「みんなの夢に出てくる男」の都市伝説は「デマ」だった! 映画『ドリーム・シナリオ』の元ネタを“今さら”解説
ニコラス・ケイジ主演の話題作の“元ネタ”になった? 都市伝説
アリ・アスター制作、ニコラス・ケイジ主演のA24映画『ドリーム・シナリオ』が今月、CSでTV放送される。主人公の冴えない中年男が突然、世界中の見知らぬ人の夢に登場し始めて……という奇想天外な設定でスマッシュヒットを記録したブラックコメディ的スリラーだ。
この映画、日本公開時にも“ある都市伝説”が元ネタになっているのでは? という噂が取り沙汰されたので、ご存じの方は多いだろう。「This Man」、あるいは「Dream Man」とも呼ばれた、あの”謎の男”の逸話だ。
『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
世界中の8000人が「夢で見た」と主張した《顔》
ことの始まりは2006年1月、ニューヨークのある精神科医のもとに遡る。患者の一人が「夢に繰り返し現れる男がいる」と語り、その顔をスケッチして医師に渡した。数日後、別の患者が同じスケッチを見て「この人、私の夢にも出てくる!」と証言。医師が同僚たちに画像を送ると、またたく間に「見たことある」という証言が世界中から集まり始めたのだ。
モバイルアプリで作られた、どこか人工的な印象のその顔――ギョロリと大きな目に濃い眉、禿げ上がった頭髪、微妙に上がった口角――どこか既視感もある中年男性の似顔絵は、<Ever Dream This Man?(この男を夢で見たことがある?)>というウェブサイトとともにネット上に拡散された。
するとロサンゼルス、ベルリン、東京、カイロ、ブエノスアイレスなど世界各地から8000人以上が「この男を夢で見た」と申告し、2009年10月にはサイトへのアクセスが爆発的に増加。200万を超えるアクセスと1万件以上のメールが殺到したという。
人々が見た“This Man”の夢の内容は様々で、「北へ行け」とアドバイスされた人、ブラジル人の教師として登場した人、父親の姿をしていた人……と証言はバラバラ。それがかえって“世界規模の怪現象”としてリアリティを持って受け止められたのだろう。
……ところがこの話、何から何まで全部“デマ”だったことが判明する。
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仕掛け人は「ゲリラ・マーケター」だった
2010年、ウェブサイトの作成者であるイタリア人の社会学者でマーケターのアンドレア・ナテッラが自らタネ明かしをした。じつは、サイトの運営会社をWHOIS(※ドメイン情報の検索サービス)で調べると<guerrigliamarketing.it(ゲリラ・マーケティング・イタリア)>というドメインと同一の会社が保有していたことは、すでに暴かれていた。
同年、自身のアートエージェンシーのサイトへの投稿で正式に認めたナテッラ。彼は“This Man”の原型となったスケッチについて、「若い頃の父親の写真をベースに作った」と告白。映画や本で出会った“夢への侵入”という概念に着想を得て、インターネットが都市伝説や集合的神話をどれほど速く広げられるかを実験したのだという。2012年には「Viral ‘K’ Marketing」と題した論文で、その意図を詳しく解説している。
さらに呆れたことに、2015年にはオルタナ系メディア<VICE>がこの都市伝説を“本物”として取材。ナテッラが「実在する現象」のように質問に答えた数時間後、VICEは「ちょっとググればニセモノと確認できるネタに引っかかった」と、自ら赤っ恥の訂正記事を掲載することになった。
🚨BREAKING NEWS🚨
Italian Sociologist Andrea Natella has been eaten by a pelican pic.twitter.com/BJVu7Mv2fB
— 💤 Memro/Rez 💤 !THE! THIS MAN KISSER (@memrothebastard) December 12, 2024
あらゆるカルチャーに波及した“This Man”と映画『ドリーム・シナリオ』
しかしデマと判明してなお、“This Man”が文化的に与えた影響は大きい。マンガ、ゲーム、ドラマなど世界中のコンテンツに引用・パロディされ続けた“This Man”は、つい最近もピン芸人・友田オレによる「ないないなないなない音頭」のフリップに登場し、詳細を知る由もない観客の不穏な笑いを誘った。
映画『ドリーム・シナリオ』は元ネタが“This Man”であるという確証はないが、ニコラス・ケイジ版“夢の中の男”と言うべき宣伝用チラシが制作されたりもしているので、下敷きになっているのは明らかだろう。「ありそうでなさそうな顔」が引き起こした集団的な思い込み――それ自体が、夢と現実の境界を問う『ドリーム・シナリオ』のテーマとどこか重なるものだし、かつてニック自身がネットミーム化していた事実とも重なる部分は多い。
『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
ここ日本ではどストレートなタイトルの“This Man”映画が作られたが、海外では過去いくつかの映画化企画がポシャっている。2000年代から「ネット上のウソとホント」に翻弄され続けている人類が“This Man”を直球で扱うには、まだ少し時間が必要なのかもしれない。