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池松壮亮「快楽主義だけの創造に意味はない」異色の2役に挑んだ『白鍵と黒鍵の間に』は“時代の隙間を埋める2時間”に

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ライター:#SYO
池松壮亮「快楽主義だけの創造に意味はない」異色の2役に挑んだ『白鍵と黒鍵の間に』は“時代の隙間を埋める2時間”に
池松壮亮
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創造性とは、人間に与えられた可能性

―池松さんは、本作に挑むうえで参考にした映画のひとつに『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013年)を挙げられていましたね。

『白鍵と黒鍵の間に』も『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』も、まだ何者でもないミュージシャンを描いているところに共通点があります。オスカー・アイザック演じる、まだ何者でもないミュージシャンの日常を見ていると、なぜかものすごく豊かに感じられて、誰かの伝記映画を見るよりも、より自分たちも含めた人の人生そのものが見えてくる。普通は物語にならないような何気ない断片的な日常を描くことで、そういった効果が生まれているとてもユニークな映画でした。音楽映画としてのセンスも抜群で、とても好きな映画です。

池松壮亮

―『白鍵と黒鍵の間に』は映画・音楽・文学といったカルチャーのるつぼ的な作品であり、「過去・現在・未来」が一夜に凝縮された特異な構造の映画でもあります。

ほんとによく思いついたなと思いました。この世界を語る方法は常にあるんだということを冨永さんは証明してくれます。この映画は過去→現在→未来の3年間ごとの9年を経たうえで、もう一度始まりに戻って博がピアノを弾くところにいきつきます。これ以上詳しくはぜひ劇場で観ていただければと思いますが、あの始まりのためにこの映画の94分間があるとも言えると思います。夢を追う人にとって人生というのはいつだってままならないし、そういう人生の不完全性を受け入れたうえでまたピアノを鳴らしはじめるということに、この映画の真の意味があるような気がしています。

©2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会

―本作は「意匠を感じる作品」とも言えますが、意匠であり創造性、つまり「クリエイティブ」とは池松さんの中でどういったものでしょう?

人のもつ、創造性と可能性だと思います。そうした果てしない創造性が映画にとって、それから社会にとってどう作用してくるのかを、きちんと見極めていかなければいけないと思います。創造性だけで作っていけた時代と今この世界は違いますし、快楽主義だけの創造性が意味をなさないということは時代が証明していると思います。これからの創造性がどこにあるのかはわかりませんが、映画に限定しないならば、あらゆる分野において本格的に「肉体を離れていく」ことに向かうのかなと感じています。

コロナ前からの世界の激動、コロナや今なお止まない戦争――世界が大きく、しかしゆっくりと変化を迎える最中の、この世界の静寂や沈黙をもし「時代の隙間」とするならば、でも「映画があるじゃないか」と思ってもらえるような、そういう作品になってくれることを願っています。

池松壮亮

取材・文:SYO

撮影:落合由夏

スタイリスト:Babymix  ヘアメイク:FUJIU JIMI

『白鍵と黒鍵の間に』は2023年10月6日(金)より全国ロードショー

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『白鍵と黒鍵の間に』

昭和63年の年の瀬。夜の街・銀座では、ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)が場末のキャバレーでピアノを弾いていた。博はふらりと現れた謎の男(森田剛)にリクエストされて、“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知る由もなかった。“あの曲”をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった。夢を追う博と夢を見失った南。二人の運命はもつれ合い、先輩ピアニストの千香子(仲里依紗)、銀座のクラブバンドを仕切るバンマス・三木(高橋和也)、アメリカ人のジャズ・シンガー、リサ(クリスタル・ケイ)、サックス奏者のK助(松丸契)らを巻き込みながら、予測不可能な“一夜”を迎えることに……。

原作:南博「白鍵と黒鍵の間に」(小学館文庫刊)
監督:冨永昌敬
脚本:冨永昌敬 高橋知由 音楽:魚返明未

出演:池松壮亮
   仲里依紗 森田剛 
   クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太
   杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美
   佐野史郎 洞口依子 松尾貴史 / 高橋和也

制作年: 2023