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阿部寛の演技には、長身と彫りの深い顔立ちだけでは説明できない迫力がある。声を張り上げて場を支配することもあれば、視線ひとつで相手の嘘を見抜き、何も語らずに人物の感情を伝えることもある。その振り幅が最も分かりやすく表れているのが、日曜劇場の『新参者』『下町ロケット』『VIVANT』だ。
一言と視線だけで語る存在感。『新参者』で阿部寛が完成させた、唯一無二の加賀恭一郎
『新参者』で演じたのは、日本橋署に着任した刑事・加賀恭一郎。人形町で起きた殺人事件を追いながら、町の人々が抱える嘘を一つずつ解き明かしていく。もっとも、加賀が暴こうとするのは犯罪につながる嘘だけではない。家族を守るための嘘、傷ついた誰かを思う嘘、過去から逃れるための嘘にも目を向け、その奥に隠された事情まで見届ける。
阿部はこの加賀を、大げさな身ぶりや感情表現に頼らず演じている。何げない会話の途中で発する「ちなみに…」というひと言、相手を静かに見つめる目、わずかに変化する口元。真相を告白した人物に向き合うと、その目には哀れみや理解が浮かぶ。視線の変化で人物の内面を伝える演技は、本作の大きな見所だ。
加賀は冷静な切れ者だが、決して冷たい人間ではない。たい焼きを買うために何度も行列へ並ぶユーモラスな姿と、捜査では一切の妥協を許さない厳しさが自然に同居している。阿部の演技が凄いのは、この一見つかみどころのない男に、温かさと人間臭さを少しずつ加えている点だ。シリーズがスペシャルドラマや映画へ広がったのは、阿部が加賀恭一郎を揺るぎない人物として成立させたことが大きい。
静から動へ。叫び、葛藤し、人を動かす阿部寛の圧倒的エネルギー
『下町ロケット』では、『新参者』の静かな演技から一転し、全身から情熱を放つ。阿部が演じる佃航平は、ロケット開発に携わっていた元技術者で、父から受け継いだ町工場「佃製作所」の社長。ロケット打ち上げ失敗の責任を負って研究者の道を離れたものの、宇宙への夢を捨てきれず、自社の技術を武器に再びロケット開発へ挑んでいく。
佃は夢だけを語る理想主義者ではない。社員の生活を背負う経営者であり、技術者として譲れない誇りも持っている。夢を追えば会社を危険にさらす可能性があり、現実だけを選べば自分たちの技術と信念を失ってしまう。阿部はその葛藤を、険しい表情や感情があふれ出すようなセリフで表現する。
社員を鼓舞する場面では、佃の言葉が単なる美辞麗句ではなく、挫折を経験した男の叫びとして響く。怒りや悔しさで声を震わせながらも、最後には周囲を前へ向かせる。熱量の高い演出の中心に立ち、技術者たちの物語を人間ドラマとして成立させているのが阿部だ。
豪快な佇まいの裏に秘めた、鋭い疑念と優しさ。一筋縄ではいかない男が生む極上の緊張感
『VIVANT』の野崎守は、加賀や佃とはまた違う。警視庁公安部外事第4課の理事官で、並外れた行動力と観察眼を備えた人物だ。中央アジアの架空国家バルカを舞台にした序盤では、乃木憂助たちを守りながら警察の包囲網を突破し、砂漠を越えて日本を目指す。阿部の大柄な体格と低く響く声が、国際的なスケールを持つ物語に抜群の説得力を与えている。
野崎の魅力は、豪胆に見えて実際には極めて繊細なところにある。常に周囲を観察し、乃木の正体や目的を探ろうとする。阿部は相手を射抜くような視線を向けながら、すべてを見抜いているのか、それともまだ疑っている段階なのかを簡単には明かさない。この“分からなさ”が物語の緊張感を保ち、視聴者の考察を引き出していく。
その一方で、ドラムとのやり取りや料理を振る舞う場面では、野崎の柔らかさもにじむ。危機的な状況でも動じない存在感は、展開の激しい作品における軸となった。誇張を交えた豪快な話し方や佇まいも、『VIVANT』という規格外の世界観だからこそ成立する。現実離れした冒険の中に野崎という人物を立たせ、物語全体に重さと安心感を与えた演技だった。
相手の心に静かに踏み込む『新参者』、感情をむき出しにして人を動かす『下町ロケット』、豪胆さの内側に疑念と優しさを隠す『VIVANT』。同じ低い声や強い眼力を生かしながら、その見せ方は作品ごとに異なる。3作品には、阿部寛が人物の職業や性格だけでなく、その男が何を背負い、何を守ろうとしているのかまで演じ分けてきた軌跡が刻まれている。