乗客の命を守ったのは「イスラム教徒の移民」英・列車内刺傷事件から浮かび上がる真の勇気と人間性

乗客の命を守ったのは「イスラム教徒の移民」英・列車内刺傷事件から浮かび上がる真の勇気と人間性
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英国の列車内で起きた刺傷事件で、アルジェリア系移民のサミール・ジトゥーニさんが乗客を守るために命を懸けた行動が称賛を集めている。イスラム教徒で移民でもある彼は、宗教や出自を超えて、一人の人間として真の勇気を世界に示した。

負傷しながらも乗客を守った英雄

2025年11月1日、イングランド東部を走るロンドン・ノース・イースタン鉄道(LNER)の車内で、乗客を無差別に襲う刺傷事件が発生した。犯人は長い刃物を振り回し、複数の乗客が負傷。混乱の中、乗務員として勤務していたサミール・ジトゥーニさん(48歳)は、厨房からフライパンを手に取り、犯人に立ち向かったという。

サミールさんはアルジェリア出身の移民であり、イスラム教徒。LNERで20年以上勤務し、乗客対応を担うカスタマー・エクスペリエンス・ホストとして働いていた。事件当時、サミールさんは自らの身体を盾にして乗客を守り、複数の命を救ったそうだ。英国警察は「彼の行動はまさに英雄的」と公式に称賛し、LNERも「彼は常に英雄だった」と声明を発表している。

なお、この事件では11人の乗客が負傷し、容疑者の英国籍男性(32歳)は殺人未遂など複数の罪で起訴された。動機は現在も捜査中で、テロとの関連は否定されている。

「彼は人種、宗教、性別に関係なく、誰のためにも命を懸ける人」

事件後、重傷を負ったサミールさんはケンブリッジのアデンブルックス病院に搬送。家族は「彼は人種、宗教、性別に関係なく、誰のためにも命を懸ける人」と語り、「私たちのヒーローです」と呼びかけた。彼の回復を願うクラウドファンディングには2万ポンド以上の寄付が集まり、英国中から感謝と祈りの声が寄せられている。

また事件当時、緊急停止を判断しハンティンドン駅で乗客を避難させる機転を利かせたのは、列車を操縦していた元英国海軍軍人のアンドリュー・ジョンソン運転士。彼の冷静な対応も、被害の拡大を防ぐ要因の一つとなったことは間違いない。

出自や信仰を超えた真の勇気と人間性

この事件は、社会的少数者が地域社会の中でいかに尊厳と責任を持って生きているかを示す象徴的な出来事と言えるだろう。サミールさんの行動は、宗教や出自を超えた人間としての勇気と責任を体現している。

近年、移民・難民やムスリムの人々に対する偏見や根拠不十分のバッシングが蔓延りつつあるが、そうした偏ったステレオタイプ、先入観は“事実”と向き合わずに払拭することは難しい。命を懸けて他者を守ったサミールさんのような人物がいるという事実は、私たちの認識を問い直すきっかけの一つになるだろう。

 

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