「初めて首の折れる音を聞いた」反ネオナチ映画『アメヒスX』が予見した分断と憎悪の現代社会
「予見的」だった? 主人公のモデルとなった実在の男性は今
メディアだけでなく、『アメヒスX』が“予見的だった”と評する映画ファンは多い。それは本作が“過去に起こった悲劇”を描いただけでなく、社会の構造的な問題を浮き彫りにしている点にあった。
主人公デレクのモデルとなった実在の男性、かつてネオナチ・ギャングに所属していたフランク・ミーンク氏は自身のルーツを受け入れ、現在はユダヤ教徒として反スキンヘッズの講演などを行っているという。
本作は憎悪がいかにして社会全体に広がるかを描きながら、ミーンク氏自身が示すように主人公デレクの変化によって、個人の改心が社会の変化につながる可能性も示唆していた。しかし現実世界で人種的憎悪は再び拡大しており、それを“後押しする存在”を予見することは不可能だ。
『アメリカン・ヒストリーX』©1998 New Line Productions, Inc. All rights reserved.
カジュアルに拡散される過激思想と憎悪を克服する個人の努力
欧米にかぎらず現代社会では白人至上主義や極右思想が再興しつつあり、凶悪なヘイトクライムも起こっている。ネット上で拡散された極端な思想が広まることで政治的な分断も深まり、それが社会の不安定化を招いていると指摘するメディアも少なくない。また、そうした思想が主流政治に影響を与えることで移民政策や宗教的少数派への対応など、直接的に政策に反映されるケースも増えている。
『アメリカン・ヒストリーX』©1998 New Line Productions, Inc. All rights reserved.
もちろん、憎悪を克服する個人の努力が本作の最大のキモである。ヘイト撲滅に身を捧げるミーンク氏のように、弟を何とか人の道に連れ戻そうとするデレクのように、極端な思想を捨てて平和的な活動に取り組む人々の存在は混迷する現代社会の数少ない希望の一つだ。
『アメリカン・ヒストリーX』©1998 New Line Productions, Inc. All rights reserved.
そんな『アメリカン・ヒストリーX』は現在、CS映画専門チャンネル ムービープラスで放送中。公開当時よりも地続きの問題として観ることができる今こそ、そのメッセージが突き刺さるだろう。もちろん、エドワード・ノートンが十数キロも筋肉を増強して挑んだ名演も必見だ。