「ホラー的な演出も、たぶん予想以上に(笑)」D・R・ミッチェル監督が語る恐竜ムービー『オークストリートの異変』
『オークストリートの異変』監督が語る“インスピレーション”
もともと映画という媒体は、その起源の時代から、日常の中に“ありえない”何かを出現させることを得意としてきた。そして今や、映像テクノロジーの進化で、どんなイメージも再現できる時代になった。
この『オークストリートの異変』も、平和な日常に恐竜など古代の生物が姿を現す……という基本設定によって、当然、リアリティ満点のビジュアルが用意されるわけだが、現代の映画ファンにとって、そんなことは常識。目新しいチャレンジでもない。では、どんな方向でアピールしようとするのか。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
本作の場合、それは“ちょっと懐かしい”ムードかもしれない。ノスタルジーと言ってもいい。『イット・フォローズ』(2014年)などで知られる監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは、その狙いを次のように語り始める。
僕らが心から大切に思う人たちが一緒に暮らす家があり、その安全な空間が何かによって危機にさらされる。この設定のインスピレーションとして、1970〜80年代のスティーヴン・スピルバーグの映画、および彼が携わったアンブリン(・エンターテインメント)の作品群を意識しました。非現実的で超自然主義的なエレメントをたっぷり盛り込みつつ、キャラクター描写に重点を置く。そのようなトーンを守るのが、今回の僕の目標でした。
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督、J・J・エイブラムス『オークストリートの異変』ワールドプレミア © 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
「ここに恐竜が現れたら、僕はどう反応するだろう?」
恐竜の映像といえば、スピルバーグが『ジュラシック・パーク』で起こした革命が記憶されるが、それは1993年のこと。『オークストリートの異変』は、むしろそれ以前の『E.T.』(1982年)や『ポルターガイスト』(1982年)、『グレムリン』(1984年)あたりのテイストが意識されている。
映像のルックは2026年の最新型。しかしムードは1980年代の大ヒット作に近い。その絶妙なバランスによって、“ありえない”状況に没入し、興奮してしまう。タイトルの「オークストリート」も、明らかに1984年にスタートした『エルム街の悪夢(A Nightmare on Elm Street)』が意識されている。オークもエルムも、どちらも樹木の名前だ。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
舞台は1982年のアメリカの郊外。母のデニース(アン・ハサウェイ)、父のグレッグ(ユアン・マクレガー)、2人の子供たち、オードリー(メイジー・ステラ)、ブライアン(クリスチャン・コンヴェリー)、そして犬のスターバックというプラット家の日常が一変する。近所の庭に古生代の植物が生え、巨大な排泄物が見つかったのを始まりに、地域一帯を恐竜が闊歩するように!
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
逃げ惑い、襲われる隣人たち。プラット家は決死のサバイバルを強いられるも、当然、恐竜たちの前では成す術もなく……。時空を超えたSFパニック作品の様相を呈するこのストーリー。ミッチェル監督の“ひらめき”がすべての発端だったという。
数年前のことでした。近所の小さなストリートを散歩している時に、ある家の前に立ち止まったんです。その家の車のガレージにはゴミ箱が置かれていました。言ってみれば、どこにでもある風景。でもなぜかその瞬間、“ここに恐竜が現れたら、僕はどう反応するだろう?”と感じちゃって(笑)。
そして、これこそが自分が映画で描きたい世界だと確信し、アイデアを書き留めて物語をあれこれ模索していきました。ふだん一緒に仕事をしている人にアイデアを共有したら、とても面白がってくれ、その中の一人がアン・ハサウェイで、彼女がぜひ参加したいと言ってくれたんです。
そこから勢いづいて、J・J・エイブラムスの<バッド・ロボット・プロダクションズ>に企画を持ち込んで気に入ってもらい、ワーナー・ブラザースへ……という幸運によって製作が決まりました。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
「もちろんホラー的な演出もたっぷりほどこしています。たぶん予想以上のはず(笑)」
アイデアやストーリーはミッチェル監督のオリジナルで、J・Jは、あくまでプロデューサーとしてサポート役に徹してくれたという。『イット・フォローズ』を観たアン・ハサウェイは、自分からミッチェル監督に「会いたい」とアプローチし、一緒に仕事をしたいと切望。ミッチェル監督も本作のハサウェイについて「これまで彼女がやってきた演技と、まったく別方向で、特殊なものだったので感激した」と、起用の喜びを隠さない。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
アン・ハサウェイだけでなく、多くの映画ファンを夢中にさせた『イット・フォローズ』は、ミッチェル監督の長編2作目。呪いがウィルスのように感染し、感染した者には恐ろしい何かが迫ってくるという新感覚ホラーだった。そして続く3作目の『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年)は、ロサンゼルスを舞台に、美女が失踪する事件の裏で怪しい陰謀がうごめくネオノワール・ミステリー。ポップカルチャーへの“オタク”的なオマージュもたっぷり盛り込まれた異色作だ。
これら2作のテイストも『オークストリートの異変』に通じているのか? そうなれば作家性も見えてくるが、ミッチェル監督はそこまで作家性に固執していないようだ。
もちろん『オークストリートの異変』にはホラー的な演出もたっぷりほどこしています。たぶん予想以上のはず(笑)。そこは僕の得意技ですからね。一方で『アンダー・ザ・シルバーレイク』に投入した、観る人を惑わすような作劇や、ポップカルチャーのネタは、今回は希薄です。プラット家のサバイバルや葛藤のドラマは、あくまで現実的なので、そこから話を逸らす要素は限定的にしました。
製作費は僕のキャリアで最大でしたから、<ILM>の最高のスタッフとともに、さまざまな“実験”を繰り返すことで、科学や動物に関して、どこまでリアリティを追求できるかが本作でのチャレンジでしたね。でも次回作は『イット・フォローズ』の続編(『ゼイ・フォロー』/原題)ですから、もう一度、原点に戻る感じでしょうか。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
「幼い頃からモンスター映画をたくさん観てきた。もちろん日本の『ゴジラ』シリーズも」
メジャースタジオで、<ILM>の最先端技術を総動員した、夏休みにぴったりの、いわゆるポップコーン・ムービー。しかし登場するクリーチャーには、巨大ヘビであるティタノボアのような恐竜パニック映画ではレアな種類も登場するし、恐竜の生態に関して“衝撃”の描写も出てくるなど、この手の作品を観慣れた人の度肝を抜くシーンが満載だ。これらに関して、ミッチェル監督は、いくつかの作品がヒントになったことを言及する。
まず『恐竜グワンジ』(1969年)ですね。レイ・ハリーハウゼンによるストップモーションは子供の頃からの憧れでした。あの作品に出てくる(恐竜の一種)アロサウルスにも今回、活躍してもらっています。
作品のトーンとしては「トワイライト・ゾーン」のいくつかのエピソードを意識しましたし、M・ナイト・シャマラン監督の『サイン』(2002年)あたりもインスピレーションの源になりました。
そもそも、なぜ子供時代に恐竜映画の虜になったのか。そこには、家族からの影響が大きかったことをミッチェル監督は振り返る。
幼い頃から父と一緒にモンスター映画、ホラー映画をたくさん観てきました。その中には、もちろん日本の『ゴジラ』シリーズも入っていますよ。なぜかと言うと、父は古生物学に夢中で、恐竜を愛していたから。僕の人生は、恐竜映画とともに存在していたと断言できます。だから本作は、念願のプロジェクトなんですよ。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
では、息子が撮った『オークストリートの異変』を、父はどんな思いで観たのか。残念ながら、それは叶わなかった。映画のクレジットで「本作を父に捧げる。ロバート・アレン・ミッチェル 1951-2024」と示されるように、ミッチェル監督を映画好きにした父親は、2年前、73歳でこの世を去っている。監督にとって、おそらく世界で一番、本作を観てほしかったのが父だったのではないか。
そんなミッチェル監督の思いとともに本作を観ると、あるシーンで胸がいっぱいになるかもしれない。そこには、やはりアンブリンの代表作である『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)も彷彿とさせる“映画のマジック”がはたらいている。
『オークストリートの異変』© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
シンプルに恐竜vs家族のアドベンチャーとして楽しませ、興奮させる『オークストリートの異変』だが、監督の「父が生きていたら観てほしかった」という私的な思いを受け止められるという意味で、思わぬ傑作になったと言っていい。
取材・文:斉藤博昭
『オークストリートの異変』は8月14日(金)より全国公開
『オークストリートの異変』
平和な街オークストリートで、平凡な暮らしを送るプラット家。
しかしある日を境に、街では不思議な現象が発生。
ついには水道や電気が止まり町は断絶状態に。さらに、絶滅したはずの恐竜が街中に出現し住民を襲いはじめる。
はたして家族は、襲い掛かる様々な恐竜から逃げ延び、異変から脱出することが出来るのか?
制作:J・J・エイブラムス『クローバーフィールド』、『スーパー8』
監督 :デヴィッド・ロバート・ミッチェル『イット・フォローズ』
出演 :アン・ハサウェイ ユアン・マクレガー メイジー・ステラ クリスチャン・コンヴェリー ほか
| 制作年: | 2025 |
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2026年8月14日(金)より全国公開