今こそ観たい“小さな傑作”!国と国より「人と人」を優しく軽やかに描く『ツーリストファミリー』
笑いと感動を呼び起こす“小さな傑作”
インド発のヒューマン・コメディ映画『ツーリストファミリー』が2月6日(金)より全国公開中。スリランカの平凡な4人家族が、祖国から逃れてやって来たインドで巻き起こす悲喜こもごもの騒動を描く本作は、映画館で予期せず出会いたい“小さな傑作”だ。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
新人のアビシャン・ジーヴィントが脚本と監督を手がけた本作はヨーギ・バーブ以外のスター級キャストはなく、撮影規模的にも紛うことなき低予算映画である。しかし、ご存知『RRR』のS・S・ラージャマウリ監督や、『ムトゥ 踊るマハラジャ』でお馴染みの“スーパースター”ラジニカーントが大絶賛したことから、クチコミによって大ヒットを記録したという背景がある。
Saw a wonderful, wonderful film Tourist Family.
Heartwarming and packed with rib-tickling humor. And kept me intrigued from beginning till end. Great writing and direction by Abishan Jeevinth.
Thank you for the best cinematic experience in recent years.
Don’t miss it…— rajamouli ss (@ssrajamouli) May 19, 2025
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そしてスリランカといえば2022年、外貨不足や巨額債務、減税や農業政策の失敗が重なり、独立後初の債務不履行に陥ったことが広く報じられた。燃料・食料不足や長時間停電が続き、社会不安が急速に拡大。また、1983~2009年の内戦期に迫害や暴力から逃れるため多くの国民が海外へ移住し、その後も経済的理由と重なって流出が続いた。近年は観光業の回復やインフレ沈静化などで経済は持ち直しつつあるものの、債務再編や政治情勢など不安定要因は依然として残っている。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
こうした周辺情報からは、同じく移民を描いた欧州の社会派映画のような予感を抱くかもしれないが、本作はあくまで“日常の悲喜劇”であることを強調し、鑑賞の敷居をぐっと下げてくれる。主人公である移民家族は暗く塞ぎ込んでおらず、そもそも制作側に“やましいことがあるならおとなしくしていろ”みたいな恩着せがましさが一切ないあたりから、人権のなんたるかを踏まえた内容であることは秒で把握できるだろう。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
利己的な現代社会で「映画のメッセージ」を正しく受け取るために
家族が直面するカルチャー(言語)ギャップによる笑いは日本人には難しいところもあるものの、字幕を追っていれば問題はないはず(※言語は最大の伏線でもある)。コントのようなセリフの応酬に思わず噴き出しつつ、その笑いの部分を大きく担っている末っ子ムッリの存在感は脱帽もの。歳不相応なこまっしゃくれ感はときにトラブルから家族を救い、まるで昭和の喜劇映画のような屁理屈ムーブでピンチを乗り越えてみせる。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
長尺が当たり前のインド映画にしては2時間というタイトさだが、まるでTVシリーズのように小さなドラマを緩急をつけながら矢継ぎ早に盛り込み、そのなかで登場人物の感情の動きも見せていく構成なので退屈しているヒマがない。日頃からインド映画に親しんでいる人ならばニヤリとするであろう小ネタもあり(※配給公式Xでも紹介)、とにかく楽しませようという気概にあふれている。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
中盤からは父ダルマダースと長男ニドゥが衝突するが、母ワサンティとムッリを交えることで秒で笑いに転換。お約束的な“歌と踊り”の見せ方も自然かつ新鮮で、かつ小さなロマンスも挟んでみせる巧みさ。そこに不法移民ゆえのサスペンス展開がじわりと距離を詰めてきて、人情を踏みにじる“暴君”の存在を匂わせることで恐怖感もしっかり醸成。どこを切ってもよくできた、練りに練られた脚本だ。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
国や文化を超えた交流だけでなく、より小さな集合体――家族、雇用関係、官と民――の内側にも光を当てることの重要性。本作が世界に届けられることになったのは前述のラージャマウリやラジニからのプッシュが大きかったことは間違いないが、それは彼らもジーヴィント監督と同じく「映画のメッセージを正しく捉えること」を利己的な現代社会に訴えているのだろうと思わせる。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
劇中、ジーヴィント監督自身が登場人物の一人として過酷な境遇を、そして“添え木”としてのコミュニティの重要性を語るシーンは涙なくしては観られない。そこには国(地域)も宗教も社会的地位も関係なく、「人と人」の尊さ、それが起こしうる奇跡が見事に抽出されていた。
『ツーリストファミリー』©︎ Million Dollar Studios ©︎ MRP Entertainment.
『ツーリストファミリー』は2月6日(金)より全国公開中
『ツーリストファミリー』
夜に紛れてスリランカからインドに密入国した一家。夫のダース(シャシクマール)、妻のワサンティ(シムラン)、2人の息子ニドゥ(ミドゥン・ジェイ・ジャンガル)とムッリ(カマレーシュ・ジャガン)の4人だ。スリランカでの貧困から抜け出すため非合法な難民となった彼らは、ワサンティの兄(ヨーギ・バーブ)の助けで、なんとか大都市のチェンナイに居を定める。身分を偽り、言葉で素性がバレない様に近所との接触を控えて、新天地での生活を始めた4人。しかし、素朴で人懐っこい彼らは、職を探し、狭い町内で様々な出来事に巻き込まれながら、次第に周囲の人々との交流が生まれていく。そんな中、テロ事件を追った警察の疑いの目が彼らに向けられる。密入国者として追い詰められた彼らと町の人々が最後に起こした奇跡とは?
監督・脚本:アビシャン・ジーヴィント
出演:シャシクマール、シムラン
ミドゥン・ジェイ・シャンカル、カマレーシュ・ジャガン、ラメーシュ・ティラク
ヨーギ・バーブ
| 制作年: | 2025 |
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2026年2月6日(金)より全国公開中