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タヌキは人間の映し鏡?『平成狸合戦ぽんぽこ』と 宮崎駿監督が自身を投影したヒコーキ狂の物語『風立ちぬ』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
タヌキは人間の映し鏡?『平成狸合戦ぽんぽこ』と 宮崎駿監督が自身を投影したヒコーキ狂の物語『風立ちぬ』
『平成狸合戦ぽんぽこ』
ブルーレイ(6,800円+税)、DVD(4,700円+税)発売中
© 1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH
https://www.disney.co.jp/studio/ghibli/0241.html

山を追われたタヌキたち、それでもどっこい生きていく

『平成狸合戦ぽんぽこ』
ブルーレイ(6,800円+税)、DVD(4,700円+税)発売中
© 1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH
https://www.disney.co.jp/studio/ghibli/0241.html

ジブリの良心であり破壊神でもある故・高畑勲監督作品『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)。高畑監督といえば、戦災孤児兄妹の愛情と悲劇を描いた『火垂るの墓』(1988年)や、都会に暮らす女性のノスタルジーと農村への回帰を描いた『おもひでぽろぽろ』(1991年)、まるで動く水彩画のような手法を生み出しMoMA(ニューヨーク近代美術館)に収蔵された『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)、そして日本最古のストーリーもの「竹取物語」を“動く絵巻物”の如くアニメ化してみせた最後の監督作『かぐや姫の物語』(2013年)……。

そのどれもがアニメの枠を超えて、世界中の映画ファンの心をつかみ胸をえぐり涙を搾り取ってきた傑作ばかり。そんな高畑監督が平成6年に発表したのが『平成狸合戦ぽんぽこ』である。物語の主な舞台は1990年代の多摩山中。平和に暮らしていたタヌキたちの住処が、多摩ニュータウン構想をモデルにした開発によって切り崩されることになってしまい、山を守るべくタヌキ变化を駆使して人間たちと戦う姿を描く。

公開後たびたびテレビ放送されたこともあってか、上々颱風による主題歌の「ソイヤッサ~♪」を聴くと自動的に『ぽんぽこ』の画が脳内生成されるという、もはや日本人のDNAに刷り込まれていると言っても過言ではない国民的アニメだ。

文明に飲み込まれることを選んだタヌキは人間の映し鏡?

妙にキン◯マのデカい謎のキャラ設定や妖怪と絡めた伝承もあって日本では超メジャーな存在のタヌキだが、基本的にアジア以外の地域には生息していないため海外ではラクーン・ドッグと呼ばれて珍しがられている。田舎暮らしの経験がある人は、絵本などに登場するモフモフのイメージとは程遠い、なぜかもれなくびしょ濡れで痩せこけた貧相なタヌキを見かけたことがあるだろう。もちろん人懐っこさは皆無だが、日本人にとってはもっとも身近な野生動物のひとつでもあった。

そんなタヌキが人を化かすという伝承は中国の妖怪“狐狸”が由来だそうだが、本作に登場するタヌキたちが腹太鼓を鳴らしたり、茶釜に化けたりする“ザ・タヌキ”な様子は実に微笑ましい。しかし、タヌキたちが人間に戦いを挑むには、あまりにも文明に触れすぎていた。その姿はいつしか人間自身の投影となり、我々に示唆に満ちたメッセージを投げかけてくる。

一定の世代のノスタルジーをギンギンに想起させる自然豊かな古き良き日本の風景描写には、なんかもう無条件に号泣してしまうだろう。

ワガママは男の罪? 宮崎自身を投影したヒコーキ狂の物語

『風立ちぬ』
ブルーレイ(6,800円+税)、DVD(4,700円+税)発売中
© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK
https://www.disney.co.jp/studio/ghibli/1265.html

当時、宮崎駿最後の長編作品として話題を呼び(後に撤回)、公開されるや賛否を巻き起こしたのが『風立ちぬ』(2013年)だ。大正~昭和初期の日本を舞台に、ゼロ戦を設計した航空技師・堀越二郎の実話と作家・堀辰雄の私小説をミックス。じわじわと戦争に突き進んでいく日本で飛行機の設計に打ち込む主人公・二郎の夢と挫折、そして妻・菜穂子との切なく純粋な愛を描く。

冒頭からすさまじい妄想を展開する少年時代の二郎。これまで宮崎アニメで幾度も描かれてきた想像上の巨大飛行艇や実在の複葉機などが多数登場するのだが、二郎はそんな妄想力をいい大人になっても発揮しまくるガチの飛行機オタクである。しかし物語の分かりやすい推進力となるようなミッション等は一切なく、激動の時代の中で黙々と夢を追い続ける二郎の姿と、壮大な夢のシーンが交互に描かれる。

夢追い人? 戦犯? 過剰な説明を廃し賛否を巻き起こす

本作では戦闘機の飛行音をはじめ、劇中の効果音の多くを人間の声で表現している。中でも関東大震災のシーンは特に不気味で、うめき声のような地響き音は東日本大震災の記憶も鮮明だった当時の人々の心に恐ろしく響いたはずだ。ちなみに反則レベルの美味そうなフード描写は相変わらずで、鑑賞後はサバの味噌煮とシベリア(菓子)が食べたくなること請け合い。昼間からどんぶり飯をもりもり食べる二郎たちの姿からは、戦前の食生活も伺い知れる。

偏執的なまでに飛行機を愛する二郎は宮崎自身や、例えば庵野秀明のような面倒くさいアニメオタク……もとい孤高のクリエイターたちのキャラクターと丸かぶる。説明不足と指摘される心理描写やストーリーは他者に寄り添われることを求めない心情の発露でもあり、それは作中で描かれる事柄の良し悪しとは無関係だ。庵野は二郎の声もあてているのだが、すさまじい素人くささに違和感を感じなくなってしまうからスゴい、というかちょっと怖い。

本作に寄せられた賛否の中には、戦争の道具であるゼロ戦の開発や妻を犠牲にするかのような態度に対しての自戒が少ないという指摘もあっただろう。それゆえに ― もちろん感動の物語であることに疑いはないのだが ― 流した涙に罪悪感にも似た感情を覚えた人もいるかもしれない。その辺りも含め、二郎の夢に度々登場する飛行機設計士カプローニや、ソ連のスパイと思しきカストルプらが象徴するもの(夢=飛行機や現実=戦争?)に込められた想いなどを、改めて読み取ってみてはいかがだろう。

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