「劇場版パトレイバーが大好き」仏アニメ界の旗手ジェレミー・ペランが語る『マーズ・エクスプレス』の背景
2026必見作『マーズ・エクスプレス』
フランス発の完全オリジナル新作アニメーション映画『マーズ・エクスプレス』が1月30日(金)より全国公開。日本のアニメ作品からの影響を隠さない、しかし“バンド・デシネの国”フランスでしか生まれ得なかったであろう、控えめに言っても2026年最注目アニメの一つだ。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
バンド・デシネと日本の漫画が相互に影響を与え合い、そこから生まれた名作アニメが世界中で愛されてきた。そんなアニメ史の樹形図の中に新たに加わるであろう『マーズ・エクスプレス』を作り上げたのは、大友克洋も絶賛した人気コミックをアニメ化した『ラストマン』シリーズなどで知られるジェレミー・ペランだ。
このたびペラン監督にオンラインでインタビューを実施。日本アニメからの多大な影響はもちろん米ジャンル映画の巨匠へのリスペクト、仏アニメ界の現状から制作の背景、そして次回作の構想まで、たっぷり語ってくれた。
※注:インタビュー内で物語の設定に一部触れています
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
「劇場版『パトレイバー』は、とくに2作目が好きです」
――『マーズ・エクスプレス』を観た最初の印象は、『攻殻機動隊』に似たテクノロジーが発展している未来世界を舞台に、劇場版『パトレイバー』のような物語を描いている、というものでした。劇中の通信技術や、主人公アリーヌと相棒カルロスの関係性などは『攻殻~』を想起させますし、後者にも地道に捜査をする刑事コンビが登場します。直接的な影響はありますか?
おそらく…いえ、もちろんあります。というのも劇場版『パトレイバー』は好きな作品ですし、とくに2作目(『機動警察パトレイバー 2 the Movie』[1993年])が好きです。
今ここでお話するのが初めてなので、誰も知らないでしょうし気づいていないことだと思うんですが……『マーズ・エクスプレス』の主人公アリーヌの“瞳”は他のどの人物よりも小さいですよね? 『パトレイバー』には後藤という登場人物(※後藤喜一/特車二課第二小隊隊長)がいますが、アリーヌの半開きのような“目つき”は、じつは後藤隊長との“つながり”として考えたものなんです。
もちろん他にも、これは『パトレイバー』だけのつながりではありませんが、(アリーヌたちが)コンビで行動するのはフィルムノワールや、アメリカ映画などにおいてもバディものの一つのパターンですよね。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
また、今のご質問のおかげで『パトレイバー』劇場版の1作目(※『機動警察パトレイバー the Movie』[1989年])とも”つながり”があることに気づきました。映画が始まった時点でロボット(※レイバー)たちの中にプログラムが入っていて、それがあるきっかけによって暴走する――つまりロボットたちの運命が、すでに描かれていましたよね。『マーズ・エクスプレス』でもロボットに植え付けられたプログラムがある時点で作動するので、これも共通点と言えるかもしれません。
「フランスにおけるアニメの幅を少しでも広げたい」
――たしかに、アリーヌとカルロスのバディ関係はフィルム・ノワールや、例えば北欧などの刑事ドラマ/探偵ドラマも彷彿させるので、そういった作品が好きな人々にも受け入れられるだろうと思いました。アニメファン以外の観客を意識した部分もあるのでしょうか?
はい、もちろんです……と答えたところで止めても良かったんですが、私は北欧の、例えば「ミレニアム」シリーズのような小説はほとんど知りませんし、映画化されたものを観ている程度です。また、どういった対象を狙うのか、どんな成功を目指すのかといったことも考えていません。どうすれば私のやろうとしていることを、観てくれる人たちに理解してもらえるか? ということを重視しています。観客がどのような人たちなのかという予想はつかないので、もちろん幅広い層に観てほしいですし、それによってプロデューサーたちに信頼してもらえて次の作品を手掛けることができますから。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
フランスではどちらかと言えば、アニメーションは子ども向けの傾向がいまだに強く、もちろん少しずつ価値観は変わってきてはいるのですが、いまのフランスのアニメ界は――極端に単純化した場合にですが――おそらく二つの相対する傾向があると言えます。一つは子どもか家族向けの作品で、そうでないものは非常にシリアスで生真面目な歴史ものとか、過去の過ちを是正するような義務感が働くもの……それは大いに良いことでもあるのですが、同時に何か欠けている気もするわけです。
それは娯楽性やジャンル性であったり、ある一定の世代以上の人々に向けた作品で、観ていて無心で喜びを感じられる、そして良い意味で考えさせられるようなもの。つまりエンターテインメント性と、理性ある思考に働きかける、それらを同時に持った作品が望ましい。少なくとも私が一番好きな作品は、そういったものをもたらしてくれました。それらを目指すことによって、できるならばフランスにおけるアニメの幅を少しでも広げたい、という思いはありますね。
『マーズ・エクスプレス』© Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix
「いわゆる“原作もの”から解放されたかったんです」
――本作の鑑賞後に、あなたが過去に手がけた『クライシス・ユング』や『ラストマン』を観ると、すさまじいギャップに驚く人もいるかもしれません。ですが、その2作を経たからこそ完全オリジナル作品である『マーズ・エクスプレス』の製作に繋がったわけですよね?
とくに『ラストマン』の予想を超えるような成功、人気のおかげで、TVシリーズのプロデューサーを務めたディディエ・クレストから「次も一緒にやろう」と言ってもらえました。ただ、最初に提案されたのは『ラストマン』の長編版を作らないか? というもので、それは断ったんです。なぜならTVシリーズに人生の3年間も費やしたので、共同脚本家のローラン・サルファティと一緒に「むしろオリジナルの物語をやろうじゃないか」と逆に提案して、それが最終的に『マーズ・エクスプレス』になりました。
『クライシス・ユング』に関しては私が監督したわけではなく、そのときはすでに『マーズ・エクスプレス』の準備に入っていました。『クライシス・ユング』は構想の一部を手伝ったのでクレジットでは共同原案という形になっていますが少し違って、工程内での遊びというか……言い訳に聞こえるかもしれませんが、ともかくフルにコントロールすることはできなかったんです。
ひとつ付け加えると、『ラストマン』には原作の漫画がありますが、いわゆる“原作もの”から解放されたかったんです。というのは、制作者たちがオリジナルの構想でアニメーションを作れるんだ、ということを見せたかった。なぜならフランスのアニメは小説や、とくに漫画の原作ものが多く、その場合すでに視覚的な意味で多くのことが決まってしまっている。せっかくアニメで作るのに、視覚的な部分の創造性はかなり減るわけです。それはすごく残念な気がしていますね。
『マーズ・エクスプレス』
ときは23世紀――西暦2200年。
地球での仕事を終え、活動拠点である火星に戻ってきた私立探偵 アリーヌ 。「行方不明になっている大学生の娘を探してほしい」という男の依頼を受けて、アンドロイドの相棒 カルロス と共に捜索を開始する。
調査の過程で、火星の首都ノクティスの暗部に足を踏み入れていく二人を待ち受けていたのは、腐敗した街の裏側、強大な権力を持つ企業の陰謀、そして人間とロボットが共存する社会の根幹を揺るがす事態だった。
| 制作年: | 2025 |
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2026年1月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開