1月14日は、日本を代表する作家・三島由紀夫の誕生日です。1925年のこの日に生まれた三島は、「仮面の告白」「金閣寺」「潮騒」などの名作を世に送り出し、ノーベル文学賞候補に何度も名を連ねた世界的な作家でした。そして1970年11月25日、自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)で割腹自決という衝撃的な最期を遂げ、45年の生涯を閉じました。
カンヌ国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しながらも、様々な事情により日本では公開されず「幻の映画」とされてきた、三島の生涯を描いたポール・シュレイダー監督の映画『MISHIMA』(1985年)が、2025年の東京国際映画祭で日本初上映されると約800枚のチケットが即完するなど、三島は今なお多くの人々を魅了し続けています。
そこで今回は、三島由紀夫の誕生日を記念して、彼に関連する映画5作品を紹介します。
矛盾を内包する天才作家
『黒蜥蜴』(1968年)
監督:深作欣二
出演:丸山明宏、木村功、川津祐介 ほか
【あらすじ】
美しき怪盗・黒蜥蜴は、宝石や美術品を盗むだけでは飽き足らず、美しいものを永遠に手元に置くため、生きた人間を剥製にするという奇妙な趣味を持っていました。ある日、黒蜥蜴は大富豪・岩瀬の娘・早苗を誘拐します。名探偵・明智小五郎が早苗救出のために立ち上がりますが、黒蜥蜴は明智の頭脳と美貌に魅了され、彼もまた黒蜥蜴の妖艶な魅力に惹かれていき……。
【おすすめポイント】
江戸川乱歩の原作小説を、三島由紀夫が丸山(美輪)明宏のために戯曲化し、それを深作欣二監督が映画化。三島は丸山明宏の妖艶な美しさに魅了され、彼のために男性でも女性でもない、まさに人間を超越した存在として圧倒的な存在感を放つ黒蜥蜴という役を書き上げました。そして本作の隠れた見どころは、三島自身が「日本青年の生き人形」として特別出演していること。筋骨隆々とした美しい肉体を誇示するように登場する三島の姿は、彼の美学を体現しているようにも思えます。
『潮騒』(1975年)
監督:西河克己
出演:山口百恵、三浦友和、初井言栄 ほか
【あらすじ】
伊勢湾に浮かぶ小さな歌島。漁師の青年・新治は、夕暮れの浜で村一番の金持ちである宮田照吉の娘・初江と出会います。新治と初江は心を通い合わせ、嵐の夜、ずぶ濡れになった二人は観的哨の廃墟で焚き火を挟んで、純粋な愛を確かめ合います。しかし、二人の関係は村中の噂となってしまい、身分違いの恋として引き裂かれそうになり……。
【おすすめポイント】
三島由紀夫の代表作のひとつである「潮騒」は、ギリシャ神話を下敷きにした純愛物語。本作は四度目の映画化で、当時絶大な人気を誇っていた山口百恵と三浦友和のゴールデンコンビが主演を務めました。原作の持つ健康的な肉体美への讃歌、清廉な若者たちの純愛、そして自然と人間の調和というテーマが、1970年代の日本映画の王道スタイルで描かれます。
『春の雪』(2005年)
監督:行定勲
出演:妻夫木聡、竹内結子、高岡蒼佑 ほか
【あらすじ】
大正初期の華族社会。幼なじみである侯爵家の嫡子・松枝清顕と伯爵家の令嬢・綾倉聡子は、互いに淡い恋心を抱きながらも、清顕は素直になれず聡子に冷たい態度を取り続けます。やがて聡子に宮家との縁談が持ち上がりますが、清顕は何も言いません。失望した聡子は縁談を受け入れ、婚約が正式に決まります。ところが、聡子を失って初めて、清顕は彼女への深い愛に気づき……。
【おすすめポイント】
三島由紀夫の遺作となった四部作「豊饒の海」の第一巻を映画化した悲恋物語です。行定勲監督が、三島文学の持つ華麗さと悲劇性を美しい映像美で表現。禁じられた恋、身分制度の束縛、そして破滅へと向かう若者たち――三島文学の核心ともいえる一面が、『恋恋風塵』や『花様年華』などで知られる台湾の世界的撮影監督リー・ピンビンによる映像で見事に結晶化されています。
『美しい星』(2016年)
監督:吉田大八
出演:リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛 ほか
【あらすじ】
大杉重一郎は、天気予報が全く当たらないことで有名な気象予報士。妻の伊余子、フリーターの息子・一雄、美しすぎて周囲から浮いてしまう娘・暁子との四人家族で、平凡な日々を送っていました。ある日、重一郎は車の運転中に不思議な光に包まれ、自分が火星人だと自覚します。時を同じくして、一雄は水星人、暁子は金星人として目覚めます。三人はそれぞれに“美しい星・地球を救う”という使命を感じ、行動を開始するのですが……。
【おすすめポイント】
三島由紀夫が1962年に発表した異色SF小説を、『桐島、部活やめるってよ』などで知られる吉田大八監督が現代に翻案した意欲作です。一見コメディタッチで描かれる「宇宙人になった家族」の物語は、実は現代人の孤独、家族の崩壊、そして人類の未来への不安を鋭く突いています。三島が1960年代に描いた「地球の危機」は、環境問題や核の脅威がより深刻化した現代においてこそ、リアリティを持って迫ってきます。
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(2020年)
監督:豊島圭介
出演:三島由紀夫、芥正彦、木村修 ほか
【あらすじ】
1969年5月13日。学生運動が最高潮に達していた時代、天皇主義者を自任する三島由紀夫は、血気盛んな東大全共闘の学生たちが待ち受ける東大駒場キャンパスの900番教室に、たった一人で乗り込みました。1000人を超える学生を前に、三島は自らの思想を語り、学生たちと真摯な討論を繰り広げます。この伝説の討論会から1年半後、三島は自決します。当時の貴重な映像をもとに、実際にその場にいた参加者へのインタビューや識者の解説を織り交ぜながら、あの日、教室で何が語られたのか、三島は何を伝えようとしたのかを紐解きます。
【おすすめポイント】
当時、唯一取材を許されたTBSに残されていた貴重な映像をもとに、伝説の討論会の全貌を明らかにしたドキュメンタリー。討論会の映像に加え、その場にいた芥正彦をはじめとする参加者へのインタビュー、そして平野啓一郎や内田樹といった識者の解説を織り交ぜ、多角的に「あの日」を検証しています。三島の肉声、学生たちの熱気、そして言葉と言葉がぶつかり合う緊張感が、50年の時を超えて蘇ります。
三島原作の映画化作品、自身が脚本を手掛けたり出演した作品、そして本人を題材にしたドキュメンタリーまで、三島由紀夫という巨人の世界に迫る多彩なラインナップになったのではないでしょうか。日本文学史に燦然と輝く数々の作品を残した小説家としてだけでなく、劇作家、評論家、そして思想家として、三島は常に時代の最前線で戦い続けました。彼の誕生日を機に、映画を通じてその世界に触れてみてはいかがでしょうか。