ホラーよりも恐ろしい?戦争“完全再現”映画『ウォーフェア 戦地最前線』をスクリーンで観るべき理由
映画『ウォーフェア 戦地最前線』の衝撃
「またアメリカが主導した戦争の話か」とスルーするなかれ。あらゆる映画メディアや辛口レビューサイトで軒並み高得点を叩き出している『ウォーフェア 戦地最前線』(1月16日より公開中)は、A24の自由な制作環境のもとで英国人監督アレックス・ガーランドが作り上げた、ある意味スリラーやホラーに近い映画でもある。
そんな本作だが、一定のポジションからのメッセージを一切乗せていないため、明確な「反戦」を前提に観ると肩透かしを食うかもしれない。そのうえで、今こそ観るべき戦争映画であり、大スクリーンでの鑑賞を激推ししたい作品でもある、その理由をざっくりと紹介したい。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
「兵士の証言」を再現した映像に身体が“反応”する
2024年制作の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で“起こり得るアメリカ内戦”を描き出したアレックス・ガーランドと共に共同監督を務めたのは、『シビル・ウォー』にも軍事アドバイザーとして参加した、元SEALs隊員のレイ・メンドーサ。つまりメンドーサ自身が体験した戦闘を、大規模な予算を投じて、徹底的に“いち兵士たちの視点”で再現したのが本作『ウォーフェア』というわけだ。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
正直、実際の戦地を知らない我々が言う“リアル”に意味はないかもしれないが、それでも鑑賞中に感じるビリビリとした緊張感、脂汗がじわりとにじむ感覚は、戦争の疑似体験に対する生理反応であり、本能による危険信号と言えるだろう。事実であることが補強する矢継ぎ早の恐怖は、そのへんのホラー映画の比ではない。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
そして本作は「音響」も凄まじい。戦争映画では定番の、爆発や近距離での銃撃シーンでの“耳鳴り”演出が、実際の経験として観客にも襲いかかる感覚。とくに爆発音は4D上映かと錯覚するかもしれないほどズシンとくる重低音なので、やはり劇場での鑑賞が好ましい。色々と圧迫感がすごいので、約1時間半というタイトな上映時間も大正解だ。
破壊された人体、血を浴びる鉄と砂……戦地のリアル
戦争映画である以上、ノンフィクションであっても“プロパガンダ”批判はつきものだ。しかし本作の端々に映し出される諸々は証言ベースであるがゆえに、過去の様々な戦争映画の答え合わせにもなっていて、大量の血が吸い込まれた砂と鋼鉄、そこらじゅうに散らばる四肢がすべて真実であることに改めて衝撃を覚える。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
ウィル・ポールター、コズモ・ジャーヴィス、マイケル・ガンドルフィーニ、ノア・センティネオ、ジョセフ・クイン、キット・コナー、チャールズ・メルトン……有名キャストの出演がかろうじて劇映画であることを意識させるものの、根本の緊張感は揺るがない。そして観客に時間経過をリアルタイムで共有させるなか、やかましく飛び交う軍事用語にストレスを感じ始めた頃には、“俳優”の存在を忘れている。
映画的な“タメ”もほとんどないまま、一つの手榴弾が放たれたことをきっかけに事態は急展開を迎える。戦闘のパニック状態のなか繰り返される兵士たち個々の判断とミス。エモーショナルなストーリー展開は一切なく、大きくシーンを飛躍させることもなく、ただただ兵士たちの証言を順繰りに映像化していったかのような、過剰なまでのリアル。
刻一刻と変わる状況のなか、常に命の危険にさらされ右往左往する若者たちは、映画のなかの“勇ましい兵士”の姿とは結びつかない。もちろん彼らをあえて無様に描いているわけではなく、実際の元兵士たちによる「私はこのとき、ここでこうした」といった証言に基づいた再現であり、すべては極限状況下で導かれた結果でしかない。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
「反戦」「愛国」「理由」を排除した、事実のみを突きつける戦争映画
史上最高の戦争映画と称される『炎628』や、巨匠スピルバーグがゴア描写満載で挑んだ『プライベート・ライアン』、そして『ブラックホーク・ダウン』に 『ジャーヘッド』、『ダンケルク』、『1917 命をかけた伝令』、『西部戦線異状なし』などなど“戦争の真実”を描いた名作は多い。本作と同じくイラク戦争を描いた『アメリカン・スナイパー』と『ハート・ロッカー』は、いずれもアカデミー賞を受賞している。
しかし、誰もが抱くであろう「一体なんのためにこんなことに首を突っ込んでるんだっけ?」という疑問を振り払うための“愛国”は、戦争の“大義名分”が覆された状況では機能しない。では、真の意味での愛国が世界中で崩壊しつつあるいま、元兵士たちが作り上げた戦争映画は何を訴えるのか。
戦争の“目的”どころか、兵士たちが全うしようとする任務についての詳細すら省いた本作が突きつけるのは、人間が作り出した殺戮兵器の恐ろしさと、戦地を覆う狂気のみ。それは単純に“命がけの過酷すぎる仕事”と言い換えても成立するだろうし、もはや疑似ドキュメンタリーに近い構成だ。
『ウォーフェア 戦地最前線』© 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
どんなスタンスで観ても言い訳が許されない、かつて実際に行われた戦闘。唯一メッセージらしきものとして、ある登場人物が最後に放つ怒り、切実な問いかけが苦い余韻を残す。もし戦争に勝者がいるとすれば、それは「戦争をしないこと」だけなのだと、この恐ろしい戦争映画を観て強く思う。ぜひ映画館の大音響で「体験」してほしい。
『ウォーフェア 戦地最前線』は2026年1月16日(金)より全国公開中
『ウォーフェア 戦地最前線』
<極限の95分、映画史上最もリアルな戦場に、あなたを閉じ込める>
2006年、イラク。監督を務めたメンドーサが所属していたアメリカ特殊部隊の小隊8名は、危険地帯ラマディで、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務についていた。ところが事態を察知した敵兵から先制攻撃を受け、全面衝突が始まる。反乱勢力に完全包囲され、負傷者は続出。救助を要請するが、さらなる攻撃を受け現場は地獄と化す。本部との通信を閉ざした通信兵・メンドーサ、指揮官のエリックは部隊への指示を完全に放棄し、皆から信頼される狙撃手のエリオット(愛称:ブージャー・ブー(鼻くそブーの意))は爆撃により意識を失ってしまう。痛みに耐えきれず叫び声を上げる者、鎮痛剤のモルヒネを打ち間違える者、持ち場を守らずパニックに陥る者。彼らは逃げ場のない、轟音鳴り響くウォーフェア(戦闘)から、いかにして脱出するのか。
監督・脚本:アレックス・ガーランド/レイ・メンドーサ
出演:ディファラオ・ウン=ア=タイ ウィル・ポールター ジョセフ・クイン
コズモ・ジャーヴィス キット・コナー チャールズ・メルトン
| 制作年: | 2025 |
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2026年1月16日(金)より全国公開中