『ノマドランド』で「第93回アカデミー賞」にて作品賞、監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督の最新作で、「第83回ゴールデングローブ賞」作品賞(ドラマ部門)、主演女優賞(ドラマ部門)の2部門を獲得したほか、「第98回アカデミー賞」では作品賞、監督賞、主演女優賞などの主要部門含め合計8部門にノミネートされた『ハムネット』が、4月10日より公開される。このたび、本作でアカデミー賞作曲賞にノミネートされた作曲家マックス・リヒターと、監督のクロエ・ジャオが作品への没入体験を生み出す音楽の秘密、そして想いを明かす特別映像が解禁となった。
不朽の名作誕生の裏には何があったのか?
2020年に発表され、英女性小説賞、全米批評家協会賞を受賞し、世界から喝采を浴びたマギー・オファーレル著の同名小説「ハムネット」の実写映画化である本作。アグネス・シェイクスピアを演じるのは、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のジェシー・バックリー、ウィリアム・シェイクスピアを演じるのは『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のポール・メスカル、その他、エミリー・ワトソン、ジョー・アルウィンなど実力派たちが脇を固める。製作には、スティーヴン・スピルバーグとサム・メンデスが名を連ね、本年度賞レースを席巻する珠玉の1作。
舞台は16世紀イギリスの小さな村。森を愛し、薬草の知識に優れ、不思議な力を宿した妻アグネス・シェイクスピアと、劇作家としてロンドンで活動する夫ウィリアム・シェイクスピア、そしてその3人の子どもたちが描かれる。ロンドンへ単身で出稼ぐ夫を尊重し、父親不在のなかで子どもたちを守り奮闘するアグネスだったが、あるとき一家に大きな不幸が降りかかる——。
長編映画では『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』や『アド・アストラ』などでも知られ、観客の感情の深部に染み込む音楽を生み出し、現代クラシックの最前線を切り拓くピアニストでもあり作曲家のマックス・リヒター。シェイクスピアが生きたルネサンス時代は、それまでの中世的な“神中心”の世界観から、人間の理性や個人の感情、自然や身体といった<人間そのもの>へと価値の軸足が移る大きな転換点でもあった。リヒターが「中心になるのはルネサンス期のDNAだ」と明かすように、彼はシェイクスピアが生きた時代の精神や空気感を音楽に落とし込むべく、楽器編成や和声構造においてエリザベス朝音楽の声部進行や対位法を取り入れ、「大地の魔法や民間伝承、魔女を想起させる音色」を志向したという。
一方、ジャオ監督もリヒターの音楽に強い信頼を寄せる。“宇宙は振動でできている”というリヒターの考えに触れ、「この映画の音楽と振動を同期させることができれば、観客は自分が宇宙の一部だと気づくはず。物語の語り手として、一瞬でもそれが実現できたら最高」とコメント、リヒターもまた「オーケストラ用楽譜の大部分に、抽象的かつ色彩豊かな声楽素材を用いている。感情に訴えかけるためにね」と言い、そのことによって「彼らがグローブ座(「ハムレット」公演会場)に足を踏み入れる圧巻のシーンでは、合唱団のような音楽が流れる」と説明、「まさに奇跡の連続のような映画だよ」と感激を口にしている。
非常に感覚的な作品世界の<体験性>を重視するため、ルネサンス期の楽器を用いながらも、あえて伝統的な奏法は採用していない。弦を擦る音、指が触れる音、鍵盤のきしみ——そうした“接触音”に焦点を当てることで、ASMR(自律感覚絶頂反応)にも通じる生々しい聴覚体験を生み出している点も本作の魅力の一つだ。振動そのものが感情を揺さぶり、音と物語がひとつに溶け合う。観客を深い没入へと誘う音楽体験が、『ハムネット』には息づいている。
『ハムネット』©2025 FOCUS FEATURES LLC.
『ハムネット』は4月10日(金)より全国公開