ついに日本上陸『スペルマゲドン』監督インタビュー
その挑戦的なタイトルと相反するような可愛らしいビジュアルで、かねてから話題を呼んでいたアニメーション映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』が、2月13日(金)から全国公開中だ。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』2024©74 ENTERTAINMENT AS
ピクサーかイルミネーションか、あるいはドリームワークス制作のアニメを彷彿させるポップなビジュアルの本作だが、じつはノルウェー発の完全オリジナル作品。しかも監督・脚本を務めたのは、『処刑山 -デッド・スノウ-』(2007)や『ヘンゼル&グレーテル』(2013)、『バイオレント・ナイト』(2022)などで日本でも名を知られる実力派トミー・ウィルコラだ。
言うのも野暮だが「スペルマ(精子)」と「アルマゲドン(最終決戦)」をミックスしたタイトル、そして“精なる大冒険”という副題からも明らかなように、本作は卵子を目指す精子たちの過酷な生存競争を描いたサバイバル劇。つまり精子と卵子が登場するわけで、当然ながらそれは人間の男女が存在することを意味する。しかも受精をかけたレースと若者の性行為を交互に描き、極度に擬人化されたフィクションと多くの観客にとって身近な営みを違和感なく両立させている。
というわけで、しっかり笑えて少し照れくさくもあり、かつ色んな意味でアッと驚きの展開も用意された本作について、ウィルコラ監督にじっくり伺った。
トミー・ウィルコラ監督
「ハリウッドでは“できないって分かってるよね”みたいな反応だった」
――監督は『処刑山』や『ヘンゼル&グレーテル』などのホラーやアクション、スリラー作品で日本でもよく知られているので、可愛らしい絵柄のアニメを手がけたことにまず驚きました。なぜ「性」をテーマにした、しかもミュージカルまで盛り込んだアニメ映画を作ろうと思ったのでしょうか?
じつは「卵子を目指す精子の壮大なレース」というアイデアは何年も前から頭の中にあって、『処刑山』を一緒に書いた脚本家の友人たちに話していました。でも「きっとこんな映画は無理だよね」と思っていたんですが、どういうわけか制作資金が集まり、出来上がったわけです。
私にとっては、なにか違うことをやってみようということでアニメーションに挑戦しました。そして、すごく可愛らしいものを作りたいなと思いつつ、かつ淫らなユーモアがあったり、メッセージがあるものを作りたい、そういう思いでした。
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――本作は、アメリカ(ハリウッド)では様々な問題で制作が難しかったと思いますが、そのうえでピクサーやマーベル作品を想起させるところに皮肉的な面白さもあります。精子たちや少年少女たちのポップなデザイン、スーパーヒーロー作品へのオマージュなどは、監督ご自身の発想ですか?
最初はハリウッドで作ろうと思っていたので、すごい大物プロデューサーがついて多くのスタジオにプレゼンに行きました。彼らはみんな(構想を聞いて)大笑いするんですが、ちょっと“間違った部分”に話が及ぶと、笑いつつも「まあ、できないって分かってるよね」みたいな話になり、やっぱりハリウッドでは難しいなと。それで、セクシュアリティについて少しオープンなヨーロッパに持っていこうと思いました。
ピクサーのようなルックを使っているのは、意図的なものです。すごく可愛い感じで、色合いなど様々なものが同じスタイルで出来ていますよね。そのスタイルがセックスや、下品でギリギリなジョーク、あるいはミュージカルパートの曲、そして伝えようとしているメッセージやトーンとも、すごく上手くミックスできるなと考えたんです。
そして、これはスーパーヒーローの旅路でもあり、ジズモ(※トニー・スタークを凶悪にしたようなマッチョでワンマンな精子)はアイアンマンにオマージュを捧げたようなコスチュームですよね。そういう意味で、スーパーヒーローからのインスピレーションもあります。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』2024©74 ENTERTAINMENT AS
「ちょっと恥ずかしくて、なんだか億劫で、でも可笑しかったりもする」
――多くの観客は(精子の)シメンとカミラを応援することになりますが、彼らの成功は(人間の)少女の望まない妊娠を意味することでもあり、複雑な気持ちになります。この印象的な対比は最初から意図していたものですか?
もちろんそうです。そして、それこそが私がこの映画を作りたいと思った理由の一つでもあります。本作には可笑しなジョークがたくさんありますし、ミュージカルもあり、観客にショックを与える部分もあるでしょう。それと同時に“視点”を与え、あるテーマについて意見を述べることが大事だと思ったんです。その視点がとくに、アメリカで制作するのが難しい理由でもありました。だからこそ私たちはこの映画を作りたかった、その大きな理由でもあるんです。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』2024©74 ENTERTAINMENT AS
――その姿勢につながってくることでもあると思うのですが、制作時にはキャラクターのセリフや行動には慎重にならざるを得なかったと思います。そのうえで「セックスや妊娠・出産について語ることをタブー/秘めごとにしない」という意志も感じました。そうしたテーマの扱い方と、バカバカしい下ネタ(コメディ)の笑いのバランスは、強く意識されましたか?
まさに、そうですね。脚本を書いている段階から、さらに編集の時点でもすごく話し合いました。ものすごくジョークがたくさんあって「笑ってほしい!」という部分と、「ちょっと考えてほしい」という部分のバランスを取りたいと思ったんです。単に淫らなコメディアニメにはしたくなかった。
そうして色々と話し合う中で、ジョークもあるしハートもある、けれども“体から出た後のこと”についても観客に共感してほしかったんです。つまり、初めて恋に落ちたり初めてセックスをしたり、そのときの感覚をリアルにしたかった。ちょっと恥ずかしくて、なんだか億劫で、でも可笑しかったりもする、そういったものも見せたい。たぶん皆さんが通る道でしょうから。
物語の終盤まではある程度同じようなトーンで進むので、「(その後の展開と演出に)え、突然…!?」という感じがするでしょう。でも、それは意図的なものです。わざと“いきなり違うレベルのものを出す”という展開にすることで、それまでの楽しんでいたところから、最後には色々と感じて、考えてほしい。そうした希望を込めて作りました。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』2024©74 ENTERTAINMENT AS
「昔も今も、若者のセックスについては議論を呼ぶものなのだなと」
――おそらく10年以上前に制作されたであろう、ノルウェーの性教育ビデオが話題になったことを覚えています。またノルウェーでは『SKAM』というセクシュアリティについて描いた青春ドラマも有名ですね。監督は本作について「精子版の『キャノンボール』」と表現されていましたが、制作にあたって参考にした性教育関連の映像作品や青春映画/ドラマ、アニメはありますか?
今おっしゃった性教育のビデオは私も観たことがあります。それと私がまだ幼い頃に、同じホストの人がいろんなことを子どもに教えるテレビ番組があったんですが、そのホストはすごく先見性があって、その当時――35年くらい前になりますが――精子とかセックスとか、それらがどうやって働いているかということを教えてくれていて、当時から物議を醸していました。そして今、この『スペルマゲドン』も大きな反響を呼んでいるわけです。
For 35 år siden i dag lærte Trond-Viggo oss om luftveiene https://t.co/4toSosFyA6 #nrkarkiv pic.twitter.com/BTTmub5nLm
— NRK (@NRKno) March 24, 2016
やはり、いつの時代でも社会において、ある一定の人々はそういったものに動揺したり、怒りを覚えるのだと思います。たしかに、16~17歳くらいの子どもたちに性についての話をするのは非常にデリケートなことです。それと同時に、皆それくらいの年頃に性に興味を持ち始めたり実際にセックスをするものなのに、なぜ多くの人が怒るのだろうかと、奇妙に感じたりもするわけです。ともあれ昔も今も、若者のセックスについては議論を呼ぶものなのだなと思います。
本作はノルウェーで、多くの若者が観てくれました。いまだにノルウェーでもセックスや、あるいはセクシュアリティに関する気まずさみたいなものがあるので、この映画がそういったことを“より危険ではない”ものにする助けになれたら嬉しいと思っています。
@nrk The tension 🔥 Se «SKAM» i appen #nrktv #SKAM10år #skam
♬ Originalton - 80s_90s_Nostalgia
「私自身も若い頃、下品なコメディなどをたくさん観て多くのことを学んだ」
――本作は、性行為についてポルノから学ぶ若者が多いことを描きながらも、その有害性を乗り越える知性や自発性を少女や少年に託している点も素晴らしいと思います。制作時から「性教育の教材としても機能するように」という意識はあったのでしょうか?
うーん、そういうつもりはなかったですね。この映画がノルウェーで公開されたとき、メディア上ですごく大きな議論が起こりました。それと同時に、多くの人が「これ、学校で見せたらいいんじゃないか?」という話もしてきました。子どもたちに、こうしたテーマについてファニーな形で紹介する良いやり方なんじゃないか、そういう価値があるんじゃないかと。ですから、もともとそういうつもりで作ったとは言いませんが、もしこの映画が子どもたちにユーモアを通じて何かを学ぶきっかけになってくれたら、すごく嬉しいとは思いますね。
私自身も若い頃に、おそらくその年齢では観てはいけないであろう下品なコメディなどをたくさん観て、そこから多くのことを学んだわけです。はたして正しいことを学んだかどうかは疑問ですが(笑)、ユーモアを通じて、アニメを通じて学ぶということは、すごく役に立つ方法だと思っています。この映画が封切られたとき、あいにく私はノルウェーにいなかったんですが、プロデューサーが劇場に行ってみたら、グループで観に来ている若い観客がちらほらいたそうで、それはすごく良いことだなと。とくに最近、若者たちは映画館に行かないですから。
そうした若者がグループで観に行って、ちょっといやらしいシーンや大人びたシーンに笑ったり、ニヤニヤしたり。まさにそれが、私たちが欲しかった反応ですし、感覚なんです。なので願わくば、若者たちの目を、それもファニーなやり方で開かせることができたら良いなと思っています。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』2024©74 ENTERTAINMENT AS
――本作のエンドクレジット後に表示される“免責事項”に思わず笑ってしまいました。あれはウケを狙った部分もあるのでしょうか?
半分ジョークですが、半分はシリアスです。プロデューサーが「あれ入れといたほうがいいよ、マジで」と言ってきたんです(笑)。というのも、ノルウェーですごく有名なラジオ番組があって、若い視聴者が質問を送ってきたりするんです。多くがセックスについてのものなんですが、それを聴いていると「みんな何も分かってないな……!」と思うことが多くて。だから「一応、念のため入れておこう」というのと、ジョークの部分と両方ですね。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』は2月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中
『スペルマゲドン 精なる大冒険』
思春期真っ只中の少年・イェンス。友達たちと遊びに出かけた彼は、気になる女の子・リサとの“初めてのチョメチョメ”を迎えることに─!? 一方その瞬間、イェンスの“精子たちの王国”では、<スペルマゲドン警報>が発令され、とんでもない騒ぎが巻き起こっていた! 外の世界へ飛び出すことだけを夢見て悶々と暮らしてきた10億もの精子たちが一斉に大パニックに! ちょっぴり頼りない精子・シメンと、勝気でまっすぐなカミラはついに訪れた“発射”の瞬間を迎えるべく、最小にして最大の命がけの大冒険へと駆け出す!! 旅の途中で待ち受けるのは、裏切りあり! 挫折あり! 涙あり! …友情あり!? しかし、ふたりはやがて“とんでもない事実”に直面するのだった……。
監督:トミー・ウィルコラ、ラスムス・A・シーヴァートセン
声の出演:ラランド ニシダ(シメン役)、大橋彩香(カミラ役)、福原かつみ(イェンス役)、天沢カンナ(リサ役)
| 制作年: | 2024 |
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2026年2月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中