“マルチ・バース”って何?『スパイダーマン:スパイダーバース』が全世界で評価されている理由

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ライター:杉山すぴ豊
“マルチ・バース”って何?『スパイダーマン:スパイダーバース』が全世界で評価されている理由
『スパイダーマン:スパイダーバース』
本家スパイダーマン映画のスピンオフかと思いきや、世界中で大絶賛されアカデミー賞受賞を果たしたアニメ『スパイダーマン:スパイダーバース』。その多様性あふれる魅力について、MCUのマルチ・ユニバースを踏まえつつ杉山すぴ豊氏が解説してくれた。

アメコミ世界の“マルチ・バース”って何?

『スパイダーマン:スパイダーバース』

アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』。これだけでも素晴らしい作品ということがわかりますが、本当に楽しく見応えのあるスパイダーマン映画の傑作です。予告等でご覧になるとわかりますが、色々な種類のスパイダーマンが出てきますよね。これって一体?

実はアメコミでは“マルチ・バース”という考えがあって、バースは“ユニバース”の意味。要は、この宇宙にはパラレル・ワールドがいくつも存在するという考えなのです。アメコミがこの手法をとりいれた背景はいくつかあるのですが、アメコミというのは長い歴史があるので新しい読者をとりこむために時々世界観をリセットしたり、また新たな視点でヒーローの物語を一から語りなおす新シリーズを始めたりするわけです。また、もしこのキャラが現代のアメリカではなく中世の時代にいたら(逆に未来の世界にいたら)みたいな“タラレバ”設定の番外編コミックも多い。

こういろいろバリエーションが多いと自分は基本ラインのお話が好きだった、自分の世代としてはこの設定になじみがあると、ファンとしても好きなバージョンがばらけてくる。そうした気持ちに応えるため“どのバージョンも、それぞれが別世界同士の関係という形でこの宇宙にはちゃんと存在する・共存している”というスタンスを打ち出したわけです。

色々あるけど全部“あり”の世界でファンも納得

『スパイダーマン:スパイダーバース』

こうしたマルチ・バースがいまさかんになっている理由は二つあって、一つはダイバーシティです。つまりアメコミは80年以上の歴史を持つ文化ですから、白人・男のヒーローが圧倒的に多い。こうした中、同じヒーローを違う人種、女性で語るという試みを、このマルチ・バースで展開するわけです。

いま『アベンジャーズ』映画でサミュエル・L・ジャクソンが演じているニック・フューリーは、オリジナルの原作コミックではもともと白人です。しかし、別世界のアベンジャーズ(アルティメッツといいます)の世界では黒人のニック・フューリーが登場。映画はこの黒人版を採用しています。

もう一つの理由は、コミックだけでなく、映画、アニメ、ゲーム、ドラマと様々なバージョンが生み出され、これらの設定が媒体の特徴にあわせアレンジされたときに、それらをすべて“よし”とするために、原作コミック、映画、アニメ、ゲーム、ドラマもマルチ・バースの関係にある、としたのです。

マーベルが『アベンジャーズ』系の映画でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)というくくりを打ち出したのは、当然コミックの設定と映画は異なるところも出てくる、そうなると原作コミックの熱心なファンは映画上での設定の変更が許せない、みたいな気持ちになるかもしれない。そうした時、コミックのマーベル・ユニバースとMCUは別物であり、けれど、どっちも“あり”なんです、と言うことで納得してもらえるのです。

DCも、TVドラマ版『THE FLASH/フラッシュ』のグラント・ガスティンが素晴らしくて、ファンの間では映画版も彼に演じて欲しいとの声も多かった。けれど映画版はエズラ・ミラーになりました(彼もまた素晴らしいフラッシュです)。エズラ・ミラーはそうしたファンの気持ちがわかる人なので「ガスティンのフラッシュと僕のフラッシュはマルチ・バースの関係なんだ」とコメントしました。というわけでスパイダーマンにとっても、このマルチ・バースが適用され“さまざまな世界に、その世界なりのスパイダーマンがいる”というわけです。これを “スパイダーバース”と呼びます。

同じ悩みを抱えた複数世界のスパイダーマンたち

『スパイダーマン:スパイダーバース』

この映画は、黒人少年のマイルス君がスパイダーマンとなった世界を舞台に、次元を超えて様々なスパイダーマンが集まり、彼を支えていくという物語です。ビジュアル的に様々なデザインの、そしてテイストの違うスパイダーマンが一堂に会しているのは楽しいし、またコミックのコマ割りを意識した斬新な表現方法や音楽の使い方など、とてもアーティスティックでおしゃれな映画に仕上がっています。

ストーリーは少年の成長の物語ですが、どのスパイダーマンも、姿形は異なるけれど、“望まぬ力を得た代償に、大切な人を失う”という心の傷をかかえています。スパイダーマンとは、そもそもこういう設定のヒーローだから、どこの世界のスパイダーマンも同じ悩みを持っているわけです。だからこそわかりあえる、励ますことができる。“他人ではあるけれど、もう一人の自分でもある”という究極の仲間たちなのです。だから、彼らの心が通じ合っていくプロセスがとてもエモーショナル。まさかスパイダーマンのアニメ映画で泣くとは思いませんでした。

『スパイダーマン:スパイダーバース』

『スパイダーマン:スパイダーバース』は興行的にも批評的にも大成功をおさめ、続編が期待されています。スパイダーバースをテーマにした原作コミックでは、あの伝説の東映スパイダーマン(特撮実写ドラマ!)もバースの1つとして存在しているし、トビー・マグワイアのスパイダーマン、アンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマン、トム・ホランドのスパイダーマンもバースの関係にあるので、これらが全員出てきて欲しい!(笑)

『スパイダーマン:スパイダーバース』おすすめです!

文:杉山すぴ豊

『スパイダーマン:スパイダーバース』は2019年3月1日(金)、2日(土)3日(日)IMAX先行上映  2019年3月8日(金)全国ロードショー

受賞結果一覧ほか 第91回アカデミー賞

『スパイダーマン:スパイダーバース』

革新的なヴィジュアルのアニメーションとともに、フレッシュなスパイダーマン・ユニバースが誕生する!ニューヨーク・ブルックリンの少年マイルス・モラレスが暮らす世界には、スパイダーマンのマスクをかぶることができるのは一人だけではない。無限の可能性が秘められた<スパイダーバース>が存在していた。

制作年: 2018
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