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シェイクスピアってどんな人だったの? ケネス・ブラナー監督・主演で文豪の晩年を描く『シェイクスピアの庭』

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ライター:#野中モモ
シェイクスピアってどんな人だったの? ケネス・ブラナー監督・主演で文豪の晩年を描く『シェイクスピアの庭』
『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

17世紀の文豪の物語をケネス・ブラナーが現代的な家族ドラマに!

ウィリアム・シェイクスピアはいまからおよそ400年前、16世紀から17世紀のイングランドに生きた演劇人だ。エリザベス1世からジェームズ1世の治世、イングランド国教会が成立しているものの、清教徒(ピューリタン)やカトリックなどのキリスト教宗派間で激しい勢力争いが繰り広げられていた時代である。

『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved

シェイクスピアはイングランド中部ウォリックシャーのストラトフォード=アポン=エイヴォンに生まれ、ロンドンに出て劇作家・俳優として名をあげた。彼の作品は大衆の人気を集め、王権にも引き立てられた。そうして大きな経済的成功と名声を獲得したシェイクスピアだが、1613年、劇団の本拠地としてテムズ川沿いに構えた劇場グローヴ座を上演中の火災で失ったあと、50歳を前に筆を折って故郷へ帰ってしまった。

生まれ育った田舎町に戻り、1616年に52歳で亡くなるまでのシェイクスピアに何が起こったのか。ケネス・ブラナーは、『シェイクスピアの庭』で自ら監督・主演を務め、文豪の晩年を現代的な家族のドラマに仕立て上げた。脚本はイギリスのテレビおよびミュージカル界の人気者、ベン・エルトンが手掛けている。

『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

この映画で、シェイクスピアは20余年ぶりに家族のもとに戻ってくる。18歳で結婚した8歳年上の妻アン(ジュディ・デンチ)と、当時としては珍しく28歳になっても未婚の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)は、当然ながら戸惑い、ときに反発を隠さない。長女スザンナ(リディア・ウィルソン)は演劇を敵対視する清教徒の町医者と結婚している。

シェイクスピアは、17年前に息子(ジュディスの双子の兄)ハムネットを11歳で亡くしたことを悔やみ続けていた。彼はハムネットを悼んで庭園を造ることを思い立つ。ぎこちない人間関係に当惑しながら庭仕事に精を出すうちに、それぞれの秘めた想いと苦い秘密があきらかになっていくのだった。

『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

イアン・マッケラン×ジュディ・デンチ再び! 語り継がれる芸術家シェイクスピア

「シェイクスピア後期のすべての戯曲に、失われた子供たちと、両親との再会、または再会の不可能性が描かれています」とブラナーは語っている。つまり、そこから発想してシェイクスピアが実際に息子を亡くしていたことに注目した物語が組み立てられたということだ。幼くして命を落としてしまう子供の話はどうしたってものすごく悲しくて、この映画も例外ではない。

『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

次女ジュディスは、生きている自分を差し置いて死んだ息子のことばかり考えている父親を責める。それは個別の家族関係の問題だけにとどまらず、遺産相続にも教育にも男子が優先される不公平な社会制度のもとで生き、出産すること、特に男子を産むことを期待された当時の女性の人生の苦しみを浮かび上がらせる。そしてその苦しみは、男は男らしい務めを立派に果たせというプレッシャーともセットになっているのだった。女にも男にものしかかる家父長制の重圧。そこのところに着目しているのは、17世紀のお話でも21世紀の映画だなと思う。そうした苦しみがいまもそこらじゅうにあるということがつらいのだが……。

『シェイクスピアの庭』© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

「かつてシェイクスピアが『ソネット集』で讃えた美青年」とされるサウサンプトン伯爵をイアン・マッケランが演じているのも見どころだ。枯れ葉が色づくイングランドの秋の田園風景も美しい。悲しい物語だけれど、自分が「血は途絶えても芸術は生き残る」ことに希望を見出したいタイプだからか、ケネス・ブラナーのシェイクスピアが「やり手の天才」というより「いい人」に寄せた雰囲気だからか、存外穏やかな気持ちで観終えることができた。

文:野中モモ

『シェイクスピアの庭』は2020年3月6日(金)より横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開

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『シェイクスピアの庭』

1613年6月29日、『ヘンリー八世』(発表当時のタイトルはAll is True)上演中にグローブ座を焼き尽くした大火災の後、断筆したシェイクスピアは故郷へ戻った。20余年ものあいだ、めったに会うことのなかった主人の突然の帰還。8つ年上の妻アンと未婚の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)、町医者に嫁いだ長女スザンナは、驚きと戸惑いを隠せずにいた。そんな家族をよそに、17年前に11歳で他界したジュディスの双子の弟ハムネットの死に取り憑かれたシェイクスピアは、愛する息子を悼む庭を造り始める。ロンドンで執筆活動に勤しんでいた長いあいだに生じた家族との溝はなかなか埋まらなかったが、気付かなかった家族の秘めた思いや受け入れ難い事実が徐々に露わになってゆく……。すべてを知り尽くしていたはずの天才劇作家シェイクスピアでさえ知らなかった驚愕の事実が、彼の家族のなかに潜んでいたのだった――。

制作年: 2018
監督:
出演: