「これ以上ヴィムらしい映画はない」
監督を務めたヴィム・ベンダースの妻 ドナータ・ヴェンダースと、主人公のトイレ清掃員・平山を演じてカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司の妻 橋本さえ子がインタビューに応じ、映画『PERFECT DAYS』を作り上げた夫に対して率直な気持ちを語った。
「長編映画としては、これ以上ヴィムらしい映画はない」と言い切るのは、自らも写真家として活躍しているヴェンダースの妻 ドナータ・ヴェンダースだ。長編映画を撮るときは、常にプロダクション側の都合を優先してきたというヴィム。結婚して以来30年間、夫の仕事を間近で見てきたドナータは、撮影の都合で、エンディングを最初に撮影する方法に対して「ヴィム本来のやり方ではない」と語る。そんな中、アーティストとしてヴィム作家性を最大限に尊重して製作に望んだ日本のスタッフに対し、「あなたが最も手腕を発揮できる方法こそがベストな方法です」と言ってくれたからこそ、このような傑作が生まれたのです」と最大限の感謝の意を示した。
その他、インタビューでは、長年のキャリアを誇り、世界的に確固たる地位を築いたヴェンダースの「映画全体を絵画として見る」ということについて、また主人公の平山の細かい点がヴィムに似ているということ、またプロデュースの高崎卓馬から受けた、愛と献身的な仕事ぶりに対して「ヴィムもインスピレーションを受けていた」ことなど、いちばん近くで見つめている妻だからこその解像度で、『PERFECT DAYS』の舞台裏を語っている。
「俺、平山じゃないからなあ」
役所広司の妻 橋本さえ子は、端々に役所のつぶやきを織り交ぜて、俳優としての役所の自宅での様子などを語る。本作はドキュメンタリーのように撮影されたが、その平山の生活をシンプルに追った撮影から帰宅した役所について、「目がこっちにもあっちにもついている感じがしてーー普通とは違う神経の使い方だったんだと思う」と当時を振り返る。
撮影前に役所は「俺、平山じゃないからなあ」とふと呟いたと明かすが、毎日のようにツナギを着てすごしたり、庭を掃除したりと「なんとなく気分をそっちの方向に向ける」役作りをしていたという。そして迎えた撮影期間について「みんなの気持ちが一つになって、奇跡的な巡り合い」があったと振り返った。最後に家でもその役のままなのか、という問いに対し、自宅での飾らない役所の様子を披露。役所の魅力を存分垣間見ることができるインタビューとなった。
プロデュースを担当した柳井康治は、インタビューで、トイレから映画に至った経緯を説明。「トイレのプロジェクトをやる前に、清掃がとても大事なことを半分、義務感で」考えていると語り、「形で示す」ことが必要だと思っていたと語る。プロジェクトが始まり、ヴェンダースと話す中で「すっと」腹落ちしたことを明かし、自分の気持ちに気付かされて「すごい嬉しかった」という。
ヴェンダースとのやり取りの中で、得たことが大きかった柳井は、主演の役所に対しても「僕の方が気付かされることが多かった」とリスペクトを捧げ、最後に役所が演じた平山というキャラクターに対し「物事に真正面から対峙をするという姿勢とか、こう、そのありよう身につけられたらいいなぁって思う。何かこう、自分ができてないところはすごい見えちゃうから、憧れというよりかは、う〜ん、 反省の方が多いかも」と、素直な気持ちを明かして締め括った。
『PERFECT DAYS』は絶賛公開中