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超グータラ男、なぜ世界中で愛された? 『ビッグ・リボウスキ』の“クセ強”主人公誕生の経緯と挿入歌の秘密

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ライター:#森本康治
超グータラ男、なぜ世界中で愛された? 『ビッグ・リボウスキ』の“クセ強”主人公誕生の経緯と挿入歌の秘密
『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

名作『ビッグ・リボウスキ』復活上映

不条理な展開、ユーモアとスリルが融合した独特な雰囲気、そして「人生は滑稽で、どこか悲しい」という不変のテーマで映画を撮り続けるジョエル&イーサンのコーエン兄弟。彼らの監督作の中でも特に人気が高く、本国では有志によるファンイベントもコンスタントに開催されている脱力系クライムコメディ『ビッグ・リボウスキ』(1998年)が、5月29日から2週間限定でリバイバル上映中だ。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

チャンドラーの小説の世界をスクリューボールコメディとして描く

コーエン兄弟は、本作について「レイモンド・チャンドラーの探偵小説をモチーフにした」と公言している。確かに「主人公が同姓同名の別人と間違われて複雑な事件に巻き込まれ、自分と違う世界の住人たちと関わりながら事件の真相に迫っていく」という物語はハードボイルド小説的である。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

だが本作の登場人物は、ハードボイルドとは程遠いヘンなキャラばかり。主人公はボウリングを愛するヒッピー崩れのグータラ男デュード(ジェフ・ブリッジス)。彼の相棒はすぐにキレる退役軍人ウォルター(ジョン・グッドマン)。この種の物語に欠かせない“謎の女”はフェミニストの前衛芸術家モード(ジュリアン・ムーア)。さらに、ジャンプスーツにヘアネット姿の変態ボウラー、ジーザス(ジョン・タートゥーロ)や元テクノポップ・ミュージシャンのニヒリスト(ピーター・ストーメア)など、おかしな人物が次々と登場する。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

本作は誘拐事件にまつわる騒動を描いており、批評家たちは『ファーゴ』(1996年)のような内容を期待したが、想像を超える奇妙な展開に困惑し、当時は興行的にも批評的にも伸び悩んだ。しかし、1990年代末といえばインターネット普及開始期。ビデオリリースが始まった頃にはクチコミで人気に火がつき、ジワジワと再評価の気運が高まっていった。

とりわけ興味深いのが、近年デュードの自由気ままな生き方に憧れる若い世代が多いという事実だ。確かに昨今の殺伐とした世の中を見ていると、事件に巻き込まれてもマイペースで生きるデュードが魅力的に映るのも分かる気がする。そんなデュードを“禅マスター”と捉える人もいるのだとか。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

デュードとウォルターのモデルとなった人物たち

デュードとウォルターにはモデルとなった実在の人物がいる。デュードのモデルとなったのは、映画プロデューサーのジェフ・ダウド。1970年代に<シアトル・セブン>の一員として過激な反戦運動に参加し、法廷侮辱罪で数ヶ月服役したダウドは、その後映画業界に身を置いた。そのとき『ブラッド・シンプル』(1984年)の配給先を探していたコーエン兄弟と出会い、彼らに協力したことでよき友人となった。

コーエン兄弟はダウドの風貌や所作、ユニークな経歴をもとにデュードを創作(ダウド自身も名字の“Dowd”をもじって“デュード”と呼ばれていた)。ただしダウド自身は決してグータラではなく、インディペンデント系映画のマーケティング戦略を多数手掛けてきたやり手であることを補足しておきたい。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

一方、ウォルターはコーエン兄弟が『ブラッド・シンプル』の資金集めをしている頃に知り合った元映画会社重役のピーター・エクスラインと、彼の友人ルイス・アバナシー、そして『ビッグ ウェンズデー』(1978年)や『コナン・ザ・グレート』(1982年)の映画監督ジョン・ミリアスの三人から着想を得て創作したキャラクターとされている。

『ビッグ・リボウスキ』 © 1998 Universal Studios. All Rights Reserved.

エクスラインとアバナシーはベトナム戦争への従軍経験があり、エクスラインはそのことを話し出すと饒舌になったという。そんな彼の話のいくつかは実際にウォルターのセリフとして使われることになった。ちなみに劇中で度々登場する「敷物は部屋にピッタリ(That rug really tied the room together)」というセリフは、エクスラインがホームパーティーのときに発した言葉で、コーエン兄弟がその言い回しを気に入って映画で使ったらしい。

『タイタニック』(1997年)にトレジャーハンター役で出演しているアバナシーは、かつて副業で探偵の仕事をしており、エクスラインの盗まれた車を探したとき本当にあったエピソード(車の座席に添削済みの子どもの宿題が挟まっていた話)が劇中で使われている。

グッドマンに負けず劣らずの巨漢であるアバナシーに、「ハリウッド屈指のタカ派監督」として知られるミリアスのミリタリーマニア/ガンマニアぶりを誇張して付け足し、「タフで頼りになりそうだが、事態をややこしくするだけのトラブルメーカー」という強烈なキャラクターが出来上がった。コーエン兄弟は『バートン・フィンク』(1991年)で映画スタジオ社長役をミリアスにオファーしていたそうなので、それは実現しなかったものの両者には交流があったようだ。

「頭の中が70年代のままの男」の日常を彩る楽曲

1990年代になっても1970年代的な生き方を変えないデュードの物語を創作するにあたって、コーエン兄弟は脚本執筆の段階からクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(以下「CCR」と表記)のいくつかの楽曲や、ケニー・ロジャース&ザ・ファースト・エディションの「Just Dropped In (To See What Condition My Condition Was In)」、ボブ・ノーランの「Tumbling Tumbleweeds」、ジプシー・キングスがカヴァーした「Hotel California」といった曲の使用を考えていた。

そしてデュードが愛するボウリングの世界にふさわしい「カラフルなサウンドトラック」に仕上げるため、彼らは音楽プロデューサーのT・ボーン・バーネットに協力を仰ぐ。ジェフ・ブリッジスは『天国の門』(1980年)でバーネットと面識があり、彼の参加を喜んだという。

「デュードはいつもマリファナでハイになっているから、ゴキゲンな選曲にしなければならない」と考えたバーネットは、コーエン兄弟の希望していた楽曲のほかにも、ボブ・ディランの「The Man In Me」やキャプテン・ビーフハートの「Her Eyes Are A Blue Million Miles」といった楽曲の使用許可を次々と取りつけていった。

曲の確保で最も難儀したのがタウンズ・ヴァン・ザントの「Dead Flowers」だった。この曲はローリング・ストーンズのカヴァーであり、曲の権利を所有していたのはストーンズの元マネージャーでアブコ・レコード設立者のアレン・クライン。強引な経営手法で悪名高い彼は当初、楽曲使用料として15万ドルを要求してきた。そこでバーネットはクラインを説得し、映画の初期編集版を観せて曲の使用を前向きに検討してもらうことにした。

映画を鑑賞中、デュードが「俺はイーグルスが嫌いなんだよ」というセリフを発したとき、クラインは座席から立ち上がって「よし、この曲をくれてやる!」と快諾したのだという。バーネットの大手柄であった。もっとも、イーグルスの創設メンバーであるグレン・フライは、のちにこのシーンのセリフに腹を立てたらしいが。

こうして集められた選りすぐりの楽曲は、登場人物の個性やバックグラウンドを示唆するものとなった。「Tumbling Tumbleweeds」はカウボーイハットの語り部ストレンジャー(サム・エリオット)、ヘンリー・マンシーニの「Lujon」とイマ・スマックの「Ataypura」といったラウンジ/エキゾチカ音楽はポルノ映画製作者のジャッキー・ツリーホーン(ベン・ギャザラ)、そしてCCRの「Run Through The Jungle」と「Lookin’ Out My Back Door」はデュードを象徴する曲として劇中で使われている。

モードのアトリエで流れるユニークな歌唱の曲は、伝説的パフォーマンス・アーティスト、メレディス・モンクの「Walking Song」。ちなみにモードもフェミニズムやセクシュアリティをテーマにした作品で知られる実在の前衛芸術家、キャロリー・シュニーマンをモデルとしている。

コーエン兄弟作品の常連作曲家カーター・バーウェルは、デュードが本物の探偵(ジョン・ポリト)と絡むシーンで「Dick On A Case」というジャズ曲を作曲している。また、物語終盤のデュードたちとニヒリスト三人組の乱闘シーンで流れるテクノポップ「Wie Glauben」もバーウェルが作曲したもの。ニヒリストがかつて活動していた「アウトバーン」というグループはクラフトワークのパロディなので、バーウェルがそれを意識して作った曲である。ニヒリストの中にレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーがいたり、ガールフレンドがエイミー・マンだったり、さりげなくミュージシャンが出演している点も要チェック。

『ビッグ・リボウスキ』で使われた楽曲は、ややマイナーな曲や知る人ぞ知る曲が多い。しかし、映画の息の長い人気とファンからの熱い支持によって脚光を浴び、老若男女に広く知られることとなった。当時発売されたサウンドトラックアルバムには未収録の曲も多いので、この機会に自分でプレイリストを作成してみるのも一興ではないかと思う。

筆者私物:『ビッグ・リボウスキ』 オリジナル・サウンドトラック

文:森本康治

『ビッグ・リボウスキ』は5月29日(金)より2週間限定上映中

【公開劇場】
[北海道]イオンシネマ小樽(6/5〜)、札幌シネマフロンティア
[宮城]MOVIX仙台、109シネマズ富谷
[茨城]イオンシネマ守谷、MOVIXつくば
[栃木]MOVIX宇都宮
[群馬]イオンシネマ太田
[埼玉]川越スカラ座(5/30〜)、イオンシネマ春日部、シネプレックス幸手、MOVIXさいたま、MOVIX川口
[千葉]キネマ旬報シアター(5/30〜)
[東京都]新文芸坐(6/26〜)、キネカ大森、Stranger、イオンシネマ板橋、イオンシネマ多摩センター、新宿ピカデリー、MOVIX亀有、伊那旭座、池袋HUMAXシネマズ、アップリンク吉祥寺
[神奈川]イオンシネマ港北ニュータウン、イオンシネマ座間(6/5〜)、ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい、MOVIX橋本、ムービル、109シネマズ川崎
[富山]ほとり座(5/30〜)
[山梨]CineYama
[静岡]静岡シネ・ギャラリー
[愛知]センチュリーシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、イオンシネマ名古屋茶屋、イオンシネマ常滑、ユナイテッド・シネマ豊橋18、ミッドランドスクエア シネマ
[京都]出町座、オンシネマ京都桂川、MOVIX京都
[大阪]テアトル梅田、イオンシネマ シアタス心斎橋、イオンシネマ茨木(6/5〜)、イオンシネマ四條畷(6/5〜)、なんばパークスシネマ、MOVIX八尾
[兵庫]洲本オリオン(6/12〜)、元町映画館(5/30〜)、塚口サンサン劇場、イオンシネマ加古川
[広島]サロンシネマ、シネマ尾道(5/30〜)
[山口]MOVIX周南
[香川]イオンシネマ宇多津(6/5〜)
[福岡]KBCシネマ、小倉コロナシネマワールド
[佐賀]シアター・シエマ
[長崎]シネマボックス太陽
[熊本]熊本ピカデリー
[大分]大分シネマ5(5/30〜)
[宮崎]宮崎キネマ館
[沖縄]シネマプラザハウス1954

※上映劇場が変更となる場合があります
※チケット販売は、各劇場にて行います
※1,600円均一(各種サービスデーや他の割引サービスはご利用いただけません)
※プレミアムシート等により料金が異なる場合がございます

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『ビッグ・リボウスキ』

いまだ70年代のヒッピー生活を引きずる中年独身男・デュードは、ある晩、女房の借金を返せとチンピラに襲われる。どうやらチンピラは同姓同名の大富豪と間違えたようだ。怒りが収まらないデュードは仲間と共に大富豪の元に押し掛けるのだが…。

監督:ジョエル・コーエン
脚本:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマン、スティーヴ・ブシェミ、デヴィッド・ハドルストン、ジュリアン・ムーア、フィリップ・シーモア・ホフマン、ピーター・ストーメア、ジョン・タトゥーロ、サム・エリオット

制作年: 1996