“最恐の”Netflixドキュメンタリーといえば…
2026年始から、国内外のメディアやブログ等でも「観ておくべきVOD作品」という記事が乱立している。実際、世界中から様々な作品が日々更新され毎日1本鑑賞をノルマ化しても到底追いつかないような状況なので、個人の嗜好に応じたガイド記事の有用性は増していると言えるだろう。
ご存知のように、オリジナル作品の数で群を抜いているのがNetflix。中でも韓国ドラマは世界的人気を集めていて、近年では日本作品もグローバル視聴ランキングの常連となった。非英語作品のTOP10はインドや南米、欧州の作品がごった煮状態で興味深いが、毎週の視聴ランキングに1~2本は食い込んでくるのが、社会問題や重大事件を扱ったドキュメンタリー作品だ。
Netflixのドキュメンタリー『猫イジメに断固NO!:虐待動画の犯人を追え』は、2019年の配信時にも話題を呼んだので記憶している人も多いだろう。そのタイトルから猫を虐待した不届き者を追跡し法の裁きを受けさせる、みたいな内容に思えるが、鑑賞後にはタイトルの軽さにモヤッとするかもしれない。本作のテーマになった虐待犯は、“それ以上の凶行”に及ぶのだ。
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『猫イジメに断固NO!』は何が怖いのか
『猫イジメに断固NO!』は多くの視聴者の予想に反して、ある殺人事件の報道映像から始まる。人間の体の一部を遺棄した人物が、ネット上に犯行動画を投稿していたというショッキングなニュースだ。そしてその犯人は過去に、子猫を虐待し殺害する映像をSNSに投稿していた。ここで視聴者は、作品タイトルが逆説的な意味だったことに気づく(それにしてもどうかと思う邦題だが)。
本作は、猫虐待の映像を観たネットユーザーたちが激怒し、独自に捜査していった過程をプレイバックする。つまりネット探偵たちによる自警的行動だが、事件当時(2010年)はFacebookやMyspaceの時代なので、映像の解像度も現在とは比べ物にならない。それでも世界中の人々が協力し、映像の背景に映り込んだわずかな情報から、犯人の住んでいる国や部屋のレイアウト、プラグの形状まで割り出していく様子には舌を巻く。
しかし、素人集団の執念が犯人を追い詰めていく一方で、事態は最悪の展開を迎える。「動物虐待は反社会的傾向があり、家庭内暴力とも結びつきやすい」「重大な対人暴力の重要なリスク指標になり得る」といった心理学・犯罪学の研究結果が、あろうことか“スナッフ・フィルム(殺害現場を記録した映像)”という、考えうる限り最も凶悪な形で証明されてしまうのだ。
“ネット界隈”の変容と倫理観のマネタイズ化
3エピソードから成る『猫イジメに断固NO!』は6年前の作品にも関わらず、いまだに「観ておくべきNetflixのドキュメンタリー作品」としてエンタメ系メディアやネット掲示板で頻繁に名前が挙がる。捜査の初動を牽引したのは“インターネット老人会”と揶揄される世代の人々だが、特筆すべきは配信当時とは大きく変容した、現在のネット/SNS環境との大きな違いだ。
SNSやYouTubeが完全にマネタイズ化された現在から本作を振り返ると、わずか5~6年の間にネット社会の倫理観がいかに変容し、分断が進んだかを思い知らされる。いま同様の事件が起これば、純粋な義憤に駆られた“ネット探偵”よりも先に、いわゆるインプレゾンビや再生数欲しさの迷惑系配信者がゾロゾロと群がるだろう。
かつて動物虐待に憤慨し、国境を越えて手を取り合ったネットユーザーたちの熱量は、今どこへ向いているだろうか。他者の痛みや凄惨な事件さえも“コンテンツ”として消費し、国家レベルの弾圧や虐殺にさえ不感症になりつつある現代人。本作がドキュメンタリーとして最高に面白いという事実こそが皮肉であり、最大の恐怖でもある。これがフィクションだったらどんなに良かったかと思うが、画面越しに突きつけられる真実は私たちに安易な逃避を許してくれない。
Netflixドキュメンタリー『猫イジメに断固NO!:虐待動画の犯人を追え』独占配信中