実録!“麻薬系鎮痛剤”中毒の恐怖『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』 悪徳製薬会社が患者を死に導く

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ライター:川辺素(ミツメ)
実録!“麻薬系鎮痛剤”中毒の恐怖『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』 悪徳製薬会社が患者を死に導く
『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

プリンスやトム・ペティ、リル・ピープの死因

以前BANGER!!!で『ビューティフル・ボーイ』(2018年)を紹介したが、アメリカの映画を観ていると薬物の問題を扱っている作品がとても多いと感じる。今回ディズニープラスで配信中の『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』を観て、なぜ今アメリカで薬物問題が深刻になっているのかを理解する大きなヒントを得た。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

2016年にミュージシャンのプリンスが亡くなった。痛み止めの過剰摂取が原因ではないかと報道されていたが、その時は彼の死そのものがショックで死因の方はあまり気にしていなかった。しかし彼が服用していた“痛み止め”こそ、今アメリカで起きている「オピオイド危機」と呼ばれる薬物中毒問題の中心となっている薬だった。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

プリンスが服用していたのは<フェンタニル>という別の製品なのだが、その危機を引き起こした元凶と言われる薬品<オキシコンチン>を製造・販売した製薬会社パーデューを題材にした、実話に基づくドラマが『DOPESICK』である。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

アメリカに蔓延する“薬物危機”はどのようにして起こったのか

パーデューはアメリカの大富豪、サックラー家が経営する製薬会社。一族内で疎まれる立場にあったリチャード・サックラーは新薬を開発し、会社に大きな利益をもたらすことで権力を掌握しようと目論んでいた。その新薬がオキシコンチンである。それはオピオイドと呼ばれる、激しい痛みの緩和に用いられる麻薬性鎮痛剤の一種であり、とても有効だが依存性が高く、しっかりとした管理のもと使用しないと中毒患者を引き起こす処方が難しい薬だった。

パーデューは、そのオキシコンチンに「中毒になるリスクは極めて低い」という説明書きのラベルを公的機関「FDA(アメリカ食品医薬品局)」に認可させ、比較的簡単に処方できるようにしてしまった。それは、つまり歯痛や頭痛レベルでも麻薬が処方されてしまうような状況であり、案の定、大量の依存者や乱用者が出てくる。しかし、それがそのまま売上につながるので、パーデューは中毒例や死亡例が頻発していることを知りながらも、苛烈なマーケティングでさらにクスリを売ろうとしていくのだった。

本作は時系列を行き来しながら、パーデューと営業担当者、医師、患者、遺族、そして不正を追うDEAの麻薬捜査官や連邦検察官など、それぞれの立場で何が起きたのかを追い、じわじわと破滅に向かっていく様子がとても丁寧に描かれている。そして何よりも、どのようにして現在のアメリカの薬物危機が起きたのかが、すごく分かりやすかった。これまでドラッグといえば、ちょっとした好奇心や依存者の快楽目的による使用や売買が乱用に繋がっているという漠然としたイメージを持っていた自分には衝撃だったし、もし同じようなイメージを持っている人がいたら、ぜひ観てほしい。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

豪華キャストだが最注目はマイケル・スタールバーグの怪演

このドラマはキャストもとても魅力的だった。最初にオキシコンチンが売られた地方都市で診療所を営んでいた医師は、『バットマン』シリーズ(1989、1992年)などで知られるベテラン俳優、マイケル・キートン。彼に薬を売り込む営業は『デトロイト』(2017年)や『ミッドサマー』(2019年)など印象に残るキャラクターを演じてきたウィル・ポールター。また、炭鉱で負った怪我から薬物中毒に陥ってしまうベッツィーをケイトリン・デヴァーが演じていて、彼女は最近だと『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)や『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年)に出ているが、演技の幅が広いため最初は同一人物とは気づかないほどで、本作でもとても胸に刺さる役どころを見事に演じている。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

しかし極めつけは、オキシコンチンの製造・販売を推し進めた悪の元凶、リチャード・サックラーを演じるマイケル・スタールバーグだ。良くも悪くも“ピュア”な人間が一番怖いということを体現するような存在感で、コーエン兄弟の『シリアスマン』(2009年)以来に観た怪演ぶりに、すっかりファンになってしまった。上記4人の演技だけでも良かったが、パーデューを追い詰める検察官を演じたピーター・サースガードなど、他キャストも色んな映画で見かける俳優ばかりという豪華さである。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

全8エピソードの『DOPESICK』を観終えたときに考えてしまったのは、経済活動というものは根源的に“悪”を内包しているんじゃないかということで、なんとなくお金を稼ぐことに対して居心地が悪くなってしまうような感覚だった。企業の倫理が問われるようになって久しく、とくに医療など生命にかかわる分野では特に頻繁にニュースなどで目にしていたことが、本作では“倫理観の欠如がどんな事態を引き起こすのか”ということを、まざまざと見せつけているようで怖い。そして、このドラマよりもっと深刻な状況に今、アメリカが置かれているという衝撃……。年末年始のイッキ鑑賞におすすめのドラマシリーズです。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』© 2021 20th Television

文:川辺素(ミツメ)

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』はディズニープラスのスターで独占配信中

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『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』

『バットマン』のマイケル・キートンが主演と製作総指揮を務めた、全8話構成のドラマシリーズ。実際に起こった事実を元にし、ニューヨーク・タイムズのベストセラーにもなったベス・メイシー著の「DOPESICK~アメリカを蝕むオピオイド危機~」が原作の社会派ドラマ。ある企業が開発したオピオイド系鎮痛剤が誤ったマーケティング・キャンペーンにより蔓延し依存症患者が激増したアメリカ歴史史上最悪の状況を、大手製薬会社、バージニア州の鉱業所、麻薬取締局の内部などさまざまな視点で実態を描く。

制作年: 2021
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • ドラマ
  • 実録!“麻薬系鎮痛剤”中毒の恐怖『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』 悪徳製薬会社が患者を死に導く