林家木久彦の「銀幕高座(ぎんまくこうざ)」~映画『バイオハザード』と落語「天狗裁き」~
映画『バイオハザード』と落語「天狗裁き」
映画『バイオハザード』(2002年)といえば、世界中の皆さんがご存知のように、原作はあの超爆発的人気を誇るホラーゲームですよね。
たしか僕が幼稚園に通っていた頃、友人のお兄ちゃんがゲーム版を遊んでいまして、当時プレイステーションを持っていなかったひとりっ子の僕でも、その存在とあらすじは知っていました。よく“ジョン”だの“クレア”だのと数人で配役を振って、バイオハザードごっこに興じたことを覚えています。
ごっこ遊びといえば、それまではアニメやスーパー戦隊が主流でしたが、5歳児が数人で「ハンドガンがどうの」「ウィルスがああで」なんて、急に“なんとかビーム”の類とは異なる専門的なカタカナ言葉を意味もよく解らずに叫んでいる姿は、ちょっと異様だったかもしれません(笑)。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
映画「バイオ」のツーンと消毒風味
さて、映画『バイオハザード』は、時の停止した巨大迷路のようなアンブレラ社から、時間とゾンビに迫られながらの脱出劇を描いています。
窓すらない地下空間は空気の流れが遅く感じられ、とくに食堂とされる空間でのシーンは格別いやな匂いを勝手に想像してしまいまして、個人的にはカビと湿気の混ざったツーンとした匂いがするんじゃないか……と思ったりしていました。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
そのラボ内はつるんとした近未来的な質感なのですが、食堂に並ぶコンテナのディテールは凹凸が多く、もし実生活にあったら不気味ですし、なんとも掃除がしにくそうな空間ですよね。
あのシーンを観た後だと、しばらくワッフルとの付き合いは疎遠にしたい……なんて心持ちになります(笑)。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
もし自分がゾンビになったら……
本作が公開された2002年というと、他に『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃』『スパイダーマン』なども流行っていた時期です。時代的にCGが多用されることも増え、私の周りには「CGがしつこくて目が疲れる」なんて言う人も出始めていました。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
そこへいくと本作のCG表現は意外と少なく、マップ画面やボスキャラの映像くらいにしか使用されていないように見受けられます。ゾンビたちは基本的に特殊メイクでしょうし、アクションシーンもセット内での演技と巧妙なカメラワークで構成されていますよね。
なかでもマーティン・クルーズ演じるカプランが、傾いた配管の上でゾンビを蹴散らそうと足掻く姿をしつこく見せる引きのアングルは、生々しいスリルが満点。小さなスマホの画面で映画鑑賞することが当たり前になった昨今では、あまり見かけなくなったショットのように思えます。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
ところで“ゾンビ映画”には数えきれないほどの作品がありますが、いずれの作品も観るたびに考えてしまうのは、「もし自分がゾンビになったら……」「もし親しい間柄の人がゾンビになったら……」という不安です。
とくに“親しい人”がゾンビになってしまった場合、これほど切なくてやりきれないことはありません。かたや“自分が”ゾンビになってしまった場合に関しては、割と気楽に考えています。
しかし仮に自分がゾンビになってしまった時は、落語を話している時と同様、なるべく“噛まない”ようにしたいものです。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
「で、どんな夢を見たんだい?」
落語の中には“主人公の目が覚める”ところから物語が始まる演目がいくつかありまして。「芝浜」「天狗裁き」「夢の酒」……いずれも「ちょいと、起きとくれ」なんて傍らにいる女房の声掛けから始まります。
なかでも世間的に有名な噺と言えば「芝浜」。落語を聞いたことがなくてもタイトルくらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、ちょっとマイナーな「天狗裁き」には、なんと映画『バイオハザード』との“共通点”があるんです。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
――昼寝をしていた主人公の八五郎が覚醒後、「どんな夢を見たんだい?」と女房から尋ねられるところから物語は始まります。
しかし、そもそも夢を見た覚えのない八五郎は「見てない夢の話なんてできない」とかわそうとするものの、女房から隣人へ、大家から町奉行へと、「で、どんな夢を見たんだい?」と連鎖してしまい、終いには天狗にまで問い詰められて……という奇妙な噺です。
そして、なんとオチの場面では再び八五郎が覚醒して噺は終わります。まさに『バイオハザード』のアリスのように、目覚めることで再び騒動に巻き込まれてしまうわけですね。
『バイオハザード』© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.
この演目がいつ頃作られたものなのか定かではないのですが、いわゆる“夢オチ”と呼ばれる手法が大昔から現代まで当たり前のように使われていることに、ゾンビやSF、ファンタジー映画の骨格には、落語のような古典芸能からの影響も大いにあるんじゃないか、なんて感じさせられます。
夢オチは時代や地域を問わず、たくさんの物語に使われている手法ですよね。それが証拠に、映画『バイオ』がオマージュを捧げた世界一有名な“アリス”が迷い込んだ”不思議の国”だって、「夢の世界」が舞台のお話でした。
もしかすると、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるアリスが生き残りをかけて戦っている終末世界も、「すべては夢だった」という多重構造なのではないか? ――そんな予想は後のシリーズで意外な形で覆されるわけですが、そのお話はまた別の機会に……。
『バイオハザード』(2002年)
巨大企業アンブレラ社が地中深くに作り上げた秘密研究所ハイブ。ここで開発中のウィルスが何者かの手によって空気中に漏洩した。メインコンピューターは汚染が地上に拡大するのを防ぐために研究所を封鎖。これによってすべての所員の生命が失われた。アンブレラ社は特殊部隊を派遣するが、ハイブに進入した彼らを待っていたのは、ウィルスがもたらした戦慄すべき光景だった……!
監督・脚本:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、ミシェル・ロドリゲス、エリック・メビウス、ジェームズ・ピュアフォイ
「バイオハザード DVD コンプリート バリューパック」
価格:6,380円(税込)
レーベル:ソニー・ピクチャーズ
© 2002 Constantin Film Produktion GmbH. All Rights Reserved.