“目に見えない男”の殺意の恐怖!! H・G・ウエルズの傑作を現代的に映画化したサイコ・サスペンス『透明人間』

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ライター:市川力夫
“目に見えない男”の殺意の恐怖!! H・G・ウエルズの傑作を現代的に映画化したサイコ・サスペンス『透明人間』
『透明人間』© 2020 Universal Pictures

あの男が自殺するなんてありえない……財産分与の不可解な条件とは?

真夜中、要塞のような海辺の大豪邸。隣で寝静まる恋人エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)を起こさないよう静かにベッドから這い出るセシリア(エリザベス・モス)。彼女は、光学の科学者で大富豪だが異常なほど支配的なエイドリアンとの関係に嫌気がさし、何ヶ月も前から練っていた脱出計画を今まさに実行しようとしていた。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

しかし、途中で防犯装置が作動。目を覚ましたエイドリアンが追ってくるが、妹エミリー(ハリエット・ダイアー)の助けもあってセシリアはなんとか脱出に成功。親友ジェームズ(オルディス・ホッジ)の家で密かに暮らすことになるが、エイドリアンから受けていた虐待のおかげで、家から出ることもままならない精神状態だった。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

そんなセシリアのもとに、元彼エイドリアンが自殺したという報せが届く。しかもエイドリアンは遺書を残していて、莫大な財産の一部をセシリアに条件付きで分与するという。その条件とは「心神喪失者ではないと医者から診断されていること」。しかし、訃報を受けたセシリアは確信していた。「エイドリアンが自殺なんてするわけがない」……。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

名作・珍作を含め幾度も映画化されてきたH・G・ウエルズの傑作「透明人間」

本作の原案「透明人間」といえば、「タイム・マシン」「モロー博士の島」「宇宙戦争」など著作が繰り返し映画化されているSFの父、H・G・ウエルズが1897年に発表した著作。透明になる薬を開発した科学者グリフィンが元に戻る薬を開発しようとしている最中に理性を失くして大暴れするというストーリーで、『フランケンシュタイン』(1931年)を撮ったジェームズ・ホエール監督の手によって1933年に初めて映画化された。

この1933年版はわりと原作に則っとった形で、ちょっとした悪戯から徐々にエスカレートしていき、電車を脱線させて大量虐殺をしたりして、ついには世界征服を企むというスケールのデカさを誇る。透明人間は何重もの合成や服をワイヤーで吊るといった巧みな特殊効果で描かれ、透明人間を演じている役者の素顔がラストまでわからないという映画ならではの仕掛けも効いている。

そんな「透明人間」も、CG時代に突入すると大進化。2000年の『インビジブル』(ポール・ヴァーホーヴェン 監督、ケヴィン・ベーコン主演)では透明になる過程までもをCGを駆使して見せつけ、挙げ句の果てに透明な手で揉まれるオッパイを丹念に描くなど、進んだ映像技術の無駄使いっぷりに目を見張る作品だった。

しかし、本作はこれまでの『透明人間』とは一味違う。それはセシリアという透明人間の被害者に焦点を当てているということ。エイドリアンの死の報せを受けた後、セシリアは見えない何かの気配を感じはじめる。その一発目が実に上手い。朝食の調理中、フライパンを火にかけ、包丁をテーブルに置き、眠っているジェームズの娘シドニーを起こしに行くセシリア。カメラは誰もいなくなったキッチンを映し続けるが、突然包丁が勝手に落ち、コンロの火は強火になる。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

包丁はセシリアが不安定な場所に置いただけかもしれない。コンロはセンサーで勝手に強くなったのかもしれない。いや、透明人間の仕業かもしれない……。やがて「見えない何か」の存在はセシリアが日常生活をまともに送れないほどの支障をきたす。そしてセシリアは周りの人々に言う。

「光学の科学者だったエイドリアンが何らかの方法で透明になって私に嫌がらせをしている!」

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

スリラーの古典を現代的な視点で鮮やかに蘇らせたのはリー・ワネル監督!

原作や1933年版でも、透明人間に出会った人間は「頭がおかしくなった」と簡単に処理されるくだりがある。透明人間がとある小さな村で大暴れした後、「村人全員、発狂す」と新聞で報道されてしまうのだ。本作はこの部分を女性ひとりに絞り、「あの人は病んでるから」と、周囲から孤立していく被害者を追っていく。これこそが、本作が提示したまったく新しい「透明人間」の描き方で、現代で「透明人間」を題材にした映画を作る意味を考えても、とんでもなく成功している(ちなみにもうひとつ「新しい描き方」があるのだが、これはネタバレになるので割愛)。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

監督は、『ソウ』シリーズ(2004年~)や『アクアマン』(2018年)などで知られるジェームズ・ワン監督の友人で、ジェームズ・ワン作品の脚本や役者としても活躍してきたリー・ワネル。近年は『インシディアス 序章』(2015年)や『アップグレード』(2018年)などの作品を監督してきた。とくに『アップグレード』はテーマ性や撮影方法など本作との共通項も多く、もし未観なら本作の前でも後でもいいので観てほしい1本だ。

『透明人間』© 2020 Universal Pictures

文:市川力夫

『透明人間』は2020年7月10日(金)より全国ロードショー

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『透明人間』

富豪で天才科学者エイドリアンの束縛された関係から逃げることの出来ないセシリアは、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出を図る。失意のエイドリアンは手首を切って自殺をし、莫大な財産の一部を彼女に残した。セシリアは彼の死を疑っていた。偶然とは思えない不可解な出来事が重なり、それはやがて、彼女の命の危険を伴う脅威となって迫る。セシリアは「見えない何か」に襲われていること証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。

制作年: 2020
監督:
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