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斎藤工、『ゾッキ』は「ギリ“失敗じゃない”ライン」を狙った⁉ 竹中直人&山田孝之との共同製作秘話を明かす【第1回】

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ライター:#稲田浩
斎藤工、『ゾッキ』は「ギリ“失敗じゃない”ライン」を狙った⁉ 竹中直人&山田孝之との共同製作秘話を明かす【第1回】
斎藤工

三名優共同監督で『ゾッキ』映画化!

ミニシアター公開ながら4万人動員の大ヒット作となったアニメ『音楽』(2019年)の作者であり、その独特な画風と唯一無二の表現力で絶大な人気を誇る漫画家・大橋裕之の幻の初期作集「ゾッキA」「ゾッキB」を原作に、竹中直人山田孝之、そして斎藤工が監督として共同で制作を行った映画『ゾッキ』が2021年4月2日(金)より全国公開される(3月20日より蒲郡市、3月26日より愛知県内で先行公開あり)。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

今回は、竹中に次いで豊富な監督経験を持つ俳優・斎藤工にロングインタビューを敢行。コロナ禍直前の撮影エピソードや意外なキャスティング秘話、漫画原作映画の難しさから熱気ほとばしる映画トークまで、<斎藤工の映画しゃべり場>とでもいうべき超・濃密インタビューを全3回に分けてお贈りする。

「逆算で“実写化は失敗だった”とギリギリ言わせないラインを目指す」

―竹中直人さん、山田孝之さんとの共同監督である『ゾッキ』が間もなく公開されますが、斎藤さんが本作を撮られたのは新型コロナウイルスが蔓延する前ですよね?

直前ですね。まさに撮影終盤の2020年2月中旬、大橋裕之先生の地元である愛知県蒲郡市で撮ったんですが、隣の地域の病院が例のダイヤモンド・プリンセス号のお客さんを受け入れるというニュースを見て、「すごい英断だな」と思ったことを覚えています。そういうクローズアップのされ方をした地域でもあったので、撮影をしている側の人間としても本当にギリギリというか。

―本作はオムニバスと思いきや共同監督作品とのことで、逆にどう撮っているのかなと。お三方が同時に動くこともあったんでしょうか?

ありました。担当する物語がそれぞれあった上で、重なる/交点がある脚本に倉持(裕)さんが書き直してくれました。キャラクター同士が重なるところはその物語の監督が兼任するので、ラストシーンの会話シーンなどは吉岡美帆さんの演出を竹中さんが、森優作さんの演出を僕がしていたので、セコンドとボクサーみたいな感じで。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

―それは面白いですね。

でもスタッフは一緒なので、現場では撮影の神田(創)さんが三者三様でやっていることのバランスを取ってくれましたけど、むしろパワーバランスとして均一にしすぎなくていいと思っていて。僕は「伴くん」という作品に集中していたので、他の作品を邪魔しないといいな、くらいだったんです。逆に言うと、自分のパートのキャラクターが他の作品を侵食するくらいの力強さというか、漂うものがあってもいいなと。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

それを願って特に僕のパートでは、最初は有名な方々で構成されていたんですが、それではあまりにも“アベンジャーズ映画”すぎる(笑)。『ゾッキ』のプロジェクト自体、他のキャストさんがほぼ決まっていたので「それだとちょっと趣味っぽい映画になっていくな」と。見え方としてよくないし、前情報なく、ある意味まっさらで奇妙な人たちに演じてもらうことが、お客さんにとっては一番親切だと思うので。

たまたま出会った九条ジョー(コウテイ)という芸人さんは、当時まだM1などには出ていなかったんですが、佇まいがあまりにも奇妙で、「伴くんがいた!」って。その日に吉本さんに声をかけて、坊主にしなきゃいけないとかいろんなハードルがあったんですが、「彼だ! 出会った!!」という瞬間があって。そこは大橋先生も、すごく評価してくださいました。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

―大橋さんの世界、あの空気感が、あのキャストでハマったなという感じがしますね。

難しいですね、日本の映画界はマンガ実写化の成功例が決して多いとは言えない、僕自身、大好きなマンガでもあったので。だったら、これは別に竹中(直人)さんや(山田)孝之さんに対してじゃないですけど、「伴くん」っていう一番大好きなストーリーを他の誰かが撮るんだったら、僕が日本マンガの実写映画化の痛い例を見てきた業界人として、極力、傷を負わない方向に考えられないかなと思って作ったんです。ある意味、逆算で「実写化してよかったじゃん」というよりは「失敗だった」とギリギリ言わせないラインを目指すっていう初動の心構えは、不思議と(最後まで)ありました。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

―居酒屋のシーンに大橋さんが出演されていますね。

寝ていただきました、顔が濃いので(笑)。

―そこに違和感がなく、いることがすごく自然だったので、これは成功してるんだなと思いました。

いやあ、そう言っていただけると。同じ時期に、2020年に公開するはずだった若葉(竜也)くんと今泉(力哉)監督の映画『街の上で』(2021年4月9日公開)の共同脚本に、大橋さんが参加しているんですよ。大橋さん自身も主演映画があるくらいだし、彼が本格的に発見されてしまうんじゃないかと、嬉しさと寂しさが両方ある。でも大橋さんの佇まいって、あれもこれもマルチにやってますってことを前に出すんじゃなくて、むしろ“大橋裕之っていう概念”の角度違いなだけで、あの佇まいは今もこれからも変わらない。

竹中さんが漫画に反応したのって『無能の人』(1991年)以来らしくて。確かに、つげ義春感があって、ある種の貧しさとか欠落してるものに生を見出すことに竹中さんが共鳴されて『無能の人』を30代で撮られてるというのが、僕の中ではすごく印象的で。そんな竹中さんが反応したのが大橋さんの「ゾッキ」であったことには、めちゃくちゃ意味があるなと思っています。

『ゾッキ』© 2020「ゾッキ」製作委員会

「そもそも映画は“無駄の美学”を持っているもの」

―監督同士で好きな映画のお話などはされましたか? 例えば、竹中さんに対して切るカードはどんな映画だったのかな、と。

個人的にはジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)を意識しました。あの作品には“区切り”があるんですが、タクシーの中で一つのタームの世界観を紡いでく共通性というか、そういう意識は自分の中にもあって。先日も見直したんですが、非常にキャラ立ちがあるんですよ。アキ・カウリスマキの系譜である、シニカルでオフビートなもので包み込むことによってジャームッシュの世界観になってるんですけど、一人一人のキャラは「少年ジャンプ」のキャラみたいに超ハッキリしたカラーリングなんです。あのイメージが、僕の「伴くん」の中にもありました。「はい、ここからは自分が描くタクシーの中」というか。いろんな意味で「密室を描きます、その中の空気を描きます」っていう意識はありましたね。

―オムニバスというと『パルプ・フィクション』(1994年)などを思い浮かべますが、ジャームッシュはその前に『ミステリー・トレイン』(1989年)も撮っていますし、新しかったですよね。

30代半ばであれを撮っているなんて、新しいですよね。しかも『シザーハンズ』(1990年)直後のウィノナ・ライダーとジーナ・ローランズ(を起用している)。映画スターになるっていうチャンスを当たり前に断るウィノナが、あのタイミングでジャームッシュに出会っていることが、すごく大きい。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)でお母さん役をやっている彼女の奥に、ジーナ・ローランズを感じました(笑)。

―なるほど(笑)。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』はヘルシンキのパートとかも、今思うと役名がアキとミカという完全にカウリスマキのオマージュで、ドライバー役の俳優さん(マッティ・ペロンパー)もカウリスマキ組。ジャームッシュですら独自性とはいえ系譜があって、ちゃんとオマージュをして終わるっていうこととかも、今になってわかることがたくさんある。すごく見応えがありますね。

あと『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986年)直後のベアトリス・ダルも、あの白眼の剥き方とか。目が見えなくても映画を見に行く彼女の「映画は感じるものだ」って言う30年前の言葉にも、このコロナ禍だからこそ余計に劇場での価値を再発見する、胸打つ発見があったりします。

―ジャームッシュもそうだし、シネフィルの系譜ですよね。一度は死語になったけれど、また復活してきている感がある。

YouTubeやTikTokなどのSNSと映画の交点を作ったきっかけとなる若い世代がいっぱいいるので、これは救いだなと思います。“時間”がキーワードだと思うんですよ、損をしない時間の使い方。現代を生きる人間は1日に大小6万個の情報を得て生きてるらしいんですけど、それって江戸時代の一生分の情報らしいんですよ。それを僕らは毎日見ようとしなくても情報が飛び込んでくる。脳の許容をはるかに超える情報を得ている容量オーバーの時代を生きているので、映画や小説における自分の余白、情報を制限すると同時に、映画をたくさん見てきた人間としては失敗しに行くという体験がひとつ映画鑑賞の醍醐味だということも言いたいなと。

これは昭和の古い凝り固まった価値観かもしれないですけど、僕は無駄の美学というのが映画がそもそも持ってるものだと思うので。僕は衣食住に当てはまらない。“無駄の美学”が、映画がそもそも持っているものだと思うんです。ただ、そこに娯楽が詰まっていればいいかといえば、そうでもない。自分の人生がクローズアップからワイドになっていく余白が見えるかどうか。「こんな背景なんだ」とか、自分の置かれている状況をよりワイドにしていくための手段でもある、それが映画。“余白の旨味”に気づくこと。この(取材時に用意された)お茶もそうだと思うんですけど、何気なくペットボトルで買ったお茶なのか、家に常備されているお茶なのか、手間暇かけて飲むものの味を分かりたいっていう、ひとつのきっかけの対価。その価値観を分かっているかどうかなのかなっていうことは、もちろん若い方々が理解されていないわけではないと思いますが、世代的なものはあるのかもしれない。

【第2回】に続く

取材・文:稲田浩
撮影:大場潤也

『ゾッキ』は2021年4月2日(金)より全国公開(3月20日より蒲郡市、3月26日より愛知県内で先行公開あり)

 

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『ゾッキ』

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そして、日々なんとなくアルバイトに勤しむひとりの少年は、“ある事件”が海の向こうの国で起こったことを知る――

制作年: 2020
監督:
出演: