嘘八百で塗り固められ、誰の目にも「詐欺でしかない」とわかるような犯行であっても、「信仰」という行為に則る形で展開すれば、それはたちまち「宗教的儀式」になるからたちが悪い。
金を与えて献金で回収する“恐怖の永久機関”
イ・ジェロク牧師率いる韓国のプロテスタント系キリスト教新宗教・万民中央教会は、組織への潜入調査を行った人物によると「普通の教会を装ったカルト教団」なのだという。そして、その組織を率いるイ自身についても「牧師の仮面を被った詐欺師」でしかないのだという。本作で紹介される映像の数々は、その大半が、あたかもイ自身に神通力ともいうべき特殊な力があるかのように“演出”されたものだ。歩けない人が歩けるようになり、イの一挙一動に、すべての信者が一斉に同じリアクションをとっていく。さらにはイが提供する「甘い水」を使えば、難病の治癒はもとより、壊れた洗濯機も直ってしまうというのだ。もし仮にイが「神」であるのならばそれも辛うじて理解できなくもないが、イは牧師に過ぎない。しかしその特異な人身掌握術で多くの人々を自らに隷属させる洗脳テクニックに長けている人物だったのだ。
イの示す教団の方式は実に珍妙だ。とことん信者から金を吸い上げるという“お決まりモデル”を基本としていながらも、やたらと男女の「性」について相互監視とストイックさを求め、その禁を犯した者に対しては、自ら性器を“切断”するように誘導したこともあるという、なんとも強烈な「縛り」が存在していたのだ。たしかに、古今の様々な宗教をつぶさに観察していくと、このように「性」に対する厳格な規定が行われているケースも存在しないことはないが、その実、イ自身はどうかといえば、いい歳になってからも、若い女性信者への性的暴行を繰り返していたというのだから開いた口が塞がらない。
若くて容姿に優れている女性信者を、教会で物色しては突然呼び出し、「儀式」として一方的に陵辱しては、事後に数百万ウォンもの大金を渡すといたというイ。この金は信者から搾り取った金でしかないのだが、驚くことに、イから金を受け取った女性信者は、その金を教会への献金として差し出していたのだという。つまり、イからすればいくら大枚を叩いて女性信者と関係を持っても、その金が再び教会へと献金という形で戻り、さらにその金が別の女性信者と…という具合に、性と金の永久機関ともいえるシステムが構築されていたというわけだ。そこには「信仰」という形での縛りと、「洗脳」による支配があったからにほかならない。
性に奔放だったというだけで「切断」するように男性信者を誘導しておきながら、自分自身は従順な女性信者に対して性暴力三昧の日々を送っていたとされるイ。カメラの前で赤裸々に自身の被害を涙ながらに語る彼女たちの胸中を思えば、「切断」という言葉が、いったい誰に向けられるべきだったのかを考えずにはいられない。
『すべては神のために:裏切られた信仰』はNetflixで配信中