「劇場版パトレイバーが大好き」仏アニメ界の旗手ジェレミー・ペランが語る『マーズ・エクスプレス』の背景
「70年代当時、ルネ・ラルー監督がどれだけ“異端”だったか」
――その『ラストマン』には、ジョン・カーペンターの作品を思い出す瞬間がいくつかありました。そして、2004年にあなたがジバンシィのために製作した短編アニメには、『要塞警察』(1976年)のテーマ曲が使用されていましたね。
はい、カーペンター作品は間違いなく大好きです。これまで自分の仕事の中でも、彼の作品を“召喚”したことが何度かあったと言えるでしょう。『ラストマン』においても同様で、あのシリーズの物語自体はホラー的な側面やファンタスティックな要素がありますが、それらのジャンルにおいてカーペンターはもっとも優れた作り手の一人だと思います。とくに物語上の“効果”を少ない予算でも最大限引き出せるよう、有効な撮り方をしていますよね。
そういう意味で、『ラストマン』も信じられないほど低予算で作らざるを得なかったので、すぐさまカーペンターを召喚したくなりました。とくに物語的な有効性において、非常に心強かったですね。もちろん物語運びの有効な解決策においては、日本のアニメからヒントを得たものも多かったです。ただやはり、“もし2つの解決策があるなら、より小さな、あえてチープなほうを選ぶ”といったようなカーペンターの精神を、大いに参考にさせてもらっています。
――本作に登場する上半身だけの黒い脱獄ロボットは、ルネ・ラルーの『ガンダーラ』(1987年)に登場するメタルマンを思い出させます。やはりルネ・ラルー作品の影響は大きいですか?
たしかにラルー監督は非常に、私にとっても重要な作り手です。『ガンダーラ』も子どもの頃から何度も観ていますが、とくに強く認識しているのは『時の支配者』(1982年)や『ファンタスティック・プラネット』(1973年)ですね。当時はVHSを持っていたのですが何度観たことか、という感じで。歴史的な意味で、フランスにおいてSFアニメーションを作ったというだけでも重要ですが、さらに言えば「こんなに型破りな人がいるのか!?」というくらい、アニメだけでなく映画全体で言っても私は最初にラルー監督を“型破りな監督”として思い浮かべます。
70~80年代に大人向けのSFアニメを作る人なんて、フランスでは誰もいなかった。当時、彼がどれだけ“異端”だったか。もちろん短編にはもっとシュールレアリスムに近い作品もありますが、SF色の強い作品で言えば常に頭のどこかに(ラルー作品が)あったと思います。ですから直接的な形で参考にしたというよりも、フランスにおいて一種の系譜を感じます。フランスは『ルネッサンス』(2006年)という作品もあり、かなり年代が開いているので連続性というわけにはいかないかもしれませんが、そうした系譜があるようが気がしますね。定期的に“SFアニメを作ろう”という試みが出てくるんです。
日本では常にSFアニメが存在しますが、フランスでは継続的ではなく非常に断片的です。それでもフランスでSFアニメを作ろうと試みた人たちは必ず……と思いたいのですが、過去の先達のことを想いながら「また挑戦しよう」と手がけているのではないでしょうか。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
「いま準備している新作では“科学的な背景”を一切描きません」
――あなたはSFに特化した作家ではなく、もっと幅広いジャンルの映像作家なのだろうと感じます。次回作の構想や、すでに進んでいる企画があったら可能な範囲で教えて下さい。
まさに今、新しい長編作品の準備を進めています。ちょうど先週末(※昨年12月半ば)、台本の第1稿が完成したところです。再びディディエ・クレストがプロデューサーで、ローラン・サルファティとの共同脚本です。
この新作はファンタスティックな要素が強く、現代のパリを舞台にしています。今回も新しい挑戦で――これまでは必ず自分の一番身近な現実に少しだけフィルターをかけたようなものを作ってきたんですが、その中ではアメリカ的な影響も強かったように思います、例えば建築様式においてもね。でも今回は自分自身の現実を直視して、それに対面する必要があったと感じています。
そしてもう一つ、それが場合によっては手助けにもなるだろうと。単純化する中で、一番よく知っている現実を参照するわけですから。『マーズ・エクスプレス』のように完全に一から舞台を創造する必要はなく、色んなものを参照して描けるというメリットですね。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
次回作の中にSF色を見出す人もいるかとは思いますが、私にとってはそれほど強いものではなく――もちろんジャンル間をつなぐものは多々あるでしょうが――ファンタスティック色のほうが強い。なぜなら新作では“科学的な背景”を一切描きません。作品世界の様々なルールや、あるいは物語の背景としての神話体系のようなものは色々と考えてはいるんですが……ひとことで言えば「テレパシーの話」ですね。
『マーズ・エクスプレス』は1月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『マーズ・エクスプレス』
ときは23世紀――西暦2200年。
地球での仕事を終え、活動拠点である火星に戻ってきた私立探偵 アリーヌ 。「行方不明になっている大学生の娘を探してほしい」という男の依頼を受けて、アンドロイドの相棒 カルロス と共に捜索を開始する。
調査の過程で、火星の首都ノクティスの暗部に足を踏み入れていく二人を待ち受けていたのは、腐敗した街の裏側、強大な権力を持つ企業の陰謀、そして人間とロボットが共存する社会の根幹を揺るがす事態だった。
| 制作年: | 2025 |
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2026年1月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開