「息苦しいほどの傑作」「ただただ、素晴らしい」守るべきは社会のルールか、それとも尊い命なのか?『アダムの原罪』
『Playground/校庭』(2021年)のローラ・ワンデル監督の最新作『アダムの原罪』が、6月5日(金)より公開される。このたび、ティザービジュアルと特報、メイン画像が解禁となった。
守るべきは社会のルールか、それとも尊い命なのか?
近年、新世代の才能が台頭してきたベルギーでは、独自の作家性と社会性を併せ持つ良作が生み出され、同国の映画が世界的な注目を集めている。1984年生まれのローラ・ワンデル監督の長編デビュー作『Playground/校庭』もそのひとつ。小学校を社会の縮図に見立て、全編にわたって新入生である7歳の少女の眼差しを採用した同作品は、大人にはうかがい知れない子供たちの残酷な世界を描き、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞受賞、米アカデミー賞国際長編映画賞ショートリスト選出を果たした。その衝撃的な内容と新人離れした完成度の高さは、日本でも多くの観客を驚かせた。
ワンデル監督の長編2作目となる待望の新作『アダムの原罪』は、小児科病棟を舞台にしたヒューマン・サスペンスである。骨折して運ばれてきた4歳の少年とその母親の処遇をめぐって繰り広げられる息詰まる人間模様を、ひとりの献身的な女性看護師の視点に立って映し出す。圧倒的なまでに没入度が高い映像世界は、人間の尊厳や命の尊さに触れる根源的なテーマと相まって、観る者の胸を締めつけずにおかない。ベルギーの巨匠、ジャン=ピエール&リュックのダルデンヌ兄弟がプロデューサーを務めた本作は、2025年の第78回カンヌ国際映画祭「批評家週間」のオープニングを飾り、大きな反響を呼び起こした。
とある病院の小児科センターに、左腕を骨折したアダムという4歳の男の子が入院した。栄養失調で痩せこけたアダムは発育が遅れ、骨が脆くなっている。移民のシングルマザー、レベッカが彼に適切な食事を与えていないと見なした裁判所は、彼女の面会を制限する命令を下した。自らもシングルマザーである看護師長のルシーは、息子と引き離され、親権を失うことを恐れるレベッカに寄り添おうとする。しかしレベッカの軽率な行動、上司や同僚からのプレッシャーによって追いつめられたルシーは、母子を救いたい気持ちと病院が従うべき司法制度との間で板挟みになっていく……。
わずか72分の『Playground/校庭』に続き、78分というコンパクトな本編時間が特徴的な本作は、無駄を一切そぎ落とし、冒頭から観客を不穏な事態に引き込んでいく。医療従事者はすべての患者をケアしたい、母親は愛する我が子をずっと抱きしめていたい。ワンデル監督が描こうと試みたのは、そんな“当然のこと”がままならなくなってしまった現代社会の歪みである。
人手不足などで慢性的に逼迫した医療現場は、病院内の厳格なルールや司法制度に沿って運営されているが、それらのシステムは決して万能ではない。母子を引き離す裁判所命令に疑問を抱いた主人公の看護師ルシーの行動、勇気ある決断に焦点を当てた物語は、人間の良心、他者への共感といった主題を織り交ぜながら、最優先して守られるべき子供の“命”についての重い問いを投げかけてくるのだ。
また、医療・福祉分野の労働環境改善が叫ばれる日本にとっても他人事ではない現実をあぶり出した本作は、慌ただしい激務に奔走するルシーの後ろ姿を手持ちカメラで追い続ける。その緻密に構築された映像スタイルは、時間軸を一夜に限定したフィクショナルなストーリーにドキュメンタリーのような臨場感と、並外れたサスペンスを吹き込んでいく。可能な限り登場人物に肉薄し、息づかいをもすくい取ろうとしたワンデル監督の演出は凄みさえ感じさせる。
主演女優ふたりの迫真の演技からも目が離せない。容易に答えの出ない道徳的ジレンマに直面する看護師ルシーを演じるのは、『ジュリアン』でセザール賞主演女優賞に輝き、『CLOSE/クロース』『あやまち』など幅広いジャンルで活躍するフランスの実力派レア・ドリュッケール。『あのこと』で脚光を浴び、『タンゴの後で』『モンテ・クリスト伯』『ミッキー17』といった話題作が相次ぐルーマニア出身のアナマリア・ヴァルトロメイが、孤立したシングルマザー、レベッカの苦境を全身で体現する。ふたりの女性の葛藤、共鳴を通して希望のありかを模索する本作は、はたしてどこへ行き着くのか。“沈黙”が多くを物語るラストシーンに心揺さぶられずにいられない。
私がこの映画で描きたかったのは、人が痛みや罪の意識をどう受け止め、
どう他者と向き合っていくかということです。私たちは皆、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりしながら生きています。
それでも、人間である限り、理解し合うこと・赦すことをあきらめてはいけない。
それが“For Adam’s sake”——“人間であるがゆえに”の意味です。私は『Playground/校庭』で“外の世界の暴力”を描きましたが、
『アダムの原罪』では “内なる暴力”、つまり自分自身との闘いを描いています。
人が自分の罪や喪失と向き合うとき、その静かな闇の中にこそ、希望の芽があると思うのです。登場人物たちは言葉を失い、沈黙の中でしか互いを感じ取れない。
その沈黙の瞬間にこそ、人間の最も深い部分が表れる。
だから私はカメラを極限まで寄せて、呼吸や瞬きの間にある“赦しの気配”を撮ろうとしました。(ローラ・ワンデル/監督)
『アダムの原罪』©︎DRAGONS FILMS – LES FILMS DU FLEUVE – LES FILMS DE PIERRE – LUNANIME – FRANCE 3 CINÉMA – BE TV & ORANGE – PROXIMUS – RTBF (TÉLÉVISION BELGE) – SHELTER PROD
圧倒的であり衝撃的で息苦しいほどの傑作
病院の困難な日常を描きながらも人間性を決して忘れない。社会派映画の新たなる傑作
——Le Journal du Dimanche ★★★★★
キャスト陣の圧倒的演技が冴え渡る、見事だ
——Le Parisien ★★★★★
力強く、誇り高い作品
——Marie Claire ★★★★★
ただただ、素晴らしい
——Positif ★★★★★
美しく、繊細で、慈愛に満ち溢れている
——20 Minutes ★★★★
シンプルで正確、傑出した映画だ
——Les Echos ★★★★
『アダムの原罪』は6月7日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国公開