主演に長澤まさみ、共演に永瀬正敏、髙橋海人らをむかえ、大森立嗣監督が葛飾北斎の娘・応為(おうい)の人生を描いた映画『おーい、応為』が、10月17日(金)より公開。父である北斎と共に江戸の絵師として生きた女性の、才能と情熱に満ちた人生が描かれる本作に期待が高まります。
浮世絵は江戸時代に庶民の娯楽として生まれ、やがて世界中の芸術家たちに影響を与えた日本独自のアートです。葛飾北斎の「富嶽三十六景」、歌川広重の「東海道五十三次」、東洲斎写楽の役者絵など、これらの作品は今なお、世界中の美術館で高く評価され続けています。そこで今回は、浮世絵師や浮世絵の世界を描いた5作品を紹介します。
芸術家の執念と人間臭さ
『北斎漫画』(1981年)
監督:新藤兼人
出演:緒形拳、西田敏行、田中裕子 ほか
【あらすじ】
江戸時代後期、90歳まで生き、生涯に3万点以上の作品を残したといわれる天才浮世絵師・葛飾北斎。その波乱万丈な人生を、友人の戯作者・滝沢馬琴との交流を中心に幻想的に描きます。金にも名声にも無頓着で、ただひたすら良い絵を描くことだけを追求した北斎の、芸術家としての執念と人間としての魅力が詰まった作品です。
【おすすめポイント】
脚本家としても名高い新藤兼人監督が、北斎の人間性に焦点を当てて描いた名作です。緒形拳が演じる北斎は、天才でありながら俗っぽく、時に頑固で、時に子供のように純粋な、非常に人間臭い魅力に溢れています。また、田中裕子が北斎の娘のお栄(のちの応為)を15歳から70歳までを演じ話題になりました。
『写楽』(1995年)
監督:篠田正浩
出演:真田広之、フランキー堺、岩下志麻 ほか
【あらすじ】
江戸時代、わずか10ヶ月の間に140枚以上の浮世絵を発表し、忽然と姿を消した謎の浮世絵師・東洲斎写楽。その正体については諸説あり、能役者説、浮世絵師/北斎説、版元/蔦屋重三郎説など、今なお謎に包まれています。本作は、写楽の正体が大道芸人・斎藤十郎兵衛であったという大胆な仮説の元に、彼がなぜ突如として浮世絵師として登場し、そして消えていったのかを、江戸の政治的背景と絡めながら描きます。
【おすすめポイント】
“写楽研究家”としても知られている俳優・フランキー堺が企画総指揮をとり、篠田正浩監督が完成させた、ビジュアル的な完成度が極めて高い作品です。写楽の役者絵の特徴である、誇張された表情や大胆な構図を、実際の映像として再現する試みは圧巻で、まるで浮世絵の中に入り込んだかのような感覚を味わえます。
『百日紅~Miss HOKUSAI~』(2015年)
監督:原恵一
声の出演:杏、松重豊、濱田岳 ほか
【あらすじ】
天才浮世絵師・葛飾北斎の三女として生まれた応為(お栄)は、父に劣らぬ絵の才能を持ちながら、北斎の代筆として絵を描き続けていました。気性が激しく、男勝りな性格の応為は、離縁されて実家に戻り、父と共に絵を描く日々を送ります。江戸の町を舞台に、応為と北斎の関係を軸として、絵師、女性、そして人間として成長していく応為の姿を、四季折々の江戸の情景と共に描きます。
【おすすめポイント】
江戸文化をこよなく愛した江戸風俗研究家であり、文筆家や漫画家としても活躍した杉浦日向子の同名漫画を原作に、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』の原恵一監督がアニメーション映画化。江戸の町並み、四季の移り変わり、そして浮世絵の世界が、繊細なタッチで描かれており、まるで一枚の浮世絵を見ているかのような美しさです。
『HOKUSAI』(2020年)
監督:橋本一
出演:柳楽優弥、田中泯、永山瑛太 ほか
【あらすじ】
江戸時代、まだ「北斎」と名乗る前の貧乏絵師・勝川春朗は、絵師としての成功を夢見ながらも、なかなか芽が出ずにいました。やがて版元・蔦屋重三郎との出会いをきっかけに、才能を開花させていきます。しかし、時代は激動の幕末へと向かい、北斎は絵師として、そして一人の人間として様々な困難に直面し……。
【おすすめポイント】
青年期から晩年まで、90年の生涯を通して絵に取り憑かれた男の執念と情熱を描いた壮大な伝記映画。青年期の才能はありながらも不器用で、時に傲慢で、時に弱気になる、人間臭い北斎を柳楽優弥が演じ、円熟した技術と枯れない情熱を併せ持つ北斎を田中泯が演じています。
『春画先生』(2023年)
監督:塩田明彦
出演:内野聖陽、北香那、柄本佑 ほか
【あらすじ】
人間の性的な交わりを題材として描かれ、「笑い絵」とも呼ばれた、浮世絵の一ジャンルである「春画」。退屈な毎日を送る春野弓子は、ある時、偶然目にした春画に心奪われます。その時出会った“春画先生”こと、その道では有名な研究者である芳賀一郎に春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていくようになり……。
【おすすめポイント】
これまでの4作品とは異なり、浮世絵師ではなく、現代における浮世絵(春画)研究を通して、芸術と人間の関係を描いた意欲作です。春画は江戸時代の浮世絵の中でも、文化風俗を知るための貴重な資料ともなる重要なジャンルでありながら、性的表現を含むため長らくタブー視されてきました。本作は、その春画を真正面から取り上げ、商業映画としては日本映画史上初めて無修正の浮世絵春画がスクリーン上映される作品となりました(R15+指定)。
浮世絵という日本が世界に誇る芸術を通して、その背景にある人間ドラマの豊かさを発見できる映画5選でした。NHKの大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』でも日本のメディア産業を築いたともいわれる蔦屋重三郎に焦点があてられるなど、にわかに江戸文化に注目が集まっています。これを機に遠いようで近い江戸の時代に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。