビオランテを生み出してしまう。そんな折にゴジラが覚醒。ゴジラとビオランテの激闘が始まる!

制作年: 1989