「ダウナー青春映画の名作」「音楽も完璧」記憶に焼きつく思春期のミステリー『ヴァージン・スーサイズ』
美しき5姉妹に何が起こったか
ヘビトンボが美しい郊外の町を覆いつくす季節、リズボン家の美しい5人姉妹の末娘セシリアは聖母マリアの写真を胸に抱き細い腕に剃刀をあてた。一命はとりとめたものの、大人たちにその理由がわかるものはいなかった。
彼女を励ますため、リズボン家ではホームパーティーを開くことにする。招待された近隣の少年たちは緊張の面持ちであった。なぜなら、みな神秘的な5人姉妹に憧憬の念を抱いていたからだ。しかし、その最中、ふたたび悲劇が起こってしまう。
深い悲しみの中にもやがて少女たちに明るいきざしが戻ってくるが、奔放な四女ラックスが引き起こした出来事を機に、姉妹は自宅での軟禁状態に陥る。少年たちは、そんな彼女たちをなんとか救い出そうと試みるのだが……。
『ヴァージン・スーサイズ 4K レストア版』Photo © Corrine DAY / Clayton JOYE / Pierre VINET
衝撃的な結末が意味するもの
ジェフリー・ユージェニデスの小説「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」を原作とする本作は、小説と同じく主に少年たちの声によって語られる。当然ながら物語としては女性視点の青春映画なのだが、一見幸せそうな保守的な家庭の崩壊を、少年たちやご近所さん、劇中のローカルニュース番組と同様に離れたところからじっと観察しているような気分にもさせられる。
衝撃的な結末は抑圧や絶望の帰結という予測はできるものの、その理由が語られることはない。基本的に観客は少年たちと視点を共有することになるが、そのせいで浮世離れした、幽玄にすら感じていた姉妹の実在感が最後の“選択”によって急に現れ、カモフラージュされていた思春期のにおいがむっと立ち上る。
編集部私物
理想と現実、自由と束縛、他者との関わり方……ソフィアが描きたかったことの多くは、四女ラックスを演じたキルステン・ダンストの演技が表していたのかもしれない。若かりしジョシュ・ハートネットやヘイデン・クリステンセン、ジョナサン・タッカーらが演じた少年たちは過去を反芻しながら年老いていくが、姉妹は若く輝いたまま記憶の中に在り続ける。
「12ヶ月のシネマリレー 2024-2025」第7弾『ヴァージン・スーサイズ 4K レストア版』は5月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中