同一労働、異なる賃金
「男女の賃金格差」は長年にわたって指摘されてきた。厚生労働省が2024年に発表した「賃金構造基本統計調査」によると賃金格差は1976年以降で最も縮小したものの、一般労働者(フルタイム)の月額賃金は男性が36万3,100円、女性が27万5,300円で、依然として顕著な差が残っている。
引用:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 速報」
この格差は年齢や職種によってさらに広がる傾向があり、特に管理職や専門職では顕著だ。こうした状況は、グローバルな視点で見ても例外ではない。たとえば米ハリウッドの映画業界における賃金格差は、その象徴的な事例として定期的に大きく報じられている。
ハリウッドの構造的な賃金格差
2019年に発表された大規模な研究では、1,344本の映画と267人の俳優を対象に、出演料の男女差が分析された。その結果、女性俳優は男性より平均で110万ドル少ない報酬しか得ておらず、全体として56%低い水準にとどまっていた。出演作品のジャンルや興行成績、人気度などを加味しても、説明しきれない25%の差が残るという。
もちろんこの格差は、映画業界に限らず他業界にも共通している。たとえば、ソフトウェア開発や医療分野では20%前後、企業幹部レベルでは45%もの賃金差が報告されている。つまり、ハリウッドの事例は特異ではなく巨大な構造的問題の一部ということだろう。
「年齢」と「ジャンル」が報酬に影響する?
ハリウッドでは、アクション映画の主役に男性が多く起用される傾向があり、これが報酬格差を助長しているとも言われている。アクション映画は興行収入が高く、続編も作られやすいため、出演者のギャラも跳ね上がるパターンが少なくない。ジャンルの偏りが、そのまま報酬の偏りにつながっているというわけだ。
さらに、年齢による影響も無視できない。50歳を超えた女性俳優の報酬は、同年代の男性よりも平均で400万ドルも低いというデータもある。こうしたデータからは、年齢と性別が複合的に差別要因となっていることがうかがえる。
かすかな“変化の兆し”と根深い「天井」…構造の可視化と制度改革
こうした状況には、わずかながら希望の光もある。2024年にはマーゴット・ロビーが7500万ドルを稼ぎ、世界で最も高額な報酬を得た女優となった。しかし、同年に1億ドル以上を稼いだトム・クルーズやドウェイン・ジョンソンと比べると、依然として「天井」は存在している。個別の成功事例が注目される一方で、業界全体の透明性と制度的改革が急務だ。
事程左様に、ハリウッドの男女賃金格差は個人の交渉力の差ではなく、業界全体の構造に根ざした問題である。日本を含む世界各国で「同じ仕事には同じ報酬を」という原則が実現されるためには、透明性のある報酬体系と制度的な改革が不可欠だろう。