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性欲強め女子の日常に爆笑! なのに号泣! 愛と孤独を抱える現代人へ 第4の壁をぶっ壊すAmazon Originalドラマ『Fleabag フリーバッグ』

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ライター:#椎名基樹
性欲強め女子の日常に爆笑! なのに号泣! 愛と孤独を抱える現代人へ 第4の壁をぶっ壊すAmazon Originalドラマ『Fleabag フリーバッグ』
Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

徹底したメタ演出とウィットな毒っ気がクセになる

Amazon Originalのドラマシリーズ『Fleabag フリーバッグ』は、とてもユニークな試みをしている。「完全メタ構造」とでも言ったらいいだろうか。主人公の女性がのべつくまなくカメラ目線で、視聴者に向けて話しかけてくる。この手法自体はよくあるが、『Fleabag フリーバッグ』は作品におけるト書き部分まで、カメラ目線の独り語りで済ませてしまう。しかも演技の途中で、会話を遮って突然カメラに振り返ってそれを行うこともある。例えばシーズン1第1話の冒頭シーンは、こんな感じだ。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

女は自宅玄関の前で息を切らしている。すると、ふいにカメラ目線で「深夜2時に好きな男からメールが来たら? 出かけたフリしてワインを飲み、シャワーを浴びてムダ毛処理、勝負下着をつけて到着を待つ」と状況を説明。息を切らしていたのは、急いでセックスの準備をしていたからだとわかる。そこに呼び鈴が鳴る。目線の先にはドアガラス越しの彼氏の姿。女がドアを開ける瞬間、再びカメラに向き直って、「そして何食わぬ顔で迎える」と、自らにツッコミを入れる。彼を迎え入れ甘い雰囲気で見つめ合い、お互い照れくさそうに挨拶をかわし微妙な空気が流れると、素早くカメラを向いて、「で、ベッドに直行」。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

その台詞が終わらぬうちに、男が濃厚なキスをする。次のカットは、いきなりベッドでセックスシーン。横に寝る女の背後から男が必死に腰を振る。それを尻目に、女はカメラに向かって語る。「初めは普通のセックスだけど、気づいたら彼はお尻を狙っている。でも、せっかく家まで来てくれたから、させてあげると大興奮」。このナレーションを、喘ぐ演技に混ぜながら行う。

最初この演出法を見た時、斬新ではあるが、途中で飽きてウザくなってくるのではないかと思った。しかし、台詞は常に気が利いていて、毒があり笑えるし、演技も自然でしゃれていて、それはまったく杞憂に終わった。

主演・脚本・製作を兼任! 一人芝居を見事にドラマ化

この『Fleabag フリーバッグ』は主演女優のフィービー・ウォーラー=ブリッジが、製作総指揮と脚本も務めている。もともとは自身の一人芝居のために書いた作品だそうで、彼女は「一人芝居をドラマにするときにこの手法を取ったのは自然の成り行きだった」とインタビューで答えている。この斬新な演出を破綻させずにやり切ったことも納得だ。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

状況説明や心理描写などいわゆるト書き部分のナレーションは、センスの見せ所である。フィービー・ウォーラー=ブリッジのこの斬新な演出を観た時思わず、普段から「なんとかならんものか」と思っていた、日本の映像作品に蔓延する、「心の声」で状況説明や心理描写をする演出方法のことを考えてしまった。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

先に録音しておいた一人称の「心の声」の内容に合わせて、顔の表情だけの演技を合わせるやり方だ。典型的なのはラブコメで、ヒロインがキスをせまられると、心の声がどこからともなく聴こえて来る。「ちょ、ちょ、ちょ、このまま私たちキスしちゃうの… あちゃー!ランチに餃子食べちゃった、そうだバッグにマウスウォッシュがあった!っていつすんだよ!どーするの、わ・た・し!」みたいな(笑)。役者は、この「心の声」に合わせて、顔をしかめたり、何かを閃いた表情をしたり百面相の演技を強いられる。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

日本の多くの作品が無配慮にこの手法を使っているように見えるが、これが蔓延した現状は、作品の多くが漫画を原作にしているからだろう。「心の声」は漫画の常套表現だ。漫画では、ある表情をした一枚の絵の背後に「心の声」が台詞書きされ、状況を効率的に説明する。

漫画の場合は一枚の絵で済むからまったく違和感がないが、映像作品の場合は、間を持たせなければならない。逆に言えば役者は「間を持たせるためだけの」無意味な演技をすることになる。そして当然、リアリティは著しく損なわれる。いつまでこの幼稚なガラパゴス演出を続けるのだろうと思う。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

自ら受難を背負い込む“フリーバッグ=不潔な人”が象徴する現代の寓話

本文冒頭に書いた、第1話のシーン描写を読んでもらえばわかると思うが、『Fleabag フリーバッグ』は女性の赤裸々なセックス観がテーマの恋愛ドラマで、フィービー・ウォーラー=ブリッジが演じるフリーバッグと、その姉を中心とした群像劇だ。

制作はBBC で、同局が制作した「モンティ・パイソン」「リトル・ブリテン」同様、まるでKY を競うかのような、イギリス的な身も蓋もないユーモアセンスが満載だ。それはどれもセンスがあって非常に笑える。そして、根底に漂う物悲しさもイギリス的である。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

このドラマの主役の女には名前が付けられていない。不潔な人(動物)という意味の“フリーバッグ”というあだ名のみが存在する。これは、多分、彼女がモルモットを店内で1匹だけ飼う「モルモットカフェ」(笑)を経営していることにも由来している。ただ、物語中で彼女がそのあだ名で呼ばれることはなく、“フリーバッグ”は視聴者だけが認識するコードネームだ。

フリーバッグは、その名の通り不潔なヤツだ。誰とでもセックスしてしまう。親友の彼とも、ものすごくキモいヤツとも。彼女には盗癖がある。欲望を抑えることができない。しかし、欲望こそが受難の原因だ。実際、彼女はそのせいで苦しむ。欲望に翻弄される現代人は悲しい。

Amazon Original『Fleabag フリーバッグ』

しかし物語を観ているうちに、欲望に翻弄され自ら受難を背負い込む愚か者こそが、いつしか聖人に見えて来る。フリーバッグこそ聖人らしく思える。主人公には名前が無く、そのあだ名が作品タイトルになっているのだから、「フリーバッグ・不浄の人」とは何者なのか考えさせる寓話であるとも言える。

文:椎名基樹

『Fleabag フリーバッグ』はAmazon Prime Videoにてシーズン1~2独占配信中

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『Fleabag フリーバッグ』

皮肉屋で性欲強め、怒りに駆られ悲嘆に暮れる。“フリーバック”は現代のロンドンを生きる一人の女性を描く、辛辣なドラマ。

制作年: 2016
脚本:
出演: