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「この国で“自分らしく生きる”は罪になる」世界が絶賛した超・傑作ドキュメンタリー『クイーンダム/誕生』

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「この国で“自分らしく生きる”は罪になる」世界が絶賛した超・傑作ドキュメンタリー『クイーンダム/誕生』
『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

世界が絶賛した必見ドキュメンタリー『クイーンダム/誕生』

LGBTQ+の活動や表現が激しく弾圧されるロシア出身のクィア・アーティスト、ジェナ・マービン(本名:ゲンナジー・チェボタリョーワ)を追ったドキュメンタリー映画『クイーンダム/誕生』が、1月30日(金)より日本で公開される。

ツルリとトゲトゲしいクリーチャーのようなコスチュームやメイクを全身に纏い、TikTokやインスタグラムでパフォーマンスを発信しているジェナ。本作はジェナの21歳から23歳までのロシアでの生活やアーティスト活動を記録する過程で下された、ある決断と行動までを追う。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

彼でも彼女でもない、“ジェナという存在”を追う

かつての強制労働の記憶が残る極寒の田舎町マガダンで祖父母に育てられたジェナは、ただ道を歩いているだけでイチャモンをつけられ殴られる。祖母はジェナを見て「うちの孫は変わり者だ」と嘆き、祖父は電話口で「マトモに生きろ」とボロクソに言いながらも、帰郷した孫との時間を名残惜しんでみせたりする。

コロナ禍以降、SNSでジェナの活動を知った者にとっても、本作はパフォーマンスの背景や生活環境を知ることができる、非常に興味深いドキュメンタリーだ。彼でも彼女でもない「ジェナ」はニンゲンを超越した「存在」であり、そのパフォーマンスは超越者ぶるようなものではなく、しかし必然的に“VSロシア政府”になり、ときには自身の心を守る鎧としても機能する。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

フィクションでは太刀打ちできない、現実の恐怖

本作が映し出すモスクワには戦争の空気が充満している。公道を行進する兵士の列、抗議活動に集まる市民たち。そこにジェナは白・青・赤のロシア国旗を模した即席コスチュームで現れ、ただ黙って路上に佇む。それだけのことで学校を退学処分になり、モスクワを離れ故郷マガダンに戻ることになる。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

説明的なナレーションやテロップもなく、構成だけで言えばかなり地味な部類の作品だが、同国のジリジリとした排他的な空気と、それに抗うジェナの頑なさが凄まじい緊張感を生む。やがて本格的に戦争が始まり、かつて私たちが報道で見た“粛清”の様子が映し出される。公共放送から聞こえてくる“刑罰”“処分”の恐怖は、フィクションのスリラーが太刀打ちできるものではない。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

ジェナが国外に逃れようと模索する姿を見て、まだハタチそこそこなのだということを思い出し、その恐怖を想像して胸が苦しくなる。多くの人が名作ドキュメンタリー『チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-』(2020年)を思い出すかと思うが、同じプロデューサーが制作を手がけているというから完全に納得だ。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

自分らしく生きることが命すら脅かす世界

寒冷地に暮らす人ならばマガダンの気候は馴染み深くすらあるだろう。プッシー・ライオットとダブる部分もありつつ、アラスカ出身でトランスジェンダーのSSWクイン・クリストファーソンを思い出す人もいるかもしれない。クリストファーソンが自身のアイデンティティやルーツを歌に乗せて伝えるように、ジェナは全身を使った無言のパフォーマンスで自己表現し、それが結果的に弾圧への抵抗になる。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

もし「クィア」という言葉に馴染みがないのであれば「ドラァグクイーン」として見ればいいし、そこに“ポリティカルな小難しさ”は感じないはずだ。しかし誰もが“普通に”生きるだけで政治性からは逃れられず、ジェナにとってはただ純粋に表現し続けることが“戦い”になってしまった。そして自分らしく生きることが命すら脅かす世界はもはや、どこか遠い世界の他人ごとではない。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

ドが付く田舎町で、だだっ広い雪原をバックにSNS投稿用の写真をスマホで撮影するジェナ。地方都市で暮らしていると、SF映画から飛び出してきたような顔面白塗りのスラリとした性別不詳の人物を二度見なんてしない、とは言い切れない。しかし本作を観たあとには、少なくともジェナの強さと不思議なパフォーマンスの虜になっているだろう。

『クイーンダム/誕生』© 2023 GALDANOVA FILM, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『クイーンダム/誕生』は1月30日(金)より全国公開

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『クイーンダム/誕生』

LGBTQ+の活動や表現が法律で禁じられているロシアに突如現れたクィア・アーティスト、21歳のジェナ・マービン。首都モスクワから約10,000キロ離れた極寒の町で祖父母に育てられたジェナは、幼い頃から自身がクィアであると認識しており、小さな町ではその存在が暴力の標的となった。ロシアではLGBTQ+は「存在しないもの」とされ、その当事者たちは日々、差別と抑圧にさらされている。その痛みとトラウマを、ジェナはアートへと変えた。スキンヘッドにハイヒール、身体を締め上げるテープや有刺鉄線をまとい、“静かな叫び”として無言のパフォーマンスを街に放つ。
やがて、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発。反戦デモに参加したジェナは逮捕され、徴兵の危機にさらされる。逮捕、嫌がらせ、社会からの排除――。それら全てを背負い、恐怖と絶望を超えた孤高のクイーンが誕生する。これは、痛みと美しさを纏ったひとりのアーティストによる、命をかけた表現の記録。

監督:アグニア・ガルダノヴァ
製作:イゴール・ミャコチン、アグニア・ガルダノヴァ
主演:ジェナ・マービン

制作年: 2023