豪シドニーで銃乱射事件発生
オーストラリア・シドニーのボンダイビーチで12月14日夕方に発生した銃乱射事件で、武装した襲撃犯の一人に素手で立ち向かい、銃を奪って制止した男性がイスラム教徒のシリア系移民であることが、豪州メディアや国際報道で相次いで伝えられている。
事件はユダヤ教の祝祭「ハヌカ」の初日を祝うイベントの最中に発生。ビーチ近くの歩道橋から50歳の男と24歳の息子とされる2人が参加者に向けて発砲し、少なくとも16人が死亡、40人以上が負傷した。犠牲者には12歳の子どもや地元のラビ、エリ・シュランガー氏も含まれるという。豪州当局は事件を「反ユダヤ主義に基づくテロ攻撃」と断定している。
素手で銃を奪った43歳のムスリム男性をトランプ大統領も称賛
豪メディア7NEWSや国際報道によれば、襲撃犯の一人に背後から飛びかかり銃を奪ったのは、シドニー在住の果物店主アフメド・アル=アフマド氏(43)とのこと。一部メディアでは、彼はシリア北西部イドリブ県出身で、2006年に豪州へ移住したイスラム教徒の市民だと報道されている。
SNSで拡散した映像には、白いTシャツ姿の男性が車の陰に身を潜め、タイミングを見計らって銃撃犯に接近。背後から組み伏せて銃を奪い、倒れた襲撃犯に銃口を向けた後、武器を地面に置く姿が映っている。
アル=アフマド氏は制止の最中、もう一人の襲撃犯から腕や肩を撃たれ、複数の銃創を負ったという。家族によれば「4~5発の銃弾を受け、肩には弾が残っている」とされ、現在も病院で治療を受けているが、命に別状はないとみられる。
事件後、アル=アフマド氏の行動は国内外で「英雄的」と称賛されている。豪ニューサウスウェールズ州のクリス・ミンズ州首相やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に加え、米国のドナルド・トランプ大統領も「非常に勇敢な人物だ」と発言し、国際的な注目が集まっている。
“イスラム教徒が多くのユダヤ教徒を救った”という文脈
今回の事件では、反ユダヤ主義に基づくテロ攻撃という文脈の中で、イスラム教徒の男性がユダヤ教徒の市民を救ったという構図が、各国メディアで大きく取り上げられている。アル=アフマド氏の両親は豪ABCの取材に対し、「息子は誰であれ助ける。宗教や背景で人を区別しない」と語っている。
豪州では2023年以降、反ユダヤ主義的な事件が急増しており、今回の銃乱射はその最悪の形となった。一方で、異なる宗教背景を持つ市民が命をかけて他者を守ったという事実は、社会の分断が深まる中で象徴的な出来事として受け止められている。
警察は襲撃犯の父親(50)を現場で射殺し、息子(24)を拘束。2人の背景や動機、第三の実行犯の可能性などについて捜査を続けている。現場付近の車からは即席爆発装置も見つかったと報じられている。なお、アル=アフマド氏は複数回の手術を受けながら回復に向かっており、オンラインでの支援金はすでに100万ドルを超えているという。