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ナチスに家族を殺された少女は、男と偽り復讐に燃える!『エスケープ -ナチスからの逃亡-』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
ナチスに家族を殺された少女は、男と偽り復讐に燃える!『エスケープ -ナチスからの逃亡-』
『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

ナチス占領家のノルウェーで実際に起こったユダヤ人へのホロコースト

第二次世界大戦におけるナチス支配下のドイツを舞台・題材にした映画は多いが、当時の国王ホーコン七世の旗の下、ドイツ軍に最も激しく抵抗したノルウェーを描いた作品も少なくない。東京・大阪で2019年11月から公開中の『エスケープ ナチスからの逃亡』(2019年)も、そんなノルウェーで平和に暮らしていた少女の逃亡劇と苦渋の決断、そして命がけの“演技”を描いたヒューマンドラマだ。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

最初の舞台となるのは1942年、14歳の少女エスターが家族とともに暮らすノルウェー・トロンデンハイム。女優に憧れるエスターはペットのインコを可愛がり、両親との関係も良好で、友達以上恋人未満な男子もいる、ごく普通の女の子だ。そんなファンタジーみすら感じる平和で牧歌的な日々は、ナチスによるノルウェー系ユダヤ人の強制収容によって、ある日突然崩れ去る。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

突然の外出禁止令や、昨日までの隣人に父親が連行される理不尽と恐怖など、じんわりと迫る占領の描写は、まるで皮膚の下を虫が這い回るような恐ろしさ。雪が吹きすさぶ中ノルウェーから密かに抜け出すもナチスに捕まり、ひとり逃げ延びたエスターが雪山の中で再会した母は、すでに殺され冷たくなっていた……。孤立無援となってしまったエスターを納屋にかくまったのは、近くで農場を営む一家の息子。しかし、彼の一家は親ナチスの差別主義者だった!

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

豪華キャストの中でもひときわ光るサラ=ソフィー・ブースニーナの演技力!

上映開始から30分強で、すさまじい苦行の連続。しかし、エスターは悲観に暮れるばかりではない。理髪師だった父のカミソリで髪を切って少年に変装すると、農場一家と駐屯していたナチス兵たちの前に自ら飛び出し「イギリス軍に両親を殺され道に迷っていた」と偽り、仕事と食事&寝床をゲット。そんな上手いこといくかいな! とツッコむなかれ、ここでエスターが女優を志していた、という設定が活かされるのだ。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

見た目は少年だが中身は女子だけに、手先は器用だし気が利くエスターは農場一家の中で重用されるようになっていく。一家の長であるヨハンを演じるヤコブ・セーダーグレンは、超カメラ固定型サスペンス『THE GUILTY/ギルティ』(2018年)での主演も記憶に新しい、表情一つで映画1本を担える北欧の演技派。さらにナチス兵のハーマンを演じるのは、2020年2月公開の『名もなき生涯』(2019年:テレンス・マリック監督)でナチスの兵役を拒んだ実在のキリスト教徒を演じているアウグスト・ディールという豪華さだ。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

しかし、エスターを演じるサラ=ソフィー・ブースニーナ(1990年生まれ)は20代半ば~後半でこの役を演じているはずだから、それがキャスティングに関しては一番の驚き。ルーニー・マーラ&ホアキン・フェニックス共演作で音楽をヨハン・ヨハンソンが担当した(なのに日本公開がスルーされた)『マグダラのマリア』(2018年)にも出演している、いつブレイクしてもおかしくない期待の北欧女優である。本作の彼女は次第に少年ウーラにしか見えなくなってくるので、猛烈な美女という事実に軽くパニックになる。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

家族を奪ったナチス許すまじ! まさかのリベンジ展開にびっくり

少女が少年になって……といえば、タリバン支配下で迫害される少女の決意を描いたアニメ『生きのびるために』(2017年)の主人公パヴァーナが思い出される。ユダヤ人という理由で命を狙われるエスターと、女性であるという理由で外出できないパヴァーナは、置かれた状況こそ異なるものの、どちらも“生きのびるため”に性別を偽った少女。ただし、本作はまさかのリベンジものに発展するものだから、驚きつつも思わず拳を握ってしまう。まるで『イングロリアス・バスターズ』(2009年)でメラニー・ロランが演じたショシャナのように……とはいかないが、成り行きに乗じて憎きナチスに反撃するのだ。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

冒頭で旧約聖書の詩篇91篇の一節が引用されるが、エスターがラストシーンで取る行動は、そこに綴られている神の行いそのもの。戦争が作り出した敵/味方という状況に拘らず、罠や病(外的な災い)から救い出し、自身の羽(かつての実家)の下で庇護しようというエスターの行いは、いまだ人種問題に揺れる世界に変化をもたらす“赦し”を体現しているとも言えるだろう。

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』© Reliance Entertainment Productions Scandi Ltd

『エスケープ -ナチスからの逃亡-』は劇場発信型映画祭「のむコレ3」にて2020年1月24日(金)よりシネマート新宿、2019年11月28日(木)よりシネマート心斎橋で公開中

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『エスケープ -ナチスからの逃亡-』

1942年、ナチス占領下のノルウェー。14歳のエスターが住む小さな町トロンデンハイムにもついにナチスの手が及び、愛する家族たちは次々と逮捕、殺害される。命からがら逃げのびたエスターは森の中にある農場に匿われる。生きるために髪を切り、男として身分を偽ることを決めたエスターだったが、その家はナチスの協力者だった。辛い労働に耐えながら、何とか脱出の機会をつかもうとするが……。

制作年: 2019
監督:
出演: