「僕は自分がノンバイナリーだと思う」ジェナが自身のアイデンティティについて語る『クイーンダム/誕生』本編映像
LGBTQ+の活動が弾圧されるロシアに突如現れた次世代のクィア・アーティスト、ジェナ・マービンを追ったドキュメンタリー映画『クイーンダム/誕生』が、1月30日(金)より全国公開中。このたび、主演ジェナ・マービンが自身のアイデンティティについて語る本編映像が初解禁となった。さらに、監督&プロデューサーインタビューと、本作に心を強く動かされた著名人2名からコメントが到着した。
恐怖と絶望を超えた孤高のクイーンが誕生
アメリカの映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家支持率100%という驚異的なスコアを記録し、「息を呑むほど美しい」「途方もない勇気の作品」「痛烈で生々しい」「最高のドキュメンタリー」と、圧倒的な称賛を受ける、2026年最高のドキュメンタリーの一つがここに誕生する。
LGBTQ+への弾圧が激化するロシアに突如現れた次世代のクィア・アーティスト、ジェナ・マービン。今回公開された本編映像には、白塗りのメイクを施したジェナが、自身のアイデンティティと、「国全体が巨大な監獄」と表現する祖国ロシアで表現を続ける理由を静かに、噛みしめるように語る姿が映し出されている。
自身を「ノンバイナリー」であると定義し、「ジェナはただ存在している」と淡々と語るその表情には、どこか何かに耐えているような切実な痛みが滲む。奇抜な造形で街に立つことは、暴力と抑圧が支配する社会の中で、自分という存在を消されないための「武装」なのだ。「ジェナになり外に出れば、いつでも最強になれる。ロシアでも誰ひとりとして僕を脅かせない。よろいを着た騎士の気分だ」とはっきりと語る言葉の裏には、ロシアという監獄の中で生き延びるための切実な願いが込められている。
映像の最後、ジェナは自身の装いが「恐怖」を与えるためのものではないと語る。「僕がする格好は人を怖がらせるためじゃない。だって、僕が経験してきたことは……もっとずっと怖かったから」。かつて受けた傷をアートへと昇華し、監獄のような社会でなお、自分自身を生きようとするその姿は、観る者の心に静かな、しかし深い衝撃を与える。
『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
そもそも「ノンバイナリー」という単語を聞いたことのある人は、この日本でも、どれだけいるのだろうか。ノンバイナリーとは「二元的(バイナリー)ではない」という意味である。出生時に割り当てられた性別に関わらず、自身の性自認が男性・女性「どちらかである」という枠組みに完全には当てはまらない、あるいは当てはめたくないあり方を指す。「男性でもあり女性でもある」「どちらでもない」「その中間」「流動的」など、その在り方は人それぞれだ。これは自身の性をどう認識するかというジェンダーの概念であり、誰を好きになるかという「セクシュアリティ(性的指向)」とは別の話である。
本編映像の解禁に合わせ、本作を手掛けた二人の製作者の独占インタビューが公開された。また、本作の監督を務めるアグニア・ガルダノヴァと、イゴール・ミャコチンプロデューサーからのインタビューも到着。
アグニアはロシア出身、フランス在住で、複雑な人間関係に焦点を当て、じっくりと観察するような語り口が特徴。「女性らしくない」外見ゆえに屈辱と暴力に耐えた青年期を経て、セクシュアリティとジェンダー・アイデンティティというテーマを深く掘り下げていくことに決め、実際に制作されたのが『クイーンダム/誕生』である。イゴールは、エミー賞ノミネート、BAFTA賞受賞の映画製作者。長編ドキュメンタリー『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』の共同プロデューサーを務め、サンダンス映画祭をはじめ世界各国で高い評価を得る。DOC NYCによる「40歳未満の40人」にも選出されている。
■ 運命を変えた出会いと、家族としての絆
当初、このプロジェクトは各地のドラァグクイーンを主人公にしたドキュメンタリーシリーズとして計画されていた。しかし、知人から紹介されたジェナ・マービンと出会った瞬間、監督のアグニアはそのコンセプトを一変させた。「ジェナは恐れを知らない芸術家であり活動家という、類まれな存在です。自らの真実だけを武器に危険へと踏み込む。クィアであることが罰せられ、自己表現が犯罪扱いされる国において、ジェナの存在そのものが反抗の行為であり、美の行為となるのです」と、アグニア監督はジェナへの深い敬意を表す。Instagramなどで見せる親密な様子については、「誇りを持って言えるのは、私たちは単なる親友ではなく、ジェナは間違いなく私の家族だということです。共に経験した数々の冒険や困難を通して、強い絆と相互の信頼を築いてきました」と、本作を通して結ばれた固い絆を語った。
■ 「確信」さえ許さない、生々しくリスクの高い制作過程
プロデューサーのイゴール氏がこのチームに加わった背景には、一つの個人的な衝撃があった。本作のエグゼクティブプロデューサーの一人であり、『チェチェンへようこそ』で共に仕事をしたデヴィッド・フランスから紹介された10分間のサンプル映像を見た際、彼はそこに自身の故郷を見出したのだ。「私はロシア極東のマガダンで生まれ育ちましたが、ジェナもまた同郷でした。この物語に故郷が映し出される光景は、現実離れした感覚と同時に深い個人的な衝撃をもたらしました。その瞬間、私はこの映画を世界に届けねばと決意したのです」。
本作の成功を確信した瞬間はあったか、という問いにイゴール氏はこう明かす。「『成功への確信』という言葉は適切ではないかもしれません。私たちが作り上げていたものは、それほどの確信を許さないほど生々しく、同時にあまりにもリスクの高い作品でした。しかし、このプロジェクトに出会った瞬間、アグニアのビジョンと演出、そしてジェナの強さと脆さが作り出す魅惑的な芸術性に、唯一無二の存在を目の当たりにしているのだと確信したのです」。
■ 「沈黙を破る」芸術と、パリでの新たな飛躍
イゴール氏は、現実逃避ではなく「現実を直視する手段」としての映画に惹かれるという。「これは単にクィアの生活を描いた作品ではなく、可視化に伴う代償や、敵意に満ちた環境で公然と生きるために必要な勇気についての作品です。私は恐怖と沈黙が人を形作る様を長い間見てきました。真の芸術性でその沈黙を破る映画に出会った時、私はその作品を世に送り出す手助けをしたいと思うのです」。
また、現在26歳になったジェナについても「パリでさらに自身の力を開花させ、一度も歩みを止めず新しい自分を模索し続けている。彼女がこれから先、自らのアートをどこへ連れて行くのか、心から楽しみにしています」と、パリでの初個展やリック・オウエンスやミシェル・ラミー、フェカル・マターらアーティストとのコラボレーションに触れ、深い信頼と期待を寄せた。
■ 日本の観客へ:自分らしくあるための勇気
最後に、アグニア監督は日本の観客に向けて温かいエールを送った。「日本での劇場公開は制作当初は夢にも思わなかったことで、心から感謝しています。日本の皆様へ、私からのメッセージはこれです。自分らしくあれ――怖くなってもいい、それでも前に進み続けてください。周りの人々を尊重し、愛してください。なぜなら結局、最も大切なのは愛だからです。私は断言できます、『クイーンダム/誕生』は何よりもまず、愛についての映画だと」。
過酷な現実を直視し、自らの存在をアートで刻みつけたジェナ・マービン。ジェナが命を懸けて守ろうとした自由の記録は、今を生きる私たちの心に強く、優しく問いかける。
<コメント>
平野鈴(俳優)
作中、ジェナは自身のことを「ジェナとは“存在”である、人物という表現は適切ではない」と言う。
そうだ誰しもが、本来は誰しもがまず、ただ“存在”であるはずではないのか?
存在とは。存在するとは何か。
なぜ、存在するために戦わなければならないのか。
人間の実存について問うてくるこの映画から、目を逸らすわけにはいかない。
吉川侑希(映画ライター)
クィアであることは、理解されないまま立ち続けること。
『クイーンダム/誕生』は、その強さと脆さを映し出す。
『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED
『クイーンダム/誕生』は全国公開中