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ホロコーストを生き延びた祖父母を持つ監督が語る! 脱ネオナチ映画『SKIN/スキン』とレイシズムの闇

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ライター:#BANGER!!! 編集部
ホロコーストを生き延びた祖父母を持つ監督が語る! 脱ネオナチ映画『SKIN/スキン』とレイシズムの闇
『SKIN/スキン』© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

2003年に米国で発足したレイシスト集団<ヴィンランダーズ>の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話を描いた自主短編をきっかけに、のべ7年を要して完成した映画『SKIN/スキン』。イスラエル出身のガイ・ナティーヴ監督が本作で、他人種にヘイトを撒き散らし暴力行為にまで及ぶ筋金入りのネオナチ男性が、自身の過ちに気づき憎悪の坩堝から抜け出そうと足掻く姿を真正面から描き出した。

『SKIN/スキン』© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

自身もホロコースト・サバイバーの孫として差別と向き合ってきたナティーヴ監督に、映画製作の経緯やキャスト、そして根深いヘイト問題や次代に伝えていくべきメッセージについて語ってもらった。

『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

「幼い私にとってのスーパーヒーローはスーパーマンやスパイダーマンではなく、祖父母のようなホロコースト生存者だった」

―短編の『スキン』は第91回アカデミー賞で短編映画賞を受賞し、長編も世界中で公開されて高い評価を得ています。現在の状況をどう受け止めていますか?

短編では子どもたちを起用したことで、観客の心にスッと入って共感を得やすい作品になったのだと思います。どんな風に育てるのか、何を教えるのかがとても大切なことだと伝えたかったので、「自分たちが子どもたちに教えたことは、すべて自分たちに返ってくる」というコンセプトで作りました。差別主義者が、差別というものが何なのかを自らの肌で知っていく物語になっています。

賞を受賞して、この作品が多くの人に届いたことはすごく運が良かったと思っています。私は「No Guts, No Glory(本気でやらなければ栄光は得られない)」という言葉を信じ、映画作りにおいてもリスクを負ってでも大胆な作品を作らなければいけないと思っています。米国の観客の神経に触るような刺激的なトピックに挑めたことで、この素晴らしい結果に繋がったのでしょう。私自身にとって、そして映画作家としても核となるような考え方です。ハリウッド的なメロドラマ系の作品ではなく、より社会的・政治的にリアルなものを、自分の信念を貫いて作っていきたいですね。

―ホロコーストの生存者である監督のお祖父さまとお祖母さまから、どんなことを教わりましたか?

誰にでも寛容であることを学びました。私にとって子どものころのスーパーヒーローはスーパーマンやスパイダーマンではなく、私の祖父母のようなホロコーストの生存者たちだったんです。この作品の脚本を初めて読んでくれたのが、私の祖父でした。自分の家族をみんな殺されてしまった祖父は、唯一の生き残りなんです。そんな彼が「絶対に作るべき映画だ」と言ってくれたので、この作品を誠心誠意作ろうと思いました。映画が完成する前に亡くなってしまったのが、とても残念です。

「レイシスト集団はヘイトというバブルに飲み込まれ昏睡状態に陥っている」

―白人至上主義者だったブライオン・ワイドナー氏がそれまでの自分に疑問を感じ、差別的なタトゥーを除去していく様子を描いたドキュメンタリー『Erasing Hate』(原題:2011年)からインスピレーションを得て本作を作られたそうですね。この作品からどんなメッセージを受け取ったのでしょうか?

彼の“道のり”ですね。実際に起こった話なので、特にブライオンと彼女のジュリーの話にはとても心を揺さぶられました。『Erasing Hate』は彼が改心してタトゥーを除去していく話ですが、『SKIN/スキン』はブライオンがなぜタトゥーを除去することを決心したのかという、そこに至るまでの物語を描いています。

―実際にワイドナー氏と会い、お話をされた時の印象は?

ストリートで学んだ幅広い知識を持った賢い人物です。私は彼と会ったときに、スカイプでイスラエルにいる祖父に繋いで、お互いの体験談を話してもらいました。ブライオンは、ホロコーストの生存者である祖父や孫世代である私の想いを理解し、会って3日目には紙ナプキンに「僕の人生を映画化することを許可する」と書いて渡してくれました。

―残念ながら、かつてのワイドナー氏のように人に危害を加えること/差別することが当たり前だと考えている人が大勢います。このような状況に陥ってしまうのは何故だと思いますか?

ブライオンは、ある種の昏睡状態にあったと思います。酒を飲み続け、ヘイトのバブルに包まれた状態にいた。ヘイトの理由すらわからないし、ヘイトという感情が何なのかさえわからないけれど、そう教えられているから自分たちとは違う人たちに危害を加えるんです。

『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

タトゥーを全身に彫るのは、相対できない、自分自身を直視したくない気持ちがあるからかもしれません。それが、ジュリーや子どもたちと出会ったときに急に覚醒するんです。鏡に映った自らの姿に耐えられなくなり、まるでカルト集団に入っていて、ある日バブルが弾けたように、いま何が起きているのか? ということに気づいてしまうんですね。

『SKIN/スキン』© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

―タイトルにもなっている「SKIN/スキン」は、色、しわ、傷、タトゥーなど、肌にまつわる様々なことを現しますが、この言葉にどんな想いを込めましたか?

素晴らしい質問ですね。見せたいものがあるんです……(数字が刻まれた腕の写真を見せながら)これは私の祖父の腕なのですが、この数字は彼がアウシュビッツにいたときに彫られた囚人番号です。私が「スキン」という言葉を思い浮かべるとき、この腕に刻まれた番号をイメージします。当時、ナチスはユダヤ人の肌にタグ付けするために、タトゥーで数字を刻みました。イスラエルに移ったホロコーストの生存者の孫世代には、彼らに共感するために敢えて自分の腕に同じ数字を彫る人もいます。

「トム・ハーディがハマりそうなタフな男性をジェイミー・ベルが演じる――俳優が持つイメージの逆を狙った」

―本作の主人公ブライオンを演じたジェイミー・ベルは、それまで見たことのない凶悪なルックスと、複雑な性格を持った人物を見事に演じています。役者として彼のどんなところに魅力を感じますか?

『スノーピアサー』(2013年)を観た時にも思ったんですが、とても知的で魂のこもった演技ができる役者ですね。彼だったら感情の幅広い役を演じられると思いました。観客にとっては、ブライオンは共感ができるキャラクターでありながら、一方でモンスターにも見えるでしょう。トム・ハーディがブライオンを演じたら、このタフなキャラクターにピッタリだろうと思いますが、「この役にジェイミーを!?」と感じられるような、本来の役者のイメージとは逆を狙ったんです。

『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

―ダニエル・マクドナルド氏は短編と長編どちらにも出演し、本作では愛情深い強い母親ジュリーを演じています。彼女を役者としてどう評価していますか?

ダニエルが出ている『パティ・ケイク$』(2017年)を観て、とても素晴らしい女優だと思いました。ブライオンが愛する三姉妹の母親ジュリーは、ハリウッドスターのように観客が手の届かない存在ではなく、その世界に存在しそうな、隣の家に住んでいそうなリアルな女性を求めていました。彼女は色っぽくもあり、母親を演じることもできる、色んな顔を見せられる女優です。エゴもなく仕事熱心で、素晴らしい方ですよ。

『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

―『SKIN/スキン』の製作を通じて、ご自身のお子さんたちへの教育について考えたことがあれば教えてください。

それも素晴らしい質問ですね。私には2人の娘がいますが、教えることすべてをスポンジのように吸収していきます。彼女たちに持ってほしい価値観をしっかり教えていかなければいけないと、より強く思うようになりました。それが親の仕事だと思っていますし、価値観を伝えていくことが何より大事なのではないでしょうか。どんなことが危険で、どんなことを大切にしていったらいいのかを教えていけたらなと思っています。

『SKIN/スキン』は2020年6月26日(金)より新宿シネマカリテ、ホワイト シネクイント、アップリンク吉祥寺ほかにて公開

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『SKIN/スキン』

スキンヘッド、顔面に憎悪を象徴する無数のタトゥー。白人至上主義者に育てられ、差別と暴力に生きてきたブライオンは、シングルマザーのジュリーと出会い、これまでの悪行を悔いて新たな人生を築こうと決意する。だがそれを許さない組織からの執拗な脅迫、暴力は、容赦なくジュリーたちにも向けられていく……。

制作年: 2019
監督:
出演: