エドガー・ライト監督が「パンクの影響」語る! S・キングとは音楽友達?『ランニング・マン』インタビュー
『ランニング・マン』エドガー・ライト監督インタビュー
ホラー小説の巨人スティーヴン・キングの『ランニング・マン』をエドガー・ライト監督が映画化。より貧富の差が極端になったアメリカを舞台に、殺人部隊に追われる人間狩りゲームのリアリティ番組に出場する主人公ベン・リチャーズ(グレン・パウエル)の闘いを描く。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
原作は過去にシュワルツェネッガー主演で『バトルランナー』(1987年)のタイトルで制作されたが、本作は原作に忠実なまったく別の作品で、大物プロデューサーのダン・キリアン(ジョシュ・ブローリン)ら富裕層との格差もしっかり描かれている。
音楽センスの素晴らしさでも名の挙がるエドガー・ライト監督に、音楽を中心に『ランニング・マン』の世界観について聞いた。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
「キングとは20年以上前から“音楽のことばかり”連絡し合っていました」
――いつも音楽の使い方にすごく感心してしまいます。選曲も素晴らしくて、今回はスライ・ストーン、ストゥージズ、マイルス・デイヴィスにストーンズも使われていました。普段から音楽を聴いたときに映像も考えていらっしゃるのですか? それとも絵作りを考えたときに曲が頭の中に思い出されてくるのでしょうか?
『ベイビー・ドライバー』と『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』のときは音楽から映像がインスパイアされたんですが、今回は原作があったので、作品中の音楽はテーマに合ったものをストーリーに合わせて(共同脚本の)マイケル・バコールと選んでいきました。
『ベイビー~』も『ラスト・ナイト~』も主人公が実際に音楽を聴いていましたが、今回は映画で起こることに共鳴する音楽を見つけていったので、主人公が音楽を聴いているのではないのが、これまで撮ってきた映画と違うところですね。
僕らは何十年間もの間あらゆる音楽を聴いてきましたが、今回選んだ曲はいまだに反響が大きい曲ばかりです。このオルタナティブな2025年(原作の舞台)にあってさえ、ストーンズの「ハートブレイカーズ」にしてもジョン・コンゴスの「He’s Gonna Step on You Again」にしても、ギル・スコット=へロンにしても脚本のテーマに合った曲ばかりなんです。
――本作のクレジットの、70年代パンクのジン(ZINE)のようなアートワークがとても素敵でしたが、原作者のスティーヴン・キング氏も自身の作品にラモーンズやデッド・ケネディーズを出したりしているパンクロック好きとして知られていますよね。音楽の話で盛り上がったりもしましたか?
じつは僕たちが最初にコミュニケートしたのはネットを通じてで、20年か22年前になるかな? 僕が映画を発表して間もないころでしたが、彼が映画についてコメントをくれたんです。驚きました。でもそのときは連絡はせず、『ベイビー・ドライバー』が公開されてからメールを送り合うようになりました。
彼は映画好きだし、ご存知の通りすごい音楽ファンだから内容はほぼ音楽のことばかり。それで彼の誕生日にロック・アルバムを送ったこともありました(笑)。彼がまだ聴いていないかもしれない最近の音楽を送ろうと思って、オーストラリアのキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードの『フライング・マイクロトーナル・バナナ』(2017年リリース)と、最近またサンフラワー・ビーンのEP『Shake』(2024年)を送りました。これがブラック・サバスに影響を受けていて良いんです。
だから『ランニング・マン』が始まる前に、ほぼほぼ音楽ばかりのやり取りがあったわけです。僕が勘違いしているのかもしれないけれど、「ハートブレイカー」にしても最初に歌詞を読んだのはキングの本だったような気がしているんですよ、「ダンシング・ウィズ・Mr.D」だったかもしれないけど……。そう、彼はすごい音楽ファンで、だからあえて詩の話はしなかったですね。僕は彼の本を読んでラモーンズのファンになったんです。
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クレジットについては本当にその通りで、マイケル・セラの役柄(※エルトン・ペラキス役)を革命家タイプというか権威に抗うキャラクターにしたら、ソフィー・パウエル(※『ブゴニア』でも美術を担当)が率いるグラフィックデザインのチームがすごい仕事をしてくれて。マイケル・セラの、つまりエルトンの家のセットに立ったときのことをいまでも思い出せるんですが、「スゲー! このグラフィック、全部スキャンしなくちゃ!!」って言ったんです。映画の中では(パンクっぽいフライヤーが)壁じゅうに貼ってあるんですが、そんなに長く映らない。それがクレジットのインスピレーションになりました。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
「僕たちが映画の中に作り上げたディストピアでは、人生は明らかに不公平です」
――この映画が人々に共感されるのは、主人公に権力になびかない反骨心があるからだと思うのですが、そうした造形にはやはりパンクロックの影響がありましたか。
もちろん。主人公のベンには愛嬌もありますが、状況と運命の流れから行動するしかなくなる。彼は行くところがない人間です。単に権威に立ち向かうだけじゃなくて、彼自身が不公平だと思うことに対して立ち向かうんです。
エドガー・ライト監督、グレン・パウエル 『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
そして僕たちが映画の中に作り上げたディストピアでは、人生は明らかに不公平です。彼らの生活は貧しい。ベンは命令される側としてプログラムされた人々の一人です。彼は抑圧者に立ち向かいますが、映画の世界では罰を受けてしまいます。こうして番組に出る羽目になるわけです。彼らはベンが短気だと知っていて、不公平な状況に陥らせて怒らせておいて彼から搾取するんです。
映画の最初のほうのシーンで、登録ブースでカウンターの男がベンを怒らせるためにわざと苛立たせます。彼が感情的になったらすぐに上の人間、おそらくはダン・キリアンが彼を連れて来いと言うわけですよ。ダンは権力側で、番組を動かしている。ベンはシステムに抗って孤独だと感じていたけれど、ストーリーが進むにつれて自分は孤独ではないと発見するところが重要なんです。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
――監督もパンク的であることを重要視されますか? 人間性の醸成に影響を受けたと思われますか?
そう思います。こういう音楽には何かすごいものがあるし、かなり影響があるんじゃないでしょうか。ソウルミュージックからも影響を受けています。両親も音楽好きで、最初に音楽を好きだと思ったのは両親のレコードコレクションを聴いたときです。でもティーンになると両親が好きじゃなさそうな音楽を聴くようになりますよね。僕が好きだと思う音楽には、そういう要素があるといつも思います。衝撃的な曲が好きなんです。
ザ・フーやピクシーズを聴いたときのことを覚えています。「何だこれは! 何が起こってるんだ!」って感じで、成長してもやっぱり大好きですね。たぶんもう十分成長してると思うんですが(笑)。子どものころ<トップ・オブ・ザ・ポップス>とかを見ていて――イギリスでは有名なメジャーな音楽番組なんですが――メインストリームど真ん中の曲の間にパンクバンドが出たりするんですよ。ABBAとかバックス・フィズなんかのポップスの間に、ザ・ラッツの「バビロンズ・バーニング」がかかったりするんです。「待てよ、何だ? 何が起こってるんだ!?」って、こういうことはたぶん少年期の僕にすごい影響があったと思います。
「キングは映画での結末の変更を気に入ってくれました」
――いまリアリティ番組が人気だったり、SNSでの相互監視が話題になっていますし、富裕層によるメディア・コントロールもアメリカ大統領選で問題になったりしていて、この映画が描いている世界には、まさに私たちの世界が反映されていると思いました。しかも原作に忠実ですが、唯一ラストシーンだけが原作と違います。原作ほど悲惨にしなかったのはなぜですか? 原作の結末は9.11を思い起こさせるからでしょうか。それとも、もっと人間的な主人公のあり方を提示したかったのでしょうか。
はい、意識的に変えました。誰かに“変えろ”と言われたわけではないんですが。じつはスティーヴン・キングは脚本を変更する権利を持っていたんですが、面白いことに、この結末の変更をとても気に入ってくれました。原作は本当につらい、9.11に似た部分がありますが、作品のテイストとして原作通りの結末にはしなかったんです。世界は壊れかけているし、あのタイミングでは怖い場所になっていますが、良いエンディングだったと思います。火災と怒りよりも、革命の火花が起こるほうが、変化の兆しを描くほうがいいと思いました。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
お話しした通り、キングは僕らが変えた結末を喜んでくれたんです。原作を書いていた1973年、彼はすごく怒りを感じていたし、映画化を意識していまの時代の観客の気持ちを考える必要もありませんでした。だから復讐の炎を革命の火花に変えたアイディアが喜ばれたんです。
主人公のグレンも同じ感じで、原作ではあまりポリコレな人間ではないし(笑)、そのまま取り入れたくない部分も多かった。ミソジニーっぽいところもあって嫌われそうな、原作通りのキャラクターにはしたくなかったんです。そういう要素は取り除いたけれど、怒りっぽさは残しました。だから短気ですぐ怒るキャラクターなんですが、原作の粗野なところは抑えて希望が持てるようにしました。グレンの演技は素晴らしいと思いますし、そこを楽しんでほしいですね。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
「原作が出版された1982年のテクノロジーを使って、僕らのバージョンの2025年を創ろうとした」
――映画では未来らしいガジェットを出さず、ドローンなども手を加えればどこかにありそうなものになっています。ですが通常SF映画には未来的なガジェットがつきものですよね。たとえばシュワルツェネッガー主演の『トータルリコール』(1990年)の顔認証システムのように、すでに実装化されているものもあります。逆にエルトンの家のようなアナログ的、サイバーパンク的なガジェットが目立ったのですが、好みの問題でしょうか。それとも権力者が監視に使いそうなものを増やしたくなくて、あえて用意なさらなかったんですか?
その理由は二つあります。アイデアはすごくシンプルで、上流階級の人間が住んでいるエリアにあるものは未来っぽくシュッとしていて、テクノロジーも目立つし機械も完璧に動く。けれど、町の反対側はすべてが古ぼけていたり壊れたりしていて、行政も機能せず人々はいまだに公衆電話を使ったりしている。
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これは良い意味で言うんですが、実際に「アップタウンは東京みたいに、ダウンタウンはイギリスやアメリカみたいにしよう」と言っていたんです(笑)。褒め言葉ですよ。でも日本に来ると、「わっ! 全部ちゃんと動いてる!!」って感じで(笑)、テクノロジーが先進的で何でもちゃんと動く。東京にいると、いつも未来都市に来たかのように感じます。でもロンドンや、ニューヨークやロサンゼルスでは同じようには言えない。そんなふうに二つの世界を分けたのが理由の一つです。
エドガー・ライト監督 『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
もう一つの理由は、レトロフューチャーっぽくしたかったということ。原作は1972年に書かれて1982年に出版されましたが、キングは物語の舞台を2025年にしました。彼の想像では顔認証やドローンがあって、映画の中ではスマートフォンを持っている人間もいるけれど、そういう人々は上流階級寄りなんです。ダウンタウンではスマートフォンは全然見かけない。ベンと彼の妻はそんなものを買う余裕はなくて、廊下で公衆電話を使っています。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
原作にもいろいろ出てくるんですが、アナログなものばかりです。それで僕らもレトロフューチャーっぽく……テリー・ギリアムが『未来世紀ブラジル』(1985年)で、40年代のテクノロジーを使って80年代にディストピアを描いたのと同じようなことをやってみたんです。40年代といえば、ジョージ・オーウェルが「1984年」を出版した年なんですよ。それなら僕らは(スティーヴン・キングの)原作が出版された1982年のテクノロジーを使って、僕らのバージョンの2025年を創ろうとしたんです。
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何が面白いって、最初のバージョンでは“空飛ぶ車”についても話していたんですよ。『ブレードランナー』(1982年)には空飛ぶ車が出てきますよね。『ブレードランナー』を連想させずに空飛ぶ車を使えるのか? と思って、「よし、ダウンタウンでは別のことをやってやろう」と思ったんです。(近未来は)EV化されているはずなのに、作品上のスラムではまだガソリンを大量消費する車が走っている。そしてアップタウンでは、80年代の車をより未来的に仕上げました。それでレトロフューチャーっぽい2025年がほとんどオルタナ現実みたいになったんです。
『ランニング・マン』©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
――ありがとうございました。カーアクションもとても素晴らしくて、エドガー監督らしいと思いました。
やればやるほど簡単になる、というわけには絶対にいかないのがあの種の撮影でね。いつも本当に大変なんです。ああ、ずっと話し続けてしまいそうだな。ありがとうございました。
取材・文:遠藤京子
『ランニング・マン』は1月30日(金)より全国ロードショー
『ランニング・マン』
職を失い、娘の治療費に困るベンは、巨額の賞金が得られるというリアリティショー「ランニング・マン」に参加する。しかしその実態は、殺人ハンターの追跡に加え、全視聴者すら敵になる、捕まれば即死の30日間の"鬼ごっこ"、生存者ゼロの究極のデスゲームだった。
監督:エドガー・ライト
出演:グレン・パウエル、ジョシュ・ブローリン、コールマン・ドミンゴ、マイケル・セラ ほか
| 制作年: | 2025 |
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2026年1月30日(金)より全国ロードショー