スウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて1901年に創設された、世界で最も権威ある賞の一つである「ノーベル賞」。物理学、化学、医学・生理学、経済学、文学、平和の6つの賞が「人類に最大の貢献をもたらした人々」に贈られます。
授賞式はノーベルの命日である12月10日に、スウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロで開催され、世界中が注目するこの瞬間は、まさに知性と平和への賛歌といえるでしょう。そこで今回は、実際にノーベル賞を受賞した偉人たちを描いた映画5作品を紹介します。
人間の可能性と、平和の尊さ
『ラブ・アンド・ウォー』(1996年)
監督:リチャード・アッテンボロー
出演:サンドラ・ブロック、クリス・オドネル、マッケンジー・アスティン ほか
【あらすじ】
第一次世界大戦末期のイタリア。小説家を夢見る若きアーネスト・ヘミングウェイは、志願して前線へ向かいますが、重傷を負って赤十字病院に搬送されます。そこで彼を献身的に看護したのが、アメリカ人看護師のアグネス・フォン・クラウスキーでした。戦火が激しさを増すなか、二人は深く愛し合うようになり……。
【おすすめポイント】
アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)/1954年ノーベル文学賞
「老人と海」などで知られる文豪ヘミングウェイの若き日の恋を描いた、切なくも美しいラブストーリーです。監督は『ガンジー』(1982年)でアカデミー監督賞を受賞した名匠リチャード・アッテンボロー。ヘミングウェイ自身が残した手記をもとに、彼が生涯忘れることのできなかった初恋の女性との日々が丁寧に描かれています。
『ビューティフル・マインド』(2001年)
監督:ロン・ハワード
出演:ラッセル・クロウ、エド・ハリス、ジェニファー・コネリー ほか
【あらすじ】
1947年、プリンストン大学院の数学科に入学したジョン・ナッシュ。社交性に欠ける彼は、ただひたすら「世界を支配する真理」を見つけ出すことに没頭していました。やがて彼は画期的な「ゲーム理論」を発見し、数学界に衝撃を与えます。MITの研究所に採用され、愛する女性アリシアと結婚したナッシュの人生は順風満帆に見えました。しかし、米ソ冷戦下で暗号解読の極秘任務に関わるうちに、彼の精神は次第に追い詰められていき……。
【おすすめポイント】
ジョン・ナッシュ(1928-2015)/1994年ノーベル経済学賞
複数の人や団体が互いに影響し合いながら、いかに意思決定を行うかを数学的なモデルを用いて分析する「ゲーム理論」。後の経済学に大きな影響を与えたこの理論を発見した数学者ジョン・ナッシュの苦悩と再生の物語です。第74回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、助演女優賞の4部門を受賞しました。
『マンデラ 自由への長い道』(2013年)
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:イドリス・エルバ、ナオミ・ハリス、トニー・キゴロギ ほか
【あらすじ】
1918年、南アフリカに生まれたネルソン・マンデラ。ヨハネスブルクで法律を学んだ彼は、黒人への過酷な人種差別政策「アパルトヘイト」に疑問を抱き、反アパルトヘイト運動を掲げるアフリカ民族会議(ANC)に参加します。当初は非暴力を貫いていたマンデラでしたが、政府の弾圧が激しさを増すなか、武装闘争という道を選択せざるを得なくなり……。
【おすすめポイント】
ネルソン・マンデラ(1918-2013)/1993年ノーベル平和賞
人類史の汚点のひとつである人種隔離政策「アパルトヘイト」を撤廃に導いたネルソン・マンデラの自伝を基に製作された伝記ドラマです。若き日の情熱、27年間の獄中生活での苦悩、そして釈放後の寛容と和解……、差別と闘い続けた一人の男の不屈の意志を描きます。
『グローリー/明日への行進』(2014年)
監督:エヴァ・デュヴァネイ
出演:デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、カーメン・イジョゴ ほか
【あらすじ】
1965年のアメリカ。前年にノーベル平和賞を受賞したキング牧師は、黒人の選挙権登録を妨害し続ける南部アラバマ州での抗議運動に力を注いでいました。そんななか、セルマから州都モンゴメリーへと向かう黒人のデモ行進が白人の州警察らによって襲撃される事件が起きます。その様子はテレビで全米に放送され、国民に衝撃をもたらし……。
【おすすめポイント】
マーティン・ルーサー・キング・Jr.(1929-1968)/1964年ノーベル平和賞
激しい抑圧にさらされながらも、強い信念を持ち非暴力を貫いた黒人指導者、キング牧師。本作ではアメリカ公民権運動の重要な転換点となった「セルマの行進」を中心に、彼の歩んだ闘いの軌跡と偉大な功績を、人間味あふれる人物像とともに描きます。
『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』(2019年)
監督:マルジャン・サトラピ
出演:ロザムンド・パイク、サム・ライリー、アナイリン・バーナード ほか
【あらすじ】
19世紀末のパリ。ポーランドから移住してきた女性科学者マリ・スクウォドフスカは、女性であるがゆえに研究環境に恵まれず、苦闘の日々を送っていました。そんな彼女の前に現れたのが、同じく科学者のピエール・キュリー。互いの才能を認め合った二人は結婚し、共同研究者として新元素の発見に挑むことになり……。
【おすすめポイント】
マリ・キュリー(1867-1934)/1903年ノーベル物理学賞、1911年ノーベル化学賞
史上唯一、異なる分野で二度ノーベル賞を受賞した天才科学者マリ・キュリーの波瀾万丈の人生を描いた伝記映画。夫ピエールとの愛情深い関係、彼の死後の孤独、そして未亡人として男性科学者との関係がスキャンダルとして報じられる苦悩など、彼女が直面した困難が赤裸々に描かれます。
12月10日がノーベル賞授賞式という事で、実際にノーベル賞を受賞した偉人たちの足跡を辿る映画5選でした。
ノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルは、ダイナマイトの発明者としても知られます。貧しい家庭に生まれながらも勉学に励み、350以上もの特許を取得して巨万の富を築いた彼でしたが、自らの発明が戦争に利用されることで「死の商人」と呼ばれるようになります。それでも彼は、科学の発展が人類の幸福につながると信じ続けました。そして死の間際、遺産を人類の希望と平和のために役立ててほしいと願い、「人類に貢献した人々に賞金を贈る賞を創設すること」を遺言に記したのです。
ノーベルが願ったように、人類の発展と平和のために尽力した人々の姿を通じて、私たちは人間の可能性の素晴らしさと、平和の尊さについてあらためて考えることができるのではないでしょうか。