スパイ映画の金字塔として世界中で愛され続ける「007」シリーズ。洗練されたスーツに身を包み、数々の危機を切り抜けるジェームズ・ボンドの姿は、何度観ても心が躍るものでであり、そのスタイリッシュな雰囲気は定期的に味わいたくなるものですが、シリーズ第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の2021年公開から早くも4年の月日が経とうとしています……。
『DUNE/デューン』シリーズや『ブレードランナー 2049』で知られるドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めるシリーズ最新作が2028年の劇場公開を目指しているという報道もありますが、スクリーンでジェームズ・ボンドの姿を観るのにはもうしばらく時間がかかりそうです。そこで今回は、「そろそろ“007”が観たい!」熱を鎮めるため、ダニエル・クレイグが演じた6代目ボンドの軌跡を振り返ってみたいと思います。
ウォッカ・マティーニ、シェイクで
『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)
監督:マーティン・キャンベル
出演:ダニエル・クレイグ、エヴァ・グリーン、マッツ・ミケルセン ほか
【あらすじ】
2件の暗殺任務を成功させ、殺しのライセンス“ダブル・オー”の称号を得たジェームズ・ボンド。彼の最初の任務は、世界中のテロリストに資金を提供する謎の男ル・シッフルの陰謀を阻止することでした。マダガスカル、バハマ、マイアミと世界を股にかけた追跡の末、ボンドはル・シッフルがモンテネグロのカジノ「カジノ・ロワイヤル」で大勝負に出ることを突き止めます。財務省から派遣された美女ヴェスパー・リンドと共にカジノへ向かったボンドは、当初彼女を警戒していましたが、危険な任務を共にするうちに次第に心を開いていきます。そして運命的な恋に落ちていきますが……。
【おすすめポイント】
ダニエル・クレイグが初めてジェームズ・ボンドを演じた記念すべき作品であり、シリーズの原点回帰とも言える一作です。これまでのボンド像を刷新し、荒々しく人間的なスパイとして描かれたクレイグのボンドは、公開当初は賛否両論を巻き起こしました。マダガスカルでのパルクールアクションや、カジノでの緊迫した心理戦など、見どころ満載。そして何より、エヴァ・グリーン演じるヴェスパーとの切ない恋物語が、今後のシリーズ全体を貫く重要な核となります。
『007/慰めの報酬』(2008年)
監督:マーク・フォースター
出演:ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック ほか
【あらすじ】
前作のエンディングから1時間後、愛するヴェスパーを失った悲しみと怒りに駆られたボンドは、彼女を操っていた黒幕ミスター・ホワイトを捕らえ真相究明に乗り出します。尋問の末、その背後にある世界中の権力者や諜報機関をも取り込む巨大組織の存在が明らかに。調査のためハイチへ飛んだボンドは、謎めいた女性カミーユと出会います。彼女を通じて組織の幹部ドミニク・グリーンを突き止めたボンドは、表向きは環境保護団体のCEOである彼が、実はボリビアの天然資源独占を企てていることを知り……。
【おすすめポイント】
シリーズ史上初めて、前作の直接的な続編として製作された異色作です。ヴェスパーへの愛と復讐心の間で揺れ動くボンドの内面が深く掘り下げられ、スパイとしての使命と個人的な感情との葛藤が描かれます。冒頭のカーチェイスから始まり、ハイチでの銃撃戦、オペラハウスでの緊迫したシーンなど、息をつかせぬアクションが続きます。
『007 スカイフォール』(2012年)
監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム、レイフ・ファインズ ほか
【あらすじ】
NATOが世界中に送り込んでいるスパイのリストが盗まれるという緊急事態が発生。ボンドはリストが収録されたハードディスクを取り戻すべく敵を追いますが、作戦は失敗に終わり、ボンド自身も負傷してしまいます。さらにMI6本部が爆破される事件が起き、上司Mの立場も危うくなります。窮地に立たされたMの前に、傷を負ったボンドが姿を現し、わずかな手がかりをもとに首謀者を追い始めます。そして黒幕が、Mへの復讐に燃える元MI6の凄腕エージェント、シルヴァであることが明らかになり……。
【おすすめポイント】
007シリーズ誕生50周年記念作品として製作され、アカデミー賞受賞のサム・メンデスが監督を務めました。ハビエル・バルデムが演じる敵役シルヴァは、シリーズ屈指の魅力的なヴィランとして今も語り継がれています。最大の見どころとしては、ボンドとM(ジュディ・デンチ)の関係性です。上司と部下でありながら、母と息子のようでもある二人の物語は、シリーズに新たな感動をもたらしました。
『007 スペクター』(2015年)
監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ、クリストフ・ヴァルツ、レア・セドゥ ほか
【あらすじ】
メキシコシティの「死者の日」の祭りで凶悪犯スキアラを追ったボンドは、MI6本部に呼び戻され、新任のM(レイフ・ファインズ)から職務停止を言い渡されます。一方、ロンドンではスパイ不要論を掲げるマックス・デンビが国家安全保障局の新トップに就任し、MI6を吸収しようと画策していました。表立って動けなくなったボンドでしたが、マネーペニーやQの協力を得てローマへ飛び、スキアラの未亡人ルチアと接触。そこで巨大な悪の組織「スペクター」の存在を突き止めるのですが……。
【おすすめポイント】
ダニエル・クレイグ版007シリーズを貫く壮大な物語が、ここで一つに収束します。メキシコでのド派手なオープニングアクション、ローマでのカーチェイス、オーストリアの雪山でのアクションなど、シリーズらしい豪華絢爛なスペクタクルが楽しめます。また、レア・セドゥ演じるマドレーヌ・スワンとの出会いは、次作へと続く重要な要素となります。ボンドの孤独な過去が明かされ、彼が抱える心の傷が浮き彫りになる、人間ドラマとしても深い作品です。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020年)
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
出演:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ ほか
【あらすじ】
MI6を退職し、愛するマドレーヌと穏やかな日々を過ごしていたボンド。しかし彼女の秘密が明らかになり、二人は別れを選ぶことに。それから5年後、ジャマイカで隠遁生活を送っていたボンドのもとに、旧友のCIAエージェント、フィリックス・ライターが現れます。誘拐された科学者の救出を依頼されたボンドは、再びスパイとしての戦いに身を投じることになり……。
【おすすめポイント】
ダニエル・クレイグが演じる最後のジェームズ・ボンド作品であり、シリーズ史上最も衝撃的と言っても過言ではないエンディングを迎え、『カジノ・ロワイヤル』から始まった15年間の物語が、ここで完結します。冒頭のノルウェーでの回想シーン、キューバでの華やかなパーティーアクション、そして最後の孤島での壮絶な戦いまで、映像美とドラマ性が見事に調和しています。不死身のヒーローではなく、愛し、傷つき、そして運命に立ち向かう一人の人間としてのボンドを描いた、シリーズの到達点です。
従来のボンド像を一新し、より人間的で肉体的、そして感情的なスパイとして描かれたダニエル・クレイグ版のボンドは、シリーズに新たな息吹を吹き込みました。そして、5作品すべてが一つの大きな物語として繋がっているのも、このシリーズの大きな特徴のひとつといえるでしょう。2028年の新作に期待しつつ、ダニエル・クレイグ版「007」を一気見してみるのはいかがでしょうか?