奏でる音は誰のために鳴り響くのか? 音楽の持つ力を目と耳と心で感じるアニメ映画5選

奏でる音は誰のために鳴り響くのか? 音楽の持つ力を目と耳と心で感じるアニメ映画5選
『音楽』

2025年9月19日(金)から、岩井澤健治監督の最新作『ひゃくえむ。』が劇場公開されます。「チ。―地球の運動について―」で手塚治虫文化賞マンガ大賞を史上最年少受賞した新鋭・魚豊の連載デビュー作を原作に、陸上競技の世界で「100m」という一瞬の輝きに魅せられた者たちの狂気と情熱を、岩井澤監督がどのように描くのか期待が高まります。

そして、岩井澤監督といえば、国内外から高い評価を受けた長編デビュー作『音楽』(2019年)も忘れられません。製作期間に7年半の歳月を費やし、40,000枚超の作画枚数、71分を全て手描きしたという制作スタイルもさることながら、音楽に対する初期衝動を見事に描いた傑作。『ひゃくえむ。』の公開に合わせ、岩井澤監督が半年間をかけて200カット以上の画を描き直した“ブラッシュアップ版”が同じく2025年9月19日(金)より新宿武蔵野館にて上映されます。そこで今回は、音楽を通して人々の姿を丁寧に描く珠玉のアニメ映画5選を紹介します。

音楽の持つ力と人間の本質

『アメリカン・ポップ』(1981年)
監督:ラルフ・バクシ
声の出演:ロン・トンプソン、マリア・スモール、リサ・ジェーン・パースキー ほか

【あらすじ】
19世紀末のロシアから1980年代のアメリカまで、4世代にわたる一つの家族の物語を、アメリカのポップ・ミュージック史と重ね合わせて描く壮大な叙事詩。ユダヤ系移民の家族が、ラグタイム、ジャズ、フォーク、ロック、そしてパンクという時代の音楽と共に歩んできた歴史を辿ります。

【おすすめポイント】
「ロード・オブ・ザ・リング」のアニメ版『指輪物語』(1978年)で知られるラルフ・バクシ監督による、音楽をテーマにしたアニメ映画の金字塔。アメリカの音楽史を一つの家族の物語として描く壮大なスケールと、実写で撮影した人物の動きをなぞるロトスコープ技術を駆使したリアルなアニメーションが印象的です。特に音楽シーンでは実写映像を基にした滑らかな動きが、各時代の音楽の躍動感を見事に表現しています。実在のミュージシャンも多数登場し、音楽ファンにはたまらない内容です。

『リメンバー・ミー』(2017年)

監督:リー・アンクリッチ
声の出演:アンソニー・ゴンサレス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ベンジャミン・ブラット ほか

【あらすじ】
音楽を愛するギターの天才少年ミゲル。しかし彼の一族は、とある理由で音楽を禁じられています。苦悩するミゲルでしたが、この世を去った先祖が家族に会いに来るという死者の日に一本のギターを手にしたところ、死者の世界に迷い込んでしまいます。そこで出会った陽気なガイコツと共に、家族の秘密と音楽への愛を巡る冒険が始まり……。

【おすすめポイント】
ピクサー制作による、第90回アカデミー賞長編アニメーション賞受賞作品。メキシコの「死者の日」という文化的背景を美しいビジュアルで表現し、音楽を通じた家族の絆を感動的に描きます。死者の世界の色鮮やかで幻想的な映像美と、メキシコ音楽の情熱的なメロディが見事に調和し、文化の多様性と普遍的な家族愛の両方を楽しむことができます。

『犬王』(2021年)

監督:湯浅政明
声の出演:アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑 ほか

【あらすじ】
舞台は室町時代の京都。異形に生まれついたことで周りに疎まれながら育った犬王は、ある日、盲目の琵琶法師・友魚と出会います。すぐに意気投合した2人はお互いに影響を与えながら才能を開花させ、唯一無二の世界で人々を熱狂の渦に巻き込みます。しかし、彼らの自由な表現を危険視した時の権力者たちは彼らを弾圧するようになり……。

【おすすめポイント】
湯浅政明監督による、能楽とロックを融合させた革新的な音楽アニメ。女王蜂のアヴちゃんが犬王の歌声を担当し、その圧倒的な歌唱力と表現力が作品に強烈なインパクトを与えています。湯浅監督らしい自由奔放なアニメーション表現と相まって、唯一無二の映像体験を味わうことができます。

『BLUE GIANT』(2023年)

監督:立川譲
声の出演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音 ほか

【あらすじ】
仙台の高校生の宮本大は、ジャズに魅了され、テナーサックスを始めます。独学で練習を重ね、上京後に同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と高校の同級生・玉田俊二をドラマーに、トリオを結成。それぞれ異なる音楽的背景を持つ三人でしたが、ジャズを通じて絆を深め成長していきます。そして、目標であった日本最高のジャズクラブでの演奏を目前に、思いもよらない出来事が起こってしまい……。

【おすすめポイント】
石塚真一の人気漫画を原作とする、ジャズをテーマにした青春アニメ映画。音楽への純粋な情熱と、仲間との友情を丁寧に描きます。山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音という実力派俳優陣の声の演技と、上原ひとみ、馬場智章、石若駿らの演奏が見事に調和し、臨場感あふれる音楽シーンを創り出しています。

『きみの色』(2024年)

監督:山田尚子
声の出演:鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖 ほか

【あらすじ】
高校生のトツ子は、人が「色」として見える特殊な力を持っている。ある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女きみと、音楽好きの少年ルイと出会います。それぞれに人に言えない悩みを抱える3人はバンドを組むことになり、音楽を通して心を通わせていくのですが……。

【おすすめポイント】
『けいおん!』『聲の形』で知られる山田尚子監督が、音楽の持つ癒しの力と、人と人との繋がりの尊さを描いた、心温まる青春アニメ。高校生らしい等身大の悩みと成長が描かれており、音楽を通じた友情の深まりが感動的です。

音楽をテーマにしたアニメとなると、『響け!ユーフォニアム』『四月は君の嘘』『けいおん!』『ぼっち・ざ・ろっく!』『ラブライブ!』『アイドルマスター』『ヒプノシスマイク』など、数えだしたらキリがないほど多彩な作品が揃っていますが、今回はシリーズものではなく、まずは1作で完結してるという範囲で5作品を選んでみました。これらの作品を通して音楽の持つ力を感じ取ってもらえればと思います。

 

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